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LUNASEA同タイトル小説

CALL FOR LOVE

作者: 皐月 沙羅

 気持ちの良い5月の昼下がり。風もさわやかに吹いていた気がする。

窓辺にもたれて眠ってしまったのか、それとも白昼夢なのか……ふわふわと舞い降りるものを見た。

綿毛なのか天使の羽根なのか。それは淡雪のように、ふわふわとはらはらと私をなでていった。

 私の意識は、はるか遠くを漂っている感覚。いつの間にか私の体も軽くなって、ふわふわと宙に浮いている。何もできず、何も考えられず、私はただ舞い落ちる白いものを見つめていた。

心地のいい空間だった。悲しみもなく、怒りもなく、喜びさえないけれど、ひどく幸せにも感じるような……それでいて、とてもフラットな感覚。

しばらく私は漂っていた。意識だか感覚だかに身をまかせて、ただただ漂っていた。


 白いものがひととおり私を通過していくと、あたりはシンと静まり返っていた。

先ほどまでも、音など感じなかったけれど、聴覚が敏感になるような感覚。「静かだ」とつぶやきたくなるほどの、さらに何もない空間。相変わらず私だけは、ふわふわと漂っている。

静まり返った空間に、頭は少し正気を取り戻していく。まだまだ意識は遠いけれど、ゆっくりとたぐりよせている感覚。

「悲しい」

と、誰かが言う。

急に泣き出したくなって、そう言ったのは自分なのかもしれないと考えた。

あたたかいぬくもりを剥ぎ取られたような感覚。そんなことがあっただろうかと考える。寂しくて、冷たいものが、体の中を流れていった。


 その冷たさにまた、頭の一部がクリアになっていく。意識の綱をたぐりよせていく。

ドクドクと心臓が脈打つ。ヒュッっと、自分が息を吸い込む音が聞こえた。

自分の生命活動に、少し戸惑い、追いついていけない感覚。

手に、足に、体に徐々に力が入っていく。それを自分の意思で動かしてみる。

自分の意思で自分を動かすことが、とても不思議で、特別なことのように思えた。

あとは、ほんの少しの意識。頭の中でふわりとしている一部分。そこを取り戻せば良いような気がした。その部分に意識を集中する。

そうすると、またその意識が広がっていき、飲み込まれそうになった。あわててクリアな意識のほうにチューニングを合わせる。

「支配されたくない」

と、誰かが言う。

胸が締め付けられて、やはりまた、自分の言葉なのだろうかと思った。

鈍い痛みが、体を通過していった。


 鋭い閃きが起こったように、頭の中がすっきりとクリアになった。

胸の辺りに、ほんのりと温かいものを感じた。

それは私が欲しかったもの。欲しくても言えなくて、気付かないふりをしていた。

愛がほしいと思っていたのだ。強く強く。

私は、たいせつにたいせつに腕の中のものを抱きしめていた。

最初からそこにあったかのように。当たり前のように。


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