過去と理由
ヴァルが出て行ってから、もう五時間がたっていた。私はイオと二人でヴァルをずっと待っていた。
「ねえ、イオ。…さっきの王子のこと、私…別に本気でおままごとが好きだなんて思っていないわ。…イオが言いたくないなら言わなくてもいいけど、でも……私は、教えてほしい」
隣で私と同じように窓の枠によっかっかていたイオを横目で見る。イオは、ゆっくりと目をつぶった。その眉間には、しわが寄せられていた。
「あ…えと、ごめんね? 今じゃなくていいし、言いたくなかったら言わなくていい。私は、イオの主じゃないから、そうゆうのは無理しないで! 」
「…そうか…」
「うん…」
それっきりで、二人は無言だった。…無言で、ヴァルが帰ってくるのを待っているのかと思っていた。でも、違った。イオが、口を開いた。
「いや、話す」
「え……? いいの? 」
聞いた本人が驚くのもなんだが、それでも、イオが話してくれようとしてくれるのはうれしいから。
「…………いい。聖恋だって、隠されるのは嫌だろう? 」
「…まあ」
私がこくりとうなずくと、イオは少し笑ってうなずいた。
「それでは……話そう。俺の…過去から、なにもかも。全て―――――」
それからイオは、ゆっくりと教えてくれた。過去のこと、ヴァルとの関係のこと、本当に全て。その時のイオの顔はくるくると表情が変わっていたけど、ヴァルとの思い出を話しているときは、本当にうれしそうだった。
「……俺たちが、ヴァンパイアの世界から来たってことは知っているだろ? 」
「うん」
「その世界は、一つの国でできていて、俺はその世界のただ一つの国の王子なんだ。
それで、俺が王子ということは俺の両親は国王と王妃だろう? で、今の俺には国王のほうはいるんだが、王妃のほうはいないんだ。で…まあ…こっちでいうところの再婚をしたんだ。それが聖恋も知っているとおり、魔女が俺の母親になったんだ。
魔女はもともとは人間だからな。人間の料理も食わされたし、トカゲやカエルなどの料理も食わされた。まあ、俺は王子だしな。純血だがそのおかげで、俺はヴァルと違ってしばらく血を吸わなくても我慢はできたんだ。
ヴァルとは、…周りは召使だって言ってるけど、俺たちから言わせたら、親友だ」
「親友……」
「俺と同じ年に生まれて、同じように過ごして、ずっと一緒に育ってきたんだ。もはや幼馴染や親友とかでは済まない、家族というものくらい大事な存在なんだ。だが…悲しいことに、俺は王子。…将来は一国を背負う立場。俺に勝てるのは国王と女王あとは…頑張れば魔女と、あとは……神様くらいかな? 」
イオははにかみながら冗談を言った。
「俺とヴァルは同い年だし、ほとんど同じ環境で育ってきたんだ。そして、親友になるくらいだから、趣味だって同じだ。それで、同じものを好きになったとして、それが一つしかない、複製不可能なやつを取り合うとしたら、さっき言った、立場が関わってくるんだ。俺は王子、ヴァルは召使。もちろん、取り合ったそれは俺のもとにころがりこんでくるんだ…」
イオは、とても暗い顔をしていた。そんなことがきっと、たくさんあったのだろう。
「悲しかったよ。ヴァルは無理に譲らされるんだ。父親によって、主に譲りなさい! って言われるんだ。けんかなんてしたことない。本気の奪い合いなんてしたことない。いつもヴァルが我慢して、譲って…でも、もうヴァルの父親はいないんだ」
「え……それって…! 」
「そう。もう亡くなっている。だからヴァルはもう自由にできる。できるのに…やらないんだ。だから…俺はこの座をあいつに譲ろうと思っている」
「え? そんなの、どうやって? こういうのって血筋で決まるんじゃないの? 」
「そう。だから、ヴァルはできるんだ」
どういうこと? なんで、ヴァルはできるの?
「……俺は、ヴァルに王子の座を譲ろうと思う」
こんにちは、桜騎です!今回は変なところで話が切れました。次回は最後の理由と方法、そして、ヴァルからは○○を話してもらおうとおもいます!