思い。
この話はボーイズラブです。苦手な方はご注意ください。
僕、音成恭介。
高校に上がり、偶然にも一目惚れしました。
その相手は先生――西條浩之先生。
英語の先生である。
第一に見た目が好きになったのは、否定しないけど(一目惚れだし)、第二に好きになったのは先生の人柄かな。
僕は、自分で言うのもなんだが。
まぁ、いわゆる優等生。……英語以外はね。
ほかの教科は毎回90点以上取っていた。
でも、英語は毎回30点弱。赤点ぎりぎりだ。
英語は中学のときから苦手で、高校に入ってもさっぱりよくわからなかった。
そんなときだったかな。
先生が、僕に個人補習をしてくれるって言ったのは。
嬉しかったな。
勉強が好きっていうのもあったけど、何よりも、好きな人――先生が、僕のためにしてくれるってことだろう。
次の日から補習は始まった。
先生は厳しいけど、わかりやすく教えてくれた。
そのおかげで、どんどん点が上がっていった。
今では50点以上、点が取れるようになっている。
点が上がるたび、ほめてくれるのが嬉しくて。
先生に会えるのが嬉しくて。
毎日わくわくしながら、補習に行ってたんだ。
でも、そんなある日。
「もう補習はいらないだろう」
って先生が言ったんだ。
50点以上取れてるし、俺が補習する必要がないって。
それを言われた瞬間、僕の頭におもりがのったような気がした。
補習がなくなるなんて思っていなかったから。
先生ともっと話がしたい。
先生と離れたくない。
先生とずっと一緒にいたい。
だから思いっきり告白したんだ。
「好きです」
って……。
――その答えは思った通り。
「バカなこと言ってるんじゃない」
ってさ。
でも僕はめげなかった。
補習がなくなっても、三年生になった今でも、僕は先生に告白を続けている。
そして今日も僕は先生へ、アタックしに職員室に来ていた。
「西條先生。これラブレターです」
僕は先生にラブレターを渡した。
そしていつもの台詞を!
「先生、大好きです!!」
すぐに先生の声が飛んだ。
「ふざけるな。俺はそんな趣味はない」
「趣味とかの問題ではなく、僕はただ……って、いったぁい!?」
先生のゲンコツが降ってきた。
しかも、容赦なく叩くから結構痛い。
「ふざけてないで、勉強しろ。勉強を!!」
そう言って職員室から出て行ってしまった。
――これは僕の日課のようなもの。
毎日ラブレターを昼休みに、渡しに職員室にいくのだが、僕の告白を聞いて、すぐにどっかに行ってしまう。
これでも結構、僕は満足しているんだ。
だっていつも僕に会うのは嫌そうなのに、ラブレターだけはいつも受け取ってくれるんだ。
…それだけでも、僕は幸せだった。
ある日、僕はいつもと同じように職員室に向かっていた。
「失礼します」
職員室に入った。周りを見渡すが先生の姿はない。
いつもこの時間は、絶対いるのに……。
そう思っていると、学年主任が僕に話しかけてきた。
「西條先生なら、生徒指導室だよ。もう相談の時間は終わっているから、行ってみるといいよ」
「ありがとうございます」
主任に一礼して、職員室を出ようとしたとき。
「音成くん。今日も御苦労さま」
今度は教頭先生に声をかけられた。
「いえ。自分は好きでやっているので。……いつもすみません。こうゆうことで職員室に来るのは良くないと思っているのですが……」
先生達に迷惑かけているはわかっているけど、告白する方法がこれしか思いつかなくて……。
自嘲気味に言うと、教頭先生が首を横に振る。
「それはね。最初は思ったよ。勉強する場なのに勉強が捗らなかったらって。でも音成君はよく頑張ってるし、このごろは英語も良くなってるって聞いてるよ」
「ありがとうございます」
「それに、西條先生のこと本気に好きなんだって、音成くんのことみてればよくわかるから」
教頭先生……。
なんか嬉しい。
迷惑にしかなっていないと思っていたのに。
教頭先生がそんな風に思っててくれたなんて…。
「僕だけじゃないよ。他の先生も……ほら」
周りを見渡すと他の先生もうんうん、と頷いている。
……いい先生達だなぁ。
普通だったら怒ってもおかしくないのに。
西條先生の迷惑になるって。
逆に周りの先生は、僕を応援してくれる。励ましてくれる。
『あとは先生だけわかってくれれば』
「今日も頑張ってきます!!」
先生達にそう宣言して、職員室を出た。
生徒指導室は一階にある。しかも薄暗い所にあるから、あまり人通りもない。
だからよく生徒指導室からの声が廊下に響く。
「西條先生。お疲れ」
「お疲れ様です」
先生が、僕のクラスの担任の日向先生としゃべっているのが聞こえる。
生徒指導は終わっているみたいだ。
じゃあ、入ってもいいっか。
とドアを叩こうとしたとき……。
「あっ西條先生。知ってます?音成のこと」
「音成がどうしたんですか?」
えっ!僕の話題?
