ヴァルとイオ
イオの行動に少女はためらったり、ためらわなかったり。イオは少女をよく知っているみたいだし…この二人はいったいどういう関係なの!?
そんなことを考えていると、少女はいつの間にか私の目の前に来ていて、再びこういった。
「ねェ………死んで? 」
二回目とあって、さすがに少しはなれたけど、それでも胸の内に傷がつくことは変わらない。私はふと思ったことを口にした。
「あなたはなんで…なんで、そうやって人が傷つくことを簡単に言えるの?? 」
「はあ? 」
少女はそんなこともわからないのかという風に顔をゆがめる。
「なんでそんなことを聞くの? 本当にわからないの? それとも、私の心は純粋ですアピールでもしたいわけ? 」
「…そんなこと…ない…」
きっとこの女の子は気が強いけど、最初は心が真っ黒ではなかったんだ、…きっと。何となくだけど、そう思う。
「ほんとにわからないの? ばっかみたい! ていうか、わからないからもう、これはバカだよね! はい、けって~い! …………仕方ない。本気でわからないみたいだから教えてあげようか? それはね…」
少女は私の耳に唇を寄せてくる。私は警戒しながらも耳を傾ける。ひそひそっと話されてくすぐったかったが、それよりも話された内容のほうのショックが大きすぎて茫然とした。
「え…」
それでもまだ彼女のささやきは終わらない。
「当然でしょう? だって、傷つけられて見せつけられて…私はこ~んなにもつらい思いをしたのに、傷つけた本人は何も知らずに楽しく笑っているんだから。そんなのひどいわよねえ? 」
くすくすと響く声が耳の中でこだまして、不快に思った。
…あれ? なんだろう? なんだか、意識が薄くなって…息が…できない……。
ふらりと床に倒れるときに視界の隅にイオが映った。
…そうだ…イオ……いつの間にヴァルに…羽交い絞めにされていたの!?
意識が飛ぶ寸前の視界の隅に、イオの顔が迫ってきていた。
「おい! ヴァル、放せ! 」
「悪いけど、それはできないね、僕のご主人様。僕は誰にも邪魔されない、あの二人の結末を見てみたいんだ。強気な百合と、心優しい聖恋…どっちが勝つのかね…」
そんなのはだめだ! この二人は違いすぎる! 嫉妬で怒り狂い、それでも行動は冷静な百合と、危機感がかけていておっちょこちょいで…誰に対しても優しくて…そのためにみんなから愛される聖恋と。例えるなら、悪魔と天使、闇と光、恨みと恩。正反対というにふさわしい二人。対になって…対になったものは相性が悪いが、恨みの力は無限だ。自分で勝手に被害妄想でもすれば勝手に恨みが膨らんでいく。こんなのは不利だ。下手をすれば、聖恋が死にかねない!
俺は焦る心を押さえつけるために、ゆっくりと深呼吸をした。そして、何とかヴァルの気を変えさせやしないかと説得を試みる。
「なあヴァル。もう結果はわかっているだろう? このままでは聖恋が死んでしまうかもしれない」
「ああ、そうかもしれないね? 」
平然と答えたヴァルに俺は愕然としながら、平常心を装って話を続ける。
「お前だって聖恋が好きなのだろう? たとえ片思いだと知っていても、あきらめることなどできないだろう? あきらめる前に、その相手が死んでしまったらどうするんだ!! 」
「君が? 」
思いがけなかった返事に俺は一瞬…どころか、しばらく何も考えられなかった。
「それは君のことでしょ? 僕のことではない。…確かに、僕は聖恋ちゃんが好きだったけど、いつだって僕は君に譲ってきた。いつだって譲る覚悟はできているよ! …いや…僕はもう譲っている。もうあきらめている。心の片隅だけにとどめておけば、僕はそれで満足だ…。いや、満足じゃない、ぎりぎり我慢ができる程度だな。ははっ」
「…ヴァル……お前はもう、我慢なんてしなくていいんだ! もう…俺は…お前に……王位継承権を譲るから…! 」
「…………は? 」
王位継承権…つまり、王子の座ってこと…だよな? なんで、いきなり……? いや、理由なんてもうわかっている。いつも我慢している僕に遠慮して、立場を交代させようとしているのだろう?僕はそんなこと望んでなんかいない!! そんなこと、してほしくない! 君に遠慮されて、王子になったとして、今度は僕が楽をして…そうしたら、僕の今までの我慢はどうなるのさ!! どうすればいい!? 今までしてきた我慢の数々。それを、君が僕に譲り渡した王位継承権のせいで、意味がなくなる! 僕はずっと、多才多芸でなんでもできる兄を、そばで眺めながら仕えて、胸を張って自分の仕事に誇りを持とうと考え続けてきたのに…。
「……何の……意味も、なくなるじゃん……」
「え? 」
「なんで!? なんでそういうこと言うの!? 本当に君は自分勝手だな! 僕はそんなの望んでいない。いっつもそうだ! 君は自分勝手だ! 一人の女の子を同時に好いて、僕があきらめて譲って、幸せになったと思ったら女の子はすぐに死んですぐ別の子。また同時に好いて…の繰り返しだ! そして今度は僕に王子の座を譲る!? 意味わかんない! なんなの、君は! 自分がいいと思ったことを勝手にして、それで相手が喜ぶと思った? それで相手が喜ぶともわかんないのに…」
「ヴァル…」
イオは目を見開いて僕を見つめている。僕は目を合わせていられなくて、顔をそむけた。
「僕は…そんなの……。そりゃ、一度は望んだことはあるかも知れないけど…」
たまった感情があふれだしてきて止まらなくなった。腕から力が抜けて…イオの拘束が解けれたのを感じた。
「!! …聖恋が!! 」
「え…? 」
見ると、聖恋は百合が持ったリボンで首を絞められていた。最初はただの言い合いのように感じていたそれは…僕が気になっていた二人の結末は…天使の…光の、僕たちの恋した人が倒れることだったのだ。
僕はあの子を気にかけて、どうするのだろうか? 本当にあの子が好きなのだろうか?
こんにちは、桜騎です!今回は...まだ、ヴァルの〇〇が言いきれてません!いつになったら言えるのか...早くしないとな!
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました!