恐怖が準備を始めた
教国を目指して旅を続けて早一週間が過ぎ、2週目へ突入した。
この面子での初めての野宿はハラハラドキドキの初夜だったけれど、スゥ様専用の鉄鎖のお陰で何事も問題無く旅を続けられている。
鎖に皮膚が食い込むほど力を込めて解こうとしてたのは引いたけどね。
あの子の執念は少し恐怖が混じってる。
念の為にアルフに鉄鎖を追加して貰えるか頼んでみよう。
アルフが快く了承してくれたところで一つの町までやって来た。
教国へと続く国境一歩手前の町でここを治める辺境伯のお屋敷に泊めてもらう予定。
てっきり宿かと思ってたけど、よくよく考えれば王族二人に公爵一人、あと一応聖女が一人。
自分が統治する場所で何か起きたら大変。辺境伯さんの心労的負担を軽減すると考えれば屋敷に泊まるのが無難だろう。
町へと入り、わいわいと活気と賑わいに満ちた通りを抜けてお屋敷へ。
貴族に仕えるメイドや執事はどこでも一緒なのかな、そういう決まりでもあるのかと思うくらいずらりと出迎えてくれる。
馬車を降りるとメイドと執事で出来た道から何人か人が現れた。
年齢がバラバラで子供から大人まで、辺境伯一家かな。小さな女の子と男の子がお母さんらしき人の後ろからチラチラとこちらを窺ってて小動物みたいで可愛い。
ニコリと笑って手を振ったら隠れちゃった。ただの人見知りだよね?出会ってすぐに嫌われる筈が無い……と思いたい。
「………もうお姉様ったらタラシなんだから。」
「ん、なにか言った?」
「いえ、何も言ってませんよ。」
プイッと小さく頬を膨らませ余所を向くスゥ様。
あれ嫌われた?鉄鎖で簀巻きにし過ぎたかな。
挨拶を交わせば辺境伯一家だと判明しました。
聖女でも平民出の俺をどう見るかと思ったけど、馬鹿にすることもなくむしろちゃんと聖女として敬られた。
貴族至上主義じゃなくて良かった。
挨拶もそこそこに屋敷へお邪魔。
本当は早速この町でも治療したいと思ってたけどアルフが駄目と言う。
外はもうすぐ夕焼け小焼け。
これから始めたら真っ暗になるまで終わらない。
俺が構わなくても護衛の人達の負担を考えると明日に持ち越し。
今日は休暇で明日はしっかり仕事をしますかね。
そして、いつの間にやら夕ご飯。
夕飯になるまでアルフを含む大人組は屋敷の談話室で今後の打ち合わせを兼ねた話し合い。聖女な立場の俺も参加すべきだろうけど、残念ながら頭脳はまだまだ子供で体も子供な俺にはちと難しいと自己判断。
大人しくスゥ様や辺境伯家の子供達と遊んどきます。
でも、すぐにハブられた。
何故かって?
談話室から離れた位置にある広間に着いた途端、この国の王女が辺境伯の次男くんと長女ちゃんの肩を掴んでこそこそと隅で話し始めたからだよ。
俺もどうしたのと近づいたけど内緒話ですからと距離を置かれたんだよ。
泣いてないよ。
この中では一番年上なお姉さんだもん。
泣いてないよ。
本当だよ。
俺はメイドが夕飯の知らせを伝えてくれるまでいじけてないけど、床を指でずっとなぞってましたいじけてないけど。
目頭に溜まった汗を拭ってご飯を食べに行こう。
この時、聖女はいじけて気づいていなかった。
お姫様が自分よりも年下の子供達に聖女は私の嫁と教え込んでいたことを。
そして、今晩愛する夫(聖女)と愛を育みたいから協力を求むと願い出たことを。
純真無垢な子供達がとりあえず元気いっぱいにはーいと返事したことを。
悪夢の夜更けは近い。