……なんか入りにくいなぁ。
ドアを叩くのをやめ、入りやすいタイミングを待つことにした。
「音成、昨日告白されてたんです。男の子に。本当によくモテますよね」
えっ、どうしてそれ日向先生知ってるんだ?
疑問はすぐに解消された。
「昨日、偶然校庭裏で告白されてるの見ちゃったんだよね」
そうゆうことか。
まっ、僕は先生一筋だし。もちろんお断りしましたよ。
「西條先生、妬きました?」
日向先生が揶揄うように言った。
僕は先生の声がよく聞こえるように、ドアに耳をくっつけた。
「妬くわけないですよ」
わかっていたけど、その答えに少し傷つく。
「いつもラブレターくれるんですけど、迷惑なんですよね。職員室にきて告白されるのもそうですが、恥ずかしいんです」
どの言葉も俺の胸をグサリっと刺さる。
「でも、先生。毎回ラブレターもらってるじゃないですか」
日向先生は茶化すように言う。
「嫌だけど、しつこいからもらってるんです」
続けて、先生から告げられた言葉は、とても残酷なものだった。
「それに俺。音成の手紙、読んだことないんですよ。いつもすぐにゴミ箱に捨ててるんですよ」
………。
………。
ひどい……。
ひどいよ…先生。
読まないで捨てるなんて。
…それだったら。
読まないで捨てるぐらいなら。
ラブレターを拒否された方が、まだマシだった……。
2年間半、いつも一生懸命書いていたラブレター。
少しでも先生は読んでくれてると思っていたのに……。
少しでも気持ちが伝わればって書いたのに……。
……僕は。
……僕は先生に、少し期待していたところがあったのかもしれない。
いつも「ふざけるな」とか、「勉強しろ」とかはよく言われた。
でも「嫌い」「気持ち悪い」なんて一回も言われたことがなかったから。
少しでも好意をもってくれてるのかなぁって。
頑張れば少しずつでも好きになってくれるのかなぁって。
思っていたんだ。
そんな考えが甘かった。
全然違った。
――先生の迷惑だった?
――僕の存在が邪魔だった?
――僕の好きって気持ち全然伝わってなかった?
そう思うと、涙が――。
「先生、それは――」
先生達はまだ話しているみたいだけど、僕の耳には何も入ってこなかった。
もう、聞く気力がなかった。
このままずっと聞いていたら。
――僕がボロボロに壊れてしまいそうだから……。
だから僕は、その場から逃げだした。
――僕は、具合が悪いと言って早退した。
もちろんそれは嘘。
次の授業が英語だったし、先生に会いたくなかったから。
会って普通にしてることができないと思ったから。
家に着いて即行、自分の部屋に行き、ベットの中にもぐりこんだ。
親は共働きで今、家にいない。
だから、早退したことに気付かないだろう。
「うぅ……っぅ…」
さっきから涙が止まらない。何度も涙を拭ってもまた落ちてくる。
悲しいってもんじゃない。
絶望。
……これを失恋っていうのかな。
こんなに辛いんだ。失恋って…。
別にこれが初めての失恋ってわけじゃない。
先生の前にも好きになった人は何人かいたんだ。
だから失恋したこともある。
でもこんなに辛い失恋、初めてだ。
それほど。
僕はこの恋に本気だったんだ。
≪迷惑≫
その言葉を言われなかったから、僕はずっと先生に告白してきた。
でも、ついさっき言われてしまった。
――もう潮時なのかなぁ。
僕はもう2年半もずっと先生に恋してきた。
でも気持ちは伝わらなかった。
この恋がかなう見込みは、ないだろう。
あぁ〜もう!!
