ヴァル事件解決!
「ヴァル。何を、したの? 」
聖恋は、今にも泣き出しそうな、それで、崩れ落ちそうな儚げな声をしぼりだした。それに、ヴァルはニコニコと、なんて事無いような顔で答えた。
「血を吸ってた」
その答えは、私を絶望させるに充分な答えだった。
「誰、の? 」
「決まってんじゃん、この人」
あぁ・・・ 「そっか 」。わかった。わかりたくないほどに。
「お母さんだけは、巻き込みたくなかった、のに・・・」
脚から力が抜けた。ペタンと、床に座り込む。頬を伝う雫も、気にならないほどに、目の前が真っ暗になったように、何も、考えられなくなった。
「あ、う・・・」
頬から顎へ、顎から床へ滴る雫を拭いもせずに、私はただ、泣きじゃくった。
「お母さん・・・」
お母さんは、お母さんだけは、巻き込まないと決めたのに。イオに出会って、イオの存在を知ってから、決めてたこと。それは守れなかった。自分だけの約束。
お母さんも、ヴァンパイアになってしまった。それは、自分のせいだ。自分が、もっと気をつけなかったから・・・!
どんどんお母さんの顔から血の気がなくなっていく気がする。それが本当は自分だったのか、お母さんの体内から血が無くなったのか、わからなかった。
「イオ、どうしよう。どうすればいい? 」
「・・・っ」
「!? 」
イオは急に真っ赤になったかと思うと、ずんずんとヴァルに近寄った。
「イオ・・・? 」
イオはヴァルの胸元を勢いよく掴むと、ぐいと引っ張った。イオとヴァルの大きい身長差は気にならないほど、イオの迫力は凄かった。
「お前、どういうつもりだ? 」
そんなイオの迫力に気圧されもせず、ヴァルは平然と答える。
「別に? 僕達のご主人様が、ヴァンパイアの僕に血をくれなかったから、お母さんを利用したんだけど? 」
利用? ・・・よくわからないけど、ムッとした。人のお母さんを利用とか、ふざけている。・・・でも、それは私が血を与えなかったからで、私にはヴァルを責める資格もない。
「ふざけるな! 少し喉が乾いているからといって、聖恋を泣かす理由にはならない」
「ああ、まさか泣くとはねぇ。別に吸ってないのに」
「・・・え? 」
私はヴァルを見つめる。・・・今、何て?
「あ、やば」
ヴァルは私の視線に気づいて、慌てて口をふさいだ。
「どういう事? 」
「こいつが言ったとおりだ。こいつは聖恋の母親の血は吸っていない。俺達が帰ってくる頃を見計らって、トマトジュースでも口にしたんだろ。最初から、特に濃い血の匂いはしなかった」
「なんだ、そうだったの・・・」
「お前、謝れ」
「えぇ!? 」
「当たり前だろ? 泣かせたんだ」
「だったら、泣く前に君が教えてあげれば良かっただろ!? 」
「いや、お前が言うべきだと思ったからな、ハメさせてもらった」
「ハメたの!? 」
2人のそんな会話を聞いて、笑みがこぼれた。それは、安堵のため息と同じ。
「・・・良かった」
本当に、良かった。さっきまで、ヴァルに血をあげなかったことを凄く後悔していた。私のせいで、お母さんがヴァンパイアになったって、本気で責めてた。本当に、良かった。
「「っ!! 」」
ヴァンパイア達の頬に朱がさした。そして、2人もふと笑顔になる。
「騙して、ごめんな」
後で、ヴァルが謝ってきた。いつものふざけた口調ではなくて、ヴァルの素を見た気がした。気がつけば、私の顔には笑みが広がっていた。今なら、もう、許せる。
「もう、いいよ」
私も悪かったんだし。
「これからは、ヴァルにも血をあげるから。・・・ごめんね」
「ほんと!? 」
ヴァルは微笑む。
「やったーー! 」
「ただし! 」
ヴァルはピタリと動かなくなる。
「悪戯だけはしないで」
「・・・努力します」
私は、ヴァルに向けて首筋を差し出した。
こんにちは、桜騎です!今回は1日で2話投稿しました!不定期ですみません。
今回はヴァルが大変でした。やっとイオを大人しくさせたと思ったらいつの間にかヴァルも現れて、聖恋も大変ですね。フレー!フレー!聖恋!
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!