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えるふれんず!  作者: 振部東
序幕
3/3

ファンタジーな夢?

長いです。しかも主人公が悪あがき(?)します。

 周囲が、ひとの話し声で騒がしい。その上、何を言っているのかが理解できない。

 そして、視界が暗い。これは瞼を閉じているのだとすぐに分かった。

 そこでようやく疑問が生じる。

 駅のホームからおちて、電車に撥ねられた筈なのに、と。

 生きているのだとしたら、助かったのか?

 しかし、体が上手く動かない。瞼も異様に重い。


 と、思った矢先、視界が一気に明るくなった。

 そして、信じられない光景がそこにあった。


 駅のホームから落ちたが助かった。そして体が上手く動かないということは、助かってもそれだけの大怪我でもして、病院に運び込まれるなりしたということだと考えたのだが。

 しかし病院ではなく。知らない天井、それですらなく。

 視界に入ってきたのは、木。木の枝。そして夥しい緑の葉。

 樹齢が軽く四桁はいっていそうな、空を見る隙間がない大樹の枝の下はまるで広いドームのようでもある。


 何だこれ。


 思考がしばらく停止し、なんとか頭を動かそうとして、出てきた言葉はこんな程度。

 瞬きも忘れて大樹を凝視する。


(なんで?電車に撥ねられたよね?なんで??)


 奇跡的に生きていた、としても、病院にいる筈。

 まさか、実は死んでいて、葬式場だか火葬場にいるのだろうか。

 できれば葬式の最中のほうがマシだ、と思った。生きていると誰かに気づいて欲しい、と思った。今まさに火葬されそうで、動けないのは棺桶に入れられて花でいっぱいになっているからなのだとしたら最悪である。

 そこまで考えて、どうにかして周囲の状況だとか自分の状態だとかを確認したいと、体を動かそうとする。

 視界の端に、ぱたぱたと振れるやたらと小さい「手」が見えた。

 …赤ん坊の手だ。紅葉のような小さな小さな手。

 それが、自分の動かそうと思った通りに動いている。


「あう、あうっ、ぁあーーー!!?」


 本人としては、「なんじゃこりゃあ!!」と叫んだつもりであったのだが、出たのは赤ん坊の叫び声。いや、叫び声というには少々情けない声量か。


(ちょっとまって何コレ何、何、マジ意味わかんないなにこれ)


 頭の中は一気に混乱した。

 口では「ちょ、ちょ、ちょ」とか言っているつもりなのだが、実際にでるのは「お、おょ、おっ」であった。


「うあああ゛ああっ、ああぅっ!」


 誰か、と本人は叫びたいのだが、やはり口から出るのは舌足らずな赤ん坊の声。顎も、そして喉も、うまく動かず思った通りに声が出ない。

 混乱を極める頭、まともに働かない思考、まともに起き上がれずパタパタと手が動くだけの体。


(あ、あ、あ、そうだ、これは、………夢だっ!!)


 唐突に思考がそこに行きつく。

 あまりのあり得ない展開に、そう考えることで冷静さを取り戻そうとした結果であった。


(そう、これは夢!だって直前は駅のホームにいたもん!そこからどういう経緯でこんな大自然溢れたとこに行くの!?しかも赤ちゃんになってるし!だから夢!!そうに決まってる!)


 夢だと自覚して見る夢は確か明晰夢といったか、と記憶と知識を総動員して思考を冷静な方へ持っていく。


 高校生になって、入学して一週間ほどしか経っていない。たしか高校生活で二回目の月曜日だった筈だ。

 まさか、本当は駅のホームから落ちたのも夢で、自分はまだ目覚めていないのではないか、まだ自分の部屋で、布団の中では?

 そう考えることで、今の状況になんとか納得しようとする。


(じゃないと…だって…)


 現在の目の前のファンタジーな光景に説明がつかないではないか。


 赤ん坊の泣き声を聞きつけたのだろう、やって来たひとたちの姿が、金曜ロードショーだったか、映画特番チャンネルだったか、動画サイトの実写合成の映像だったか、とにかくそれらで見たような姿をしているのだ。

 耳が、人間のものよりわずかに長く、尖っている。


「■〇□〇〇☆〇*?」


 そして、何を言っているのか全く分からない。

 なんとなく、さっき騒がしかったのはこの人たちか、と理解はできた。

 言語だというのはわかるが、しかし聞いたことのない言葉で喋る、人に似てはいるが微妙に違う姿の存在。体格は人間でいえば大人。


 幼少期に、祖母と行った公民館の図書コーナーに置いてあった、外国の児童文学の本を思い出した。

 外国の文学作家が、子ども向けに書いた小説を、日本語訳した書籍。

 あの本に、こんな感じの姿を描写した種族が登場していたような。

 確かその種族の名前は……“エルフ”であった、気がする。

 しかしその本を見かけたのはもう10年程は前で、その上ちゃんと読んだわけでもない。なんとなく目についた本を手に取って、ぱらぱらとページをめくって挿絵があるページの文を読んだ程度だ。

 それがどうして今になって夢に出てくるのだろうか??


(まあ夢だから、何が起きても不思議じゃないかもだけどさ)


「…〇●、□◆●〇□◎☆◇◎★、▽ΘΦ●◎Θ§…?」


 やってきたのは、二人。その二人とも髪が日本ではまず見られないような鮮やかな赤色である。

 そして、おそらく女性と男性だと思われるが、どちらも目が覚めるような美人である。


(おお…まるで外国のスーパーモデル…)


 女性の方(だと思う)におもむろに抱き上げられ、そして無表情のままゆらゆらと拍子をつけて揺さぶられる。

 あやしているつもりなのだろうか。それにしては、とても無表情である。あやされているような気がしないし、それどころか少し怖い、と感じる。

 無反応のまま、女エルフをじっとみつめていると、僅かに、ほんのちょっとだけ困ったように見えなくもない表情になった。

 泣き止んだと判断されたのか、元の場所に戻される。

 そして、首になにかかけられた。白く見える金属の鎖だった。タグのようなものが通されてあって、何か文字と思しきものが刻まれているが、やはり意味は解らない。

 もう一人の、男性だと思う方へ目を向ける。

 女性より頭一つ半ほど背が高く、いくらか肩幅が広いので男性だと思う。しかし顔は二人とも中世的な顔立ちなので、文化系の女子と体育会系の女子だと言われればそうとも見える。

 そしておそらくこの二人は兄弟か姉妹か、とにかく血のつながりがあるのだろう、髪と目の色が二人とも全く同じ色合いなのだ。

 瑞々しいイチゴのような赤の髪に、銀色の瞳。これだけでますますファンタジーじみている。

 背の高いほうは、しばらくこちらを心配そうな、ハラハラして成り行きを見守るような目を向けていたが、泣き止んでおとなしくなったので安堵したのか、そのうちほっといて二人で話し始めた。


(赤ちゃんをほっとくなよ!中身は高校生だけどさ!…夢とはいえひどくない?)


 何を話しているのかも全くわからない。日本語でも、英語でもないのは確かであるが。5W1Hだとか少なくとも聞き取れる単語があるはずなのに、それが全くない。英語の授業のようにゆっくりとしたものでないとしても、である。


(私の夢のくせに、意味わかんなさすぎるだろっ。ああもう、早く覚めてくれないかな…。夢なのに疲れてきた…)


 いつまでこの夢は続くのだろうか、と思い、(こっち)で目を閉じたら現実で目を覚まさないだろうか、と考え、目を閉じてみた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 再び目を開けるが、さっきまでと同じ光景のままである。

 その上、目を閉じている間にエルフの数が増えた。それも二人。これで計四人になった。

 今度はどちらも男性だと判る。背が高く、鍛えているとおぼしきがっちりとした体格。そして、やはりというか、耳が尖っている。

 二人とも赤い髪だが、片や燃える火のような明るい赤、片や神社の鳥居のような朱色といった方がいい赤である。

 朱色の髪の方が、目を向けられているのに気付いたのか、こちらの方にやって来た。チャラそうな印象のイケメンである。興味深そうに見てくる目は、吸い込まれそうなマリンブルー。

 笑っている。子どもが好きなのだろうか。

 かと思えば、もう一人の方を向いて、大声で呼んだ。


(赤ん坊の近くで大声出すなよ!びっくりしたじゃんか!非常識か!!)

「うえぇ、あぅぅ…っ」


 不機嫌を表そうと声を出すが、ぐずるような声になってしまった。ままならないものである。

 しかしその声にハッとして、慌てだした。そして抱き上げる。


(…あ、さっきのお姉さんよりはあやし方が上手かな?)