こうなったら、とことん泣いてやる!!
明日は元気に、学校に行けるように。先生に笑顔で会うために。
そして。
『先生のことを、全部忘れられるように』
全部流しつくしてしまえ!!
と、思ったときだ。
『ピンポーン』
チャイムが鳴った。
誰だよ、こんな時に。僕は失恋したばっかりなんだ。
今はだれとも会いたくない。
そう思い、僕はベットの中から出なかった。
『ピンポーン ピンポーン』
まだ鳴らし続ける。
煩い。
それでも僕は、居留守を決め込んだ。
だが。
『ピンポン ピンポン ピンポン ピンポン』
まるでピンポンダッシュのようだ。
あぁっもう!!
この煩さに、耐えられなくなった僕は玄関に向かった。
一応涙は止まったが、泣いてるあとが残っているだろうと思い、僕は下を向きながらドアを開けた。
「お前、大丈夫か?」
頭上から思いがけもしない声がした。
えぇ……。先生?
顔をあげてみると間違いなく、西條先生だった。
でも、どうしてここに?
「お前、今日は一人か?」
「あっはい。親は共働きなので」
「そうか。なぁ、お前の部屋に案内してくれ」
突然のことで混乱してる僕をよそに、先生はそそくさと僕の家に上がりこんでしまう。
「お前の部屋はどこだ」
「えっと、そこの角を曲がったところですって……痛いですよ!!先生、腕引っ張らないで」
先生は僕の腕を強く引っ張り、僕の部屋に連れていく。
部屋に着いたが、先生は僕の腕を放してくれない。
「……」
「……」
沈黙が耐えられなくなった僕は疑問を口にする。
「先生?どうしてここに来たんですか」
「お前が早退したからだろう」
それは本当の答えじゃない。僕は確信していた。
だって先生は担任じゃないし、主任でもない。それに先生は、授業があるはずだ。一人の生徒が早退したからって家にくる必要もない。
ここに来る理由はないはず。
先生がここに来た理由。なんとなく予想はついていた。
一度も早退したことない僕、しかも好きな先生の授業に来ないとなると、不思議に思うだろう。
そして、周りの先生にいろいろ聞けばすぐにわかるはずだ。
さっきのことを僕が聞いていたって。
でもこれは、僕から言うことじゃない。先生から聞きたい。
ねぇ?どうして先生はここに来たの?
僕は目で先生にそう訴える。
先生観念したかのように口を開く。
「お前、あの話聞いてただろう」
うん。
僕は頷いた。
「職員室に戻ったら、いきなり音成の話になってさ。何のことだって聞いたら。音成、さっき生徒指導室に行ったでしょう?って言われて血の気が引いた。もしかしたら、あの話聞かれたかもって」
うん。聞いたよ。全部。
「案の定。授業いったらお前がいなかった。日向先生と相談して、俺も早退にしてもらった。」
……それで先生は何を言いにここに来たの?
迷惑ってハッキリ言いにきた?
もう近付かないでって言いにきた?
それだったら、早く言ってよ。
僕が泣く前に。格好悪い姿を見せる前に。
「ごめんな。あんな言い方して」
思っていた言葉と違って、僕は目を瞠る。
こんなにやさしい言葉を聞いたの初めてだ。
……やばい。
「あっ、謝らないでください。僕、もう決めたんです。先生のこと諦めるって。だから僕の前から消えてくれませんか?」
僕の腕をつかんでいた、先生の手を無理やり離した。
ひどいことを、言ってるのはわかる。
先生は早退してまで、僕に謝りに来たのに。
でも、僕はもう限界だった。
あんなにやさしい言葉かけられたら、涙が出てきそうで……。
「それはできない。俺がしっかり答えを出さないから。意地を張ってるから。お前をこんなに泣かせて……」
さっきまで泣いていたのが分かるぐらい、僕の目は赤いらしい。
「それだったらさっき言ったように、僕の前から消えてください。もう先生に、これ以上格好悪い姿、見せたくないんです!!」
「嫌だ!!」
先生は勢いよく、僕に抱きついた。
えぇ……?
