初任務(2)
支部長について僕達がやってきたのは、大井町高校の最寄駅、大井町駅の駅前公園である。ここは近くにはコンビニが一件あるだけのローカル駅で、夜になるとほとんど人通りがなくなる。
ここで女子高生が失踪したらしい。
「このコンビニの防犯カメラで撮影された映像が彼女の最後の姿ですので、この辺りが犯行現場で間違いないと思われます。」
「よし、この公園で待ちかまえよう。川崎、頼む。」
「はいっ!」
川崎先輩が支部長と厚木先輩に触れると、2人が見えなくなった。
「では厚木、行ってこい。」
「わかりました。」
2人がいた空間からそんな会話が聞こえた。作戦が開始されたようだ。
「それでは私達も移動しましょう。」
白川さんと部長と僕は、川崎先輩より少し離れた物陰に隠れて犯人を待った。
現場はすぐに動いた。
「お嬢ちゃん1人?1人でこんなとこいちゃ危ないよ?」
年齢は20歳前後だろうか。
パーカーのフードを深いところで被り左の手の甲に蛇の刺青のある小柄な男が、川崎先輩に近寄ってきた。
「だ、大丈夫だす! お構いなくっ!」
川崎先輩は泣きそうな声で言ったが、相手はニタニタ笑いながら川崎先輩に近づいて来た。
ピリついた空気が漂う。
次の瞬間、川崎先輩が何かに縛られたように動かなくなった。
「ひゃっ! 何これ!?」
川崎先輩が驚いている間に男は川崎先輩めがけて飛びかかった。右手にはスタンガンを持っている。
「ぐへへっ痛いのは一瞬だからね!」
「きゃあ!」
「うごっ!」
川崎先輩に飛びかかった男は、目を見開いて空中で静止した。よく見ると鳩尾の辺りが痛々しく凹んでいる。
「能力の発動を確認した。お前はこれからおれが言う質問に答えろ。川崎、厚木、解いていいぞ。」
「怖かったぁ……。」
川崎先輩が能力を解くとちょうど男が浮いている下から支部長が現れた。固く握られた拳が男の鳩尾にめり込んでいる。
「あれ? 厚木先輩〜?」
「ここだよ。」
支部長のすぐ横から厚木先輩の声が聞こえた。
「あーここにいたんですね! ていうか何で教えてくれなかったんですか! 気づいてたんでしょ!」
「何度もサインしたのに気づかなかったのは川崎の方でしょ。緊張しすぎて調査もなんもできてなかったじゃん。」
「うう。」
川崎先輩が厚木先輩を元に戻し、全員で男を囲み。逃げ場をなくした後で、支部長が尋問を開始した。
「名前は。」
「……。」
「なぜこんなことをした。」
「……。」
「誰かに雇われたのか?」
「……。」
男は何も答えず、ただニタニタ笑っている。
「どうしますか?一応"島"に連絡を入れて起きます。」
白川さんが電話をかけ始めた。裏の社会で犯罪を犯したものは、ある人工島に幽閉されるらしい。軽犯罪で、再犯の可能性が低ければ、戻って来られるが、ほとんどの場合犯罪を犯した者は、一生を島で終える。裏社会のルールだ。
「お前らは一つ勘違いをしている。」
突然、男が喋り出した。
「どういうことだ。」
「俺はここに1人で来たわけじゃない。」
「なんだと!」
僕以外の全員が身構えた。
対応の遅れた僕を見て、男は言った。
「どうやら最初の犠牲者はお前だな。」
後ろから何者かの気配を感じた。