イオのヴァル
私は早速、イオに食料を持ってきた。
「はい、ご飯」
イオの前に置いたのに、イオの手は全く動かなかった。
「どうしたの? 出されたものはちゃんと食べなきゃだめだよ? 」
「俺はこの部屋から別の部屋に行ってはいけないのか? 」
「当たり前でしょ? お母さんにイオの事知られたらどうなるかわからないもの。家を探しに行くのなら、その窓から出ればいいでしょ、飛べるんだから」
「そうか…」
会話が終わったら、またイオは動かずに食料の前から動かなくなった。
「食べないの? 」
「俺は、これを食べなきゃダメなのか? 」
はあ? 何言ってんの、こいつ…。
「当たり前でしょ、そんなの。人の家にお邪魔しているんだから、食べたいものくらい我慢しなさい。イオ、人間の歳に計算したら、私と同じ歳なんでしょ? 十七歳ならわがまま言わないの」
イオは十七歳。さっき教えてもらった。
「そうか…」
イオはフォークを手に取った。
「何よ、文句あんの? 」
「いや、べつに文句はないが…。お邪魔しているのだし。…だが…」
イオは無表情のまま私を見た。
「君は私がヴァンパイアだということを忘れたのか? 」
「忘れてないわよ? 」
私が平然と言ってのけたのを見て、イオは苦笑した。
「君はヴァンパイアが何を口にするのか知っているか? 」
「何よ、それくらい知っているわ。人の血でしょ?…あ! 」
ヴァンパイアは血を飲むのだった。この食料じゃだめだった…。
「ごめんなさい、でも家には病院にあるような用意された血は無いの。だから…あなたの食べ物は…」
無い。そう言おうとした時、イオは笑った。
「いや、べつに良いんだよ。俺は人間の食事もできる。…ちなみに、トカゲやカエルなどもな」
なぜにカエル…?
そう考えているうちにイオはその食料を口に含んだ。もしゃもしゃと美味しそうに食べている。
「ああ! 」
イオはびくっと震えて咳きこんだ。そしてその咳がおさまった時にイオは顔を上げた。
「な、なんだ…? 」
「イオ、普通に食べているじゃない!? 」
イオはあきれ顔をした。
「いや、だからさっき言った…」
「だってさっき不満そうにしていたから私は真剣に考えていたのに!! 」
「いやべつに食べれないとは言っていないだろう。ただ、あんまり血が飲めていなかったら飢える可能性があるんだ」
いつも飲んでいたからな、とイオは付け足す。イオは、飢えたらどうなるかなどとは言わなかった。それに、私は訊く気もなかった。
「そう」
私は静かに返事をして踵を返した。
「じゃ、私も朝食を食べて来るから」
「そうか。俺のためにわざわざ君の時間を割いてもらって悪かったな」
「いいえ」
私はそれだけ言うと、部屋のドアを閉めた。
ドアを閉めた途端、私はやっと自分が私になれたのだと実感する。あの礼儀のなっていないイオといると調子が狂う。いつもの、わがままで、強気で、それでいてクールな自分はどこにもいなくなってしまう。
「まあ、楽しいんだけどね?」
くすっと笑って私は階下に降りた。
朝食を終えて戻ってくると、部屋には置手紙があった。そこにはイオが家を探しに行くと書いてあった。そして、もう一つ。
「夜までには帰ってくるからって…」
私は、幼児が書きそうな置手紙を元の場所に戻して、イオがいつでも帰って来れるように窓を全開にしておいた。そして、いつの間にかイオと一緒にいた昨日の黒猫を抱え上げ、ベッドに座る。
「猫ちゃん、ふわふわ」
そういって私はベッドに寝転ぶと、疲れが取れていない足と足の筋肉痛の痛みから逃げるように、眠りに落ちた。
ふと目が覚めたのは、少し涼しくなった風が私の足に吹きかけた時。その時はさっき抱きかかえていた黒猫は私の腕にはいなくて、いたのはその先、窓の近く。黒猫は窓の近くで犬のように唸り声を発していた。
「猫ちゃん…? 」
私が起き上がると、ちょうど死角となって見えていなかった窓の外を見ることができた。
「やあ、子猫ちゃん。初めまして、僕はヴァル。イオの友人さ」
「ヴァル…さん? 」
イオの…友人…?
「君に、イオの事を教えてあげるよ。知りたいでしょ? これからしばらく同居する仲なんだ。知っておきたいよね? イオの秘密みたいなものだもんね? 」
そういうと、ヴァルは私の部屋に侵入してきた。
「知りたいでしょ? イオの秘密」
ヴァルはもう一度繰り返した。
「イオの…秘密? 」
それは、これから共同生活をする仲…? の私にとって、とっても知りたい事だった。
こんにちは、桜騎です!
奇跡です!奇跡が置きました!今日もまたまた、親がいない時間に書きました。最高です!邪魔されなくて。次もどんどん書いちゃいます!お楽しみに!
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。