なんで?
なんで先生が僕に……。
「ごめんな。俺がいままでしっかり言わなかったのがいけない」
どうゆうこと?
僕は先生の顔を見た。
先生は真剣な顔をしていて、僕にこう言った。
「好きだ」
……。
………えっ?
「今なんて……」
「何度でも言うよ。俺は恭介が好きだ。お前の思いを聞いてるうちに、受けているうちに、好きになっていた」
「嘘だぁ……」
先生が言ったこと信じられなくて、僕はそういった。
「嘘じゃない。本当だ」
先生は力強く、僕を抱きしめる。
「本当はもっと早く、この気持ちを言いたかった。でもお前は生徒で、俺は先生だからって躊躇っていたんだ」
先生は、真摯に語ってくれる。
でも、僕はまだ信じられなかった。
引っかかっている言葉があるから。
それを正直に言ってみる。
「でも、先生。僕のラブレター、読んだことないんでしょ?捨てたんでしょ?」
先生、そんなことして僕が信じると思ってるの?
僕をいったん離した先生は、自分の鞄をあさり始めた。
そこから一つの大きな缶を出した。
缶詰の缶ではなく、お菓子の箱のようだ。
それを先生は開けた。
そこに入っていたものは……。
「僕が書いたラブレター?」
「そう。恭介が書いたラブレター」
なんでこれがここに?
だって先生は……。
僕が言いたいことがわかったのだろう。先生は話し続ける。
「嘘ついて悪い。俺はお前の手紙、一枚足りとも捨てたことないし、読んでいないものもない」
それだったらなんで。
「僕が書いたラブレターを、捨てたなんて言ったんですか?」
先生は気まずそうに口を開く。
「維持張って、大人ぶっただけ」
先生は恥ずかしいのか、饒舌になっている。
「ラブレター毎回もらった後に、トイレに行ってすぐにラブレターの内容見てることが、ばれないようにって」
結局ばれたけど、と付け足した。
それって。
「他の先生にはバレバレだったみたいだ。俺が恭介のこと好きってこと」
えぇ!!!
そんな。そんな。
じゃあ先生達は僕を、僕たちを見守っていてくれたの?
……ありがとうございます、先生方。
心の中で先生達に、お礼をした。
「……先生。1つお願いがあるんです。我が儘、聞いてもらっていいですか?」
先生は頷く。
「僕は先生のことが好きです。先生も僕が好きだというのなら、証に先生を僕にくれませんか?」
―――それを言った瞬間、涙が落ちた。
まだまだ、不安なんだ。怖いんだ。
ねぇ?
だから、僕を安心させてよ。
先生が僕のことを好き、って証明してよ。
お願い……。
それが通じたのか、先生は力強く抱きしめてくれた。
「あげる。じゃあ、恭介も俺にちょうだい」
先生は甘えるようにそう言った。
うん、あげる。先生になら全部あげるよ。
「せんせぇ……」
「恭介……」
僕と先生はキスを交わした。
暖かくて優しいキス。
でも、どこか激しい思いがあるキスだった……。
――それから、僕と先生は僕が書いたラブレターを読んだ。
僕は恥ずかしいからダメって言ったんだけど、先生がどうしても一緒に見たいって言うから。
強く言い返すことが出来なくて……。
もう、先生にメロメロです!!
………ねぇ、先生。
僕はもう先生から、離れられないと思うんだ。
だから先生も僕のこと、離さないでね?
まぁ、僕は。先生のこと、一生離す気なんてないけど。
こんにちは。彩瀬姫です。
初の短編です。
書き方がわからず、だらだらと書いてしましました。
アドバイスいただけると嬉しいです。