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第二幕


「おはよう、赤鬼君。」


「青鬼どん!き、今日は、だ、大丈夫かなぁ?」


「あぁ、加減しちゃ駄目だからな?」


「ぅ、うん…。」



翌朝青鬼は赤鬼の家を訪ねた。そして昼まで何度も何度も打ち合わせを繰り返し、青鬼は村へと向かった。


突如現れた青鬼に人間は驚き家の中へと逃げ込んだ。青鬼は使われていないような井戸や農具を壊し、腹が減ったと声を上げた。人間たちは小さく固まり恐怖に震えていた。


青鬼は逃げ遅れた小さな子供を掴み上げる。母親が泣きながら名前を叫んでいたが他の村人に止められて青鬼に近付くことが出来なかった。青鬼は小さく蚊の鳴くような声で“ごめんね”と囁くと子供の着物を裂いた。母親の絶叫が聞こえる中、赤鬼が駆け付ける。


青鬼から子供を取り上げると力任せに青鬼の頬を殴った。青鬼は勢い良く地面に倒れ込む。赤鬼の心配そうな表情に気付くと青鬼は睨み付けた。友達だと知られてはいけないと叱るように無言で訴えた。



「…ゃ、やい青鬼!この村は俺がま、守る!誰も傷付けさせない!」


「お前だって鬼じゃないか。人間に怖がられてるんだろう?」


「それでも俺は人間が好きだ!絶対に守ってみせるぞ!」


「出来るものか!」



少々芝居がかった台詞であったが、恐怖に(おのの)く人間たちは全く気付いていなかった。


青鬼が子供に伸ばした手を赤鬼が振り払い、その勢いのまま青鬼を突き飛ばす。赤鬼に触れられたのと同時に青鬼は軽く後方に飛んで強さを演出した。わざとらしくはあったが、よろよろと立ち上がると青鬼は捨て台詞を吐いた。



「ぅわ!こ、この…二度と来るもんか!」


「ぉ、一昨日きやがれ!」



逃げるようにその場を離れる青鬼の背中を赤鬼は小さくなるまで見詰めていた。子供の母親が駆け寄り子供を抱き締めながら何度も何度も頭を下げていた。他の村人も赤鬼を敵ではないと判断したのかぞろぞろと集まってきた。子供たちにも遊ぼうと誘われ大人たちにも好意的に話し掛けられて赤鬼は舞い上がっていた。


子供に手を引かれて広場に案内される際、青鬼の消えた方へ視線を向けたが青鬼の背中は見えなかった。



「遊ぼう!赤鬼さん。」


「駒回ししよう!」


「あやとりだよ!」



子供たちに囲まれて赤鬼は本当に嬉しかった。青鬼に感謝をしながら子供たちと遊んだ。








「赤鬼君…、ごめんね。ずっと、友達だよ。」



村を出た青鬼は赤鬼の家の扉に額を宛てて小さく小さく呟いた。名残惜しそうに扉を撫でると赤鬼の家に背を向ける。青鬼は自分の家に向かい、荷物を手にすると固く扉を閉めた。



「甘いな、染藤(そめふじ)は。」


「大事な友達ですから。」


「ふぅん。…赤鬼は子供たちに囲まれてる。楽しそうに遊んでるよ。」


「良かった。……いたっ!なんで!?」



青鬼を待っていたかのように現れた夏雪(なつゆき)にふわりと微笑んで見せると、思い切り脹脛(ふくらはぎ)を蹴られた。意図が読めずに困惑する染藤(そめふじ)夏雪(なつゆき)は刀を差し出した。



「お前のだ。もう、折るなよな?」


「……はい。」



染藤(そめふじ)は苦笑いを溢しながら差し出された刀を受け取り腰に差す。それを見た夏雪(なつゆき)は地を蹴り木々を渡って行く。染藤(そめふじ)も一度家を振り返って見てから同じように跳躍し木々を渡り遠ざかって行った。







日が暮れるまで子供たちと遊んでいた赤鬼は家へと帰った。子供たちとたくさん遊んで満足した赤鬼は家の中に入ると直ぐに台所に立った。青鬼にお礼の食事を作ろうとしたのだ。浮かれ気分で料理をし、煮込む時間にお茶を飲もうと囲炉裏(いろり)に近付いてやっと手紙の存在に気付いた。





『親愛なる赤鬼様



人間と仲良くなることに成功しましたか?これからも人間と仲良く過ごして下さい。


俺と友達だと知られてしまうと、前のように君は怖がられてしまうことと思います。


だから、別の山に引っ越すことにしました。今まで仲良くしてくれて、ありがとう。


離れていても、君を友達だと思っています。どうかずっと健やかにお過ごし下さい。



                                     青鬼』





赤鬼とは違う、丁寧で綺麗な文字で(つづ)られた手紙には季節外れの藤の花が添えられていた。赤鬼はやっと理解した。青鬼と芝居をするということはこれからずっと、…生涯青鬼と過ごす時間などなくなるということに。


人間と仲良くなることには成功したが、大切な大切な友人を失ってしまった赤鬼は泣いた。大声を上げて泣いた。手紙を握り締めて、わんわん泣いた。来客に気付かぬほど哀しみに暮れ泣き続けた。

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