3ヴァンパイア
「…で、ヴァル…」
私たちは女子トイレから移動し、今は人気のない所に移っていた。
「聖恋に何をしようとしたのかな? 」
「あ、あぁ~…あは♪ 」
瞬間、イオの手がヴァルの胸ぐらをつかみあげる。
「え~っと、…痛いよ?イオ君」
「おや、それは悪かったなぁ?なんだか、君の口から 「あは♪ 」 などというごまかしの声が聞こえたものだから、つい…」
「ワーコワイ」
「まぁ、こんなおふざけはどーでもよく…聖恋に何をしようとしていた? 」
こんどは口笛を吹いて誤魔化される。
「ご、ま、か、す、な! 」
イオは、一語一句…というよりも、一文字一文字区切った。
そして、なぜか一拍のの間が。
「真剣に、答えろ」
イオはヴァルの何を見ているのか。イオは、ヴァルの何を感じ取ったのか。
イオは、本当に真剣な目で、ヴァルに訊ねた。
ヴァルも、真剣な目になる。
「そうだね、答えるよ。君のご主人様のことなんだしね。…僕は、君のご主人様が気に入ったんだよ」
「はぁ? 」
言ったのは私だった。つい、口をついて出た。だって、彼の言うそのご主人様は、私のことだから。
「だから、そのご主人様を、僕のものにしようとしてね。だから、彼女の血を吸おうとした」
「ちょ、ま…」
……嘘でしょ?
耳を疑った。
ヴァルは、何てことのないようにクスクスと笑った。
「本当のことだよ?だって、君のペットが、望んだ問いなんだから」
「? 」
「あぁ、間違えた。君のペットが望んだ答えなんだから」
「どういうこと? 」
望んだって?
そのとき、ようやくイオが口を開いた。
「まぁ、望んだといえば、望んだな。だが、誤解の招くような言い方をやめろ。聖恋。望んだってのは、本当の答えって意味だから」
本当の答え…つまり、ヴァルの本心?
「わたし、何かあなたにしましたっけ? 私はあなたから迷惑をかけられたことしか覚えがないのですが」
「あぁ、不思議だよねぇ。君はなにもしていないのに。ただ、僕の言動に的確に対応してきただけだ。しかも、僕の望んだ形で。お陰で楽しかったよ。普段はない、人間との理想の会話をさせてもらった」
「ああそうですか。それで? 」
「さっき言ったと思うが、君を僕のものにしたいと思ったんだ。だけど…」
ヴァルは私の首筋に顔を近づけてくる。
「な、なに? 」
前のことから、少し警戒しながら訊ねる。
「うん、やっぱり。イオの匂いがする。これは、一緒にいたからだけではない。明らかに、イオが血を吸ったときの匂いだ。少し血の匂いも混ざっているしな」
「そ、そうですか。私はどうでもいいんですけど」
「そう? なら、いいかな? 」
ヴァルは牙をむき出しにする。その瞬間、私はあのときの恐怖心を思い出した。わずかに震える私の肩と、心情と、あと、イオのなかにある何かがイオを動かした。
「!! 」
ヴァルは牙を離した。
「なに、イオ」
「やめろ」
ヴァルは私を見て、頷く。
「確かにねぇ。微かに肩を揺らしてるもんね。もう、あのくらいで恐怖心を植え付けられてるなんて、見ていて面白い。まったく、かわいいねぇ」
「な…によ? 」
「いやいや? ただね、君のところにいるイオは、なんだか生きている感じが凄いんだよね。まえは、全く喋らない子だったのに」
暫くヴァルは唸ってから、頷いた。
「やっぱり、君のところにいると楽しそうだ。僕、君のペットになるよ」
「はぁ? 」
いや、私は別にイオを飼っている訳ではないのだけれども。
「まえに、言ったよね? 君をむかえに行くって。それが少し別の形になっただけだよ? 」
…そういえば、言われたような…?
「でも、目的と意図が違うわ」
「いいんだよ、別に。僕が君を気に入って、君の側にいたかっただけだから。…君の側にいて、君が僕を楽しませてくれたら、それでいいんだ」
「私は、あなたを楽しませる方法なんて何も持ってませんけど? 」
「あぁ、君は君のままでいいんだよ。とにかく、僕を側においてほしいな? 」
「…」
「だめ? 」
ヴァルは上目使いで私を見る。
「あんまり、よろしく、ないわね? 」
やんわり、遠回しに断ってみる。
「えー、そっかあ。じゃ、仕方ない。僕がこの世界でなにかしでかしても、君には怒る権利を与えられないからね? 」
「なっ!? 」
そんな手を使うのか…。
「う~…し、仕方ないわね」
「ほんと!? いいの? 」
まあ、なにかしでかして、それを止められないことのほうが嫌だし…。
「いいわよ。ただし、イタズラはしないで! 」
ヴァルはにこにこ笑って言った。
「保証なし‼ 」
「ちょっ!! 」
「でもでもでも! 君はいいって言ってくれたからね!? 今更なしとか、あり得ないから」
ヴァルは平気な顔で言う。
「わかってるわよ…」
今、私がここで、人間を見せないと!まぁ、もうヴァンパイアになってるんだけど。
ヴァルはまた、クスクスと笑った。
「精一杯尽くすからね? ご主人様」
もうこのときから、嫌な予感しかしない。
こんにちは、桜騎です!…お久し振りです。1ヶ月くらいですね。今回、またまた投稿がおくれてしまいました。すみません!
今回はヴァルが聖恋と一緒にいるよ!って話でした。次回は、聖恋が少しどころか、かなり苦労することになります!お楽しみに‼