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異能研  作者: 大和
9/51

過去

朝。

体がだるい。どうやら昨日の疲れが残っているようだ。

「おはよう海心。」

眠い目をこすりながら階段を降りると

「おう海斗。おはよう。」

「やあ海斗くん。おはよう。」

朝食を準備している海心の前の、僕の席に支部長がいた。

「なんでいるんですか!?」

「海心に用があってね。」

「はあ……。」

支部長が海心に?そういえば知り合いだと言っていたが。どんな用なのだろう。

「まあ君にも関係することなんだがな。とりあえず朝ごはんにしようじゃないか。」

僕は何か嫌な予感がして海心を見る。海心もあまり元気そうじゃない。ジッと一点を見つめて、中華鍋を振っている。

「ごちそうさまでした。」

朝食が終わると、僕と支部長は家を出た。

「海心に用があったんじゃなかったんですか?」

「海心の用は君が寝ている間に終わらせてしまったよ。次は君に用があるんだ。」

僕は海心の顔を見た。

「行ってこい。」

海心はいつになく真剣な眼差しで僕を見つめ、送り出した。

「行ってきます。」

僕達はしばらく街を歩いた。

「海心には、君にあることを話す許可をもらったんだ。」

「それが用事ですか?」

「そうだ。」

そう言って支部長はマンションの前で止まった。

なんの変哲も無い普通のマンションだったが、僕はなぜか懐かしく感じた。

「覚えているか?」

僕はここにきたことがあるのか?

「いえ、ただなぜか懐かしさを感じますね。」

「当たり前だよ。ここは君が昔両親と住んでいたマンションだからな。」

「え!?」

「そしてここがその部屋だ。」

支部長は二階の一番奥の部屋まで来ると、僕に鍵を渡した。

「今は私が管理している。ここで聞いてもらいたいことがあるんだ。」

ドアを開けると、そこには夢で僕が俯瞰で見ていた部屋そのままの光景があった。椅子やテーブル、ソファ、花はもう飾られていないが、窓際に飾ってあった花瓶も全てがそのままだった。

「ここで何を聞けばいいんですか?」

「君のこれからに必要不可欠なことだ。」

支部長は椅子に座り、僕も向かいの椅子に座った。

「君のご両親であり、私の良き友人であった2人は、13年前、ここで異能力者に殺された。」

「異能力者に……。」

「そうだ。しかもただの異能力者ではない。かつて誰も手を出せず、AROでさえも近づくことが出来なかった最強最悪の異能力者だ。やつに出会ったなら、戦ってはならず、その場から逃げ切ることを最優先に動かなければならない。でなければやつは、必ずその者の命を奪う。」

「そ、そんな奴が……。でも海心は犯人は逮捕されたって!」

「それは嘘だ。彼は嘘をつくことを大いに嫌ったが、君にだけは嘘をついた。全て君を守るためだ。わかってくれ。」

「じゃあ……。」

「私達はまだ犯人を捕まえることができていない。」

「そんな。」

鼓動が激しくなる。苦しい。吐き気がしてきた。

「君の両親は、やつの調査をしていた。そしてやつに近づきすぎた故に、命を奪われた。やつは神出鬼没なうえに、殺害方法も不明。ただ一つだけ分かっているのは、やつは殺した者の眼球を取り去っていくこと。君の両親は」

「もうやめてください!」

もう聞きたくない!と言いかけて僕は言葉を失った。

支部長はテーブルに置いた拳を震えるほど握りしめ、噛み締めすぎた唇は血が滲み、怒りに満ちた両目からは大粒の涙がボタボタとこぼれ落ちていた。

「本当にすまない!! 君の両親を奪ったのは、我々だ。どんなに責められても、何をされても、私はどんな報いでも受ける。だが! 犯人は必ず捕まえる。もう少しだけ待って欲しい。」

支部長の覚悟は、僕に固く決意させた。

「待てません。」

待つのなんてごめんだ。

「しかし!」

「しかしも何もありません。そいつは今日から、僕が逮捕することに決めました。」

僕はもう何も出来ないわけじゃない。

「今、なんと言った?」

「だから、そいつは僕が手錠をかけて、僕が島へ連れて行きます。父さんと母さんの任務は、俺が引き継ぎます。」

「危険だ。」

「支部長、報いなんて受けなくていいです。ただ僕にこの任務を命令してくれれば、僕はあなた達をゆるします。」

これは僕のすべきことだ。誰にも止めることなんてできない。

「君の目は、母親そっくりだな。その目は、何が起こっても道を見誤らない目だ。声は父親そっくりで、その一言一言は、人の心をいとも簡単に動かしてしまう。」

支部長は苦笑し、

「最強最悪の異能力者、通称"死煙"の逮捕を君に命ずる。絶対に遂行してみせろ!海斗くん!」

僕に任務を与えた。

僕は背筋を伸ばした。

「了解!」

帰り道、僕は一人で歩いていた。

シャッター街を点々と続く街灯の明かりに沿って歩いていく。

立ち止まって目を閉じる。

すると、まだ歩けるようになって間もないような子供が、両手を両親に引かれてヨタヨタと歩いているのが見えた。

ポケットに突っ込んでいるはずの両手から、二人の手のひらの感触が蘇る。

また歩き始める。

家に着くまで、涙は止まらなかった。







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