お城
イオに抱えられ、私は上空にいた。お城を目指しているのだが、スピードがあまりにも速くて、体が強張ってしまう。
私は叫びながらイオにお願いした。
「イオ、もう少しスピードを落としてくれても……これじゃあ私、気絶しかねないわ」
「ああ、別に気絶してもいいのだぞ。というか、してくれた方がいい」
涙目になりながら訊きかえす。
「なんでえ……」
「なるべく人目につかないようにしたいんだ。さっきの男は宿を借りている仲だったから理解してくれているのだが、他の者につかまれば城に着くのは遅くなるだろう。なるべく早く着きたいんだ。それで……まあ、聖恋は軽いからいいのだが、暴れられても困るしな」
イオは苦笑していた。過去にそういうことがあったのだろう。でも、私は嫉妬しなかった。なぜなら、イオに恋情がなかったから。ただの友達として、母よりもイオの方の好きが勝っただけだった。だから、後悔はしていないのだけれど。
イオは私の目をじっと見つめてきた。
「な、何よ……」
「いや、別に」
しばらくしてイオが口を開いた。
「もうすぐ、城に着くぞ。王へのあいさつは特に丁寧に行わなくていいぞ。父は堅苦しいのを嫌うんだ」
それはもう、吐いてしまうくらいに。と、イオは付け足した。そこまでひどいのか……それは少し見てみたい気もしたが、吐かれると困るのでやめておくことにした。
「それで、その……」
イオが口籠った。
「どうしたの? 」
「……城の隅で、ひっそりと暮らしている女性がいるのだ。透き通るような肌に赤いローブを纏っている、とてもきれいな女性なのだが……その人は、人と接触するのを避けているんだ。よほどのことがない限りは、なるべく避けてくれ」
その特徴、知っている。
「その人、イオのお母さんでしょう? 魔女の……」
「ああ……なぜわかったのだ? 」
イオは驚いたように訊いてくる。
「だってその人、私の夢に来たんだもの。直接ではないけど、会ったわ。……言ってなかったっけ? 」
「夢会か。……済まない、よく覚えていないんだ」
「そっか」
まあ、それは仕方ないかも知れない。イオは王子なのだからいろいろあるだろう。忙しくて、重要ではないことは忘れてしまうのかもしれない。
「聞いてもいい? イオのお母さんがなんで、人を避けているのか」
「ああ……城の者はあまり気にしていないのだが、あの人は自分がヴァンパイアでないことを気にしているらしい。本人が、混血ならともかく、別の種族だなんて!! と言っていた。自分から壁をつくっているようだな。……ちなみに、城下の者たちはそのこと自体を知らない」
なるほど。
「わかったわ。気を付ける」
イオはほほ笑んだ。
「ああ、そうしてくれると助かる。ありがとう。……さて、降りるぞ」
下を見ると……遥か下にぽつんと、小さく黒と白と明かりが見えた。
ゆっくり降りるのかと思っていたら、瞬く間に地に足がついていた。いつ降りたのか見えなかった。
「こっちだ」
イオは私の手を引いて先導してくれた。とても丁寧に扱ってくれているのがわかる。
白と黒のお城に真正面から入って行った。階段を登り、王が普段いる部屋の前に着いた。
イオが先に入って行き、帰還のあいさつをしていた。それから私はイオに呼ばれて入り、名前と簡単なあいさつを済ました。王はにこにこと上機嫌であいさつを返してくれ、私のために用意された部屋を教えてくれた。……聞いてもわかるわけないのだが受け取っておこう。
部屋に向かっている途中、イオは言った。
「王はああ見えて、体調がよくないんだ。本当はベッドで寝ているはずなのに、聖恋が来たことを悟って椅子に座ったんだろうな」
「そうだったの……」
全くわからなかった。なんて元気な人なんだろうと思ったほどだった。きっと、城下にもそのことは悟らせていないんだろうと思う。
「聖恋の部屋はここだ。俺の部屋は隣だから、何かあったら遠慮せずに言ってくれ」
「ありがとう」
私は中に入り、とりあえず家具などを確認した。ふかふかで、つつけば深く埋もれるほどのベッド。大きな鏡のついた机と化粧品。真っ白な机と椅子。あと……なんと言うのだろう? ベランダのようなものが窓の外にあり、そこから出られるようになっている。部屋は5分で壁から壁まで移動できないほど広く、正直これほどのスペースは要らなかった。だが、用意されたものはありがたく使わせてもらう。
私はとりあえずふかふかのベッドに埋もれ、意識を預けた。
これからはここで過ごすのだと思うと喜びと悲しみが入り交ざって、なんとも言えない感情になるのだった。
こんにちは!お久しぶりです、桜騎です!今回は聖恋がお城に着くまでと、ついてからが少しでした。次回はイオが王になっている場面からを予定しています。王が倒れ、代替わりする場面は書かないつもりですが、書く可能性もあります。書かれていなかったら、王は亡くなったのだと思ってください。
それでは、また次回お会いしましょう!ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!