片想い
「くあ…ア、おはよ~」
あくびをしながら私は布団から出る。傍で見ていたイオが 「おはよう」 と返してくれる。
「あれ? 何かイオ、どこか調子いい? 」
調子いいという聞き方も可笑しいかも知れないけれども、確かにどこかが調子いい感じがするのだ。…というよりも、そう伝わってくる。
「ん? ああ、聖恋が昨日血をくれたから調子がいいな。いつもより五感も研ぎ澄まされている」
「…そう」
どうせ、ありがとうなんかあるはずないと思った。だから黙っていたけれども、違った。
「…ありがとう」
「⁉ 」
驚いた。本当に無いと思っていた。一瞬、返事に困った。
「……どういたしまして」
イオは満足そうにいつもの椅子に座った。いつもの椅子…それは食事に使う椅子だ。
「はい。今日は学校があるから、なにか必要なものがあったら私に言うんじゃなくて自分で用意してね?」
「…? 学校があるのか」
「ええ、そうよ」
イオは何か考えているようで、黙ってしまった。
しばらくして顔をあげたかと思うと、ご飯を食べるのではなく、口を開いた。
「…俺も行こう」
「はあ? 」
一瞬、本気で意味がわからなかった。何故イオも来る必要があるのだろうか?
「少し、やりたいことがある」
躊躇った。躊躇した。だって、人間界での礼儀を全く理解していなのだ。イオも来て何かやらかしてしまったら悪気があるわけではないから怒れない。
「頼む! 」
「うっ…」
そんな風にキラキラした目を向けられては断れない…。
「…それに、これは聖恋のためなのだ」
「え? 」
今何か、イオが呟いたような…。
「いや、何でもない」
「そう…」
何でもないのならいいけど。
「まあ、良いわ。ただし、何か困ったことをするのなら即刻家に送り返すから」
「う…。わかった」
そうして、イオも私と学校に一緒に行く事になった。
「あ、聖恋! おはよう」
「おはよう」
少し心配になって辺りを見渡したら、イオは本当にすぐ近くにいた。安心したけど、少し疑問を持った。
「イオ、やりたいことはいいの? 」
「ああ。今やっている」
「そう…」
全くそう見えないのだが、まあやっているのならいっか。
私はもう、少しも気にすることはなく1日を過ごす事にした。
「あ…トイレ行こっかな? 」
私は女子トイレの個室に入った。今日1日ずっと私に付きっきりのイオだったが、さすがにトイレには入ってこない。正直、基本的なことはできていて安心した。
私が個室から出ると、そこにはある人物が立っていた。
「ヤッホー! 」
「ちょっ、ヴァル! 何でここに⁉ 」
「んー? ちょっとねー」
ヴァルは少しずつ近づいてくる。私はなぜか下がる。この前の事があったからか。それとも、ヴァルのする事をなんとなく感じ取っているからか。
「何で近づいてくるの? 」
すると、ヴァルはクスクスと笑う。そして、私の方を指差す。私は、思わずその方向を見る。
「君がいる方向に用があるから近づいているように見えるんでしょ? 何を勘違いしているのかな? 」
「あ、そうなの? ごめんなさい。じゃ、さっさと退くわね」
私が隅に避けようとすると、ぐいと何かに引き寄せられた。
「なっ⁉ 」
いつの間にか、私の右腕はヴァルに掴まれていた。
「んふふ。聖恋ちゃんは退かなくていいんだよ?」
「なん…で? 」
もう、嫌な予感しかしない。
「わかってんでしょ? 」
「…事実とは限らないわ。だから…確定しないわ」
また、ヴァルはクスクスと笑った。
「優しいんだねえ。でも…」
ヴァルは少しずつ顔を近づけてくる。
「こんなことされても、僕に優しくしてくれるのかな? 」
ヴァルは牙を剥き出しにする。
「あ~の~ね~! 」
私はヴァルの顎をアッパーしてのける。
「これは別に優しさでも何でもないわ! 事実を信じるだけよ! 」
「ふ~ん」
ヴァルは相変わらずニヤニヤしてる。
「やっぱ、優しいんだね」
「は? 」
「だって、今のアッパーは本気でやっていないでしょ? 」
「…」
確かに、本気でやっていない。本気でやるわけがない。だって…。
「イオの…友達、なんでしょ? 」
「…! 」
ヴァルは目を見開いたまま固まった。息を飲んだようにも見えた。
「…そうかい」
何かに納得したようにうなずいている。
「イオ、いるんだろ? 」
まさか…と思ったが、本当に出てきた。
「…だってさ。お前も、大事にされてるな。…相思相愛、か…」
「え? なんて言ったの? 聞こえなかったわ」
「あたりまえだろう。なんたって、俺のご主人様だからな…」
…何の話?
「ああ、いや、何でもない。…大丈夫だ。何かあっても、俺が守るから」
「ほんと、何? さっきからずっと聞き取れていない声があるんだけど。大丈夫のあと、何か言った? 」
「いや、だから何でもない。聖恋は、何も知らなくていい」
「おやおや? やっぱり相思相愛じゃなくて片想いだったかな? 」
イオは顔を赤くしながら拳を振り上げた。
「んなっ! これは相思相愛だ! 」
「え? 誰が相思相愛なの? 」
二人共私を振り替えって目を丸くした。
「ほら、やっぱり片想いじゃないか」
「んな訳あるか!! 」
「おー怖い」
トイレには、二人の笑い声が響きわたった。
「…って、そうじゃん、ここ、女子トイレ!」
こんにちは、桜騎です‼今回の更新、またまた遅くなってしまいました。すみません。これからはもっと更新できる機会が減ると思いますが、よろしくお願いします❗