 リズムよく揺さぶられているのがなんとなく楽しい気分になってきて、手が勝手にぱたぱたと動き出した。あやされているうちに、結構長めの髪がひと房、手に触れた。


(あ、勝手に…)


 するとなぜか指が勝手にその髪を握りこんでしまった。


(おおぅ、サラサラ。なんというキューティクル。男の人の髪なのに、すごい羨ましい……っ)


 もともとの、高校生だった時の自分の髪は癖っ毛で、長いと邪魔に感じるので短めにしていたの。なので正直、まっすぐで滑らかに指が通りそうなこの髪がとても羨ましく思える。

 髪を掴まれて困るかと思いきや、青年のエルフは苦笑して、今度は穏やかな声でもう一人を呼んだ。

 呼ばれて、どこか不機嫌そうな顔でやって来たもう一人の青年エルフは、やはりというか美形である。


(眉間に皺が寄った美形って、迫力あるなぁ…)


 不機嫌そうにしているのは、先ほどの兄弟か姉妹かと思われる二人と話し込んでいる時に二度も呼ばれたからだろうか。

 宝石のようなコバルトブルーの色の瞳は、赤ん坊の自分ではなく抱き上げている青年エルフの方を向いていて、こちらに一瞬向けられた瞳は不機嫌というより苦手なものを見る目であった。

 大声ではないが、何かを早口で言っている不機嫌そうな美形と、抱き上げてからずっとそのままのイケメン。

 そのうち、イケメンの青年エルフが何か悪戯いたずらを思いつい少年のようなものになり、自分の腕にある赤子をぐい、と目の前のもう一人の青年エルフに抱かせた。


「…◎●っ!」

「▽▲△▽◎☆〜!」


 いきなり赤子を腕に預けられて慌てる青年と、無理矢理押し付ける形で赤子を抱かせてニヤニヤするイケメン。

 第三者として外から見れば、微笑ましく見えたかもしれないが、あっちこっちと動かされた当人としては「赤ちゃんで遊ぶな!殺す気か!」と抗議したかった。言葉が通じないかもしれないが。そもそも赤ちゃん言葉しか口から出ないが。

 さっきまで抱き上げられていたチャラいイケメンの青年エルフに対し、こちらの青年エルフは真面目そうな雰囲気。きりりとした精悍な顔立ちである。チャラいイケメンの髪を、小さな指を一本一本優しく解いて離させる。

 そして今度はじっとこちらを見る。


(え、なんでそんなにじっと見てくるの…て、ああ)


 もう片方の手が、今度はこの真面目そうな青年の髪を掴んでしまっていた。

 こっちの髪も世界が嫉妬しそうなキューティクルである。


(え、赤ちゃんのコレって、無意識にやっちゃうの?わぁぁああ、ごめんなさいお兄さん!わざとじゃないんです!)


 真面目そうな顔立ちが、困ったような表情になる。

 それを見て、チャラいイケメンが面白がるように笑う。

 この二人、もしかして仲が良いのだろうか。


 しばらく髪を握って困らせたままでいると、銀の瞳の二人がまたこっちへやって来る。

 ひょいっ、とチャラいイケメンが真面目美形の腕から取り上げて、元の場所へ戻した。どうやら布の敷き詰められた籠か何かに寝かせられていたらしい。

 青年二人は背筋を伸ばし、啓礼なのか、右手を胸に当てて銀目の二人に頭を下げた。真面目美形の髪を握ったままなので、少々絵面が間抜けである。


(ごめんなさい…ほんとうにごめんなさい…)


 銀の目の背が高い方はその様子を見て「イインダヨー」とでも言ってそうな苦笑である。

 どうやら銀の目の二人は青年二人より偉いようだ。

 銀目の背が高いほうが、青年二人に何か指示を出しているようで、その場の全員が真面目な顔である。


(それにしても、いつになったら覚めるんだろう…)


 古典か何かの本で、物凄い昔の詩人が「白昼夢で、ある人間の一生を生きる夢を見た。生まれてからおいて死ぬまでの夢だった」みたいな詩だか歌だかを書いたのを見たことがあったかも。これも映画の中の話だったか。

 この夢は、それかもしれない。

 だとしたら、かなり長い夢になるかもしれない。明晰夢としてみるには疲れそうだ。起きた時の疲労感を想像して、うんざりする。


 …どうか夢であって欲しい。


 そうでなければ…そうでもなければ………。




 あれが、最後の瞬間なんて、嫌だ。


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