関係
「ん・・・美味しかったー! 」
私たちは弁当を食べ終えた。
「じゃ、ヴァルを捜しに行かなくちゃね! イオは校舎内の1階から2階を捜してくれない? 私は3階から4階を捜すから」
「あぁ、わかった。じゃ、また後で」
「うん! 」
私は弁当の片付けがある為、イオを見送った。
「二人そろって何をしてるのかな? 」
・・・? 今のは・・・。
「ヴァル!? ちょ、今まで何してたのよ! ずっと捜してたのよ! 」
「あっはは! ごめんね、美味しそうな血の女の子がいたから、ついつい・・・」
今、なんて・・・? 美味しそうな女の子?
「ヴァル、まさか・・・吸血してきてはいないでしょうね? 」
「え〜? どーだろー? 」
「ねぇ! ちゃんと答えてちょうだい! 吸ったの? 吸ってないの? 」
吸ったのなら、ちゃんと謝りに行かなくちゃ!
「謝りに行く、じゃなくて、ホントは口止めに行かなくちゃって考えてるでしょ? 」
・・・今の、私の考え、読まれた?
「そ、そんなこと無いわよ! 」
「ふふ! 君って考えてることがすぐ顔に出るから、わかりやすいんだよね! それを指摘すると面白いし・・・かなり気に入ってるよ? 」
うわ、嬉しくない。
私はヴァルを無視して、お弁当をさっさと片付けた。
「ま、いいからイオを呼びに行こう? さっきヴァルを捜して1階にいるんだよ」
私は一人でさっさと歩き始めた。・・・けど、足音はついてこない。振り返ってヴァルを確認すると、ヴァルは私に背中を向けていた。
「・・・ヴァル? どうしたの? 」
「うん、知ってるよ」
「え? 」
「イオが1階にいることは、知ってるよ」
ヴァルは無表情でそう言った。
「・・・ヴァル? 」
なんだか今日は2人とも変。イオはなんか隠し事をしてるし、ヴァルはいつもより笑ってる所を見ないし・・・。
と、思っていたら、ヴァルは振り返って笑って言った。
「喉、渇かない? 」
言われてみれば、お弁当しか持ってきていなかったため、喉はカラカラだと気づく。イオも、飲んでいなかった。でも、それだけじゃおさまらない感じがする。なんだか、もっと満たされるものが欲しい! そう思った。
「・・・何? この感覚・・・」
すごく、すごく、誰かの近くに行きたいと思った。そして、首筋に牙を立てて・・・熱くて、紅い液体を沢山、飲みたいと思った。
「何よ、意味わかんない! 」
熱くて紅い液体って・・・
「血」
ヴァルはいきなり笑い出した。いつもの事だから、あまり驚かなかったけれど、ヴァルの笑い方がなんとなく怖かったから・・・無意識に喉を抑えた。
「そうだね・・・血だよ! 」
一歩いっぽ、ヴァルは私に近づいてくる。私はそれが怖くて後ずさっていく。
「血が、欲しいでしょ? 我慢出来ないくらい! 」
私とヴァルの間、残り10歩・・・9歩・・・8歩・・・7歩・・・6歩・・・5歩。
「そして、それは何でかわかっているはずだ! 」
1回、瞬きをした。その一瞬で、残りの5歩はヴァルの大きな歩幅が難なく飛び越えられて、すぐ近くになる。わたしから見たら腕を伸ばせば届く距離。ヴァルからすれば・・・少し屈むだけで私の首筋に噛みつける距離。その距離には覚えがあった。これは・・・初めてあった時に吸われた距離。
それがわかると、体は自然と震えだした。自分では押さえられないくらいに。微かな震えなのに、力を込めたら止められそうなのに・・・力を込める力さえないくらいに、力なく震えていたのだ。ヴァルはにっこり笑って近づいてきた。これ以上は目を開けていられなくて、力強く目を閉じる。
「それは、君が、ヴァンパイアだからだ」
耳元でヴァルの声がした。最も首筋に近い距離に再び恐怖を覚え、体が強ばった。
「君は、我慢出来なくなったイオに血を吸われたね? こんなふうに・・・」
「いっ・・・! 」
首筋に牙が食い込み、ぶつりと穴を開ける。
「それも、結構な量を。君はあの時、ヴァンパイアになったんだ」
あぁ・・・それも、知ってる。私が、許したんだから・・・。
「お母さんを守る為に」
「・・・イオの、為に・・・」
私が我慢させていたのが悪かったのだ。でも、そうじゃなくても、同じことになっていたと思う。
「そう。君はイオの為に血を捧げたんだ。だったら、今度は君が吸わなくちゃ。同じように・・・」
「でも、誰の・・・? 」
その時、ヴァルが笑った様な気がした。
「友達で・・・」
「・・・え? 」
「君は、イオが大切だったから血をあげたんだ。だったら、君を大切に思っている友達にお願いしたらどうかな? きっと喜んで差し出してくれるんじゃない? 」
でも、それはきっと、犠牲になるものがうまれる。
「そうだね。もし、吸っちゃったら、もう元の関係には戻れないかも知れないね? そうだよね、君の正体を知って、君を恐れるようになるんだから! 」
だから、それは嫌だ!
ヴァルは両腕を、私の体にまわした。
「ねぇ、そろそろ喉が干からびちゃうんじゃないの? 」
ヴァルはまた私に牙を立てた。嫌な音がたって、血が抜けていく感覚を味わう。吸われて、吸われて、吸われて・・・。吸われる度に喉が乾いていく。
「どうするの? ねぇ? ・・・もう、関係を保とうなんていいじゃん! そんな考え捨てちゃえば。この世は弱肉強食。弱い事が悪いんだから・・・」
その時、足音がした。ヴァルはそっと腕を解き、私の視界をクリアにしてくれる。
その足音の主は、私の友達だった。
「なん・・・で? そんな偶然・・・」
「心配はいらないよ。君は純血じゃないんだから、吸ったって彼女までヴァンパイアになったりはしないよ? 」
「っ! 」
さっき噛まれたところが疼く。酷く疼いて、私の意識はどこかに飛んでしまいそうになる。
「う・・・あう・・・」
私は一歩いっぽ、友達に近づいていく。嫌だ! 吸いたくない! ・・・壊したくない・・・。そう思っても、自分の意思では止められない。
「・・・どうしたら・・・! 」
その時、別の足音も聞こえた。
「・・・こうすれば、いい」
しゅる、と私の首に何かが巻きついた。これ・・・は?
こんにちは、桜騎です!今回は聖恋が最大のピンチになりました。そこに現れた救世主とは?次回へ続く!
・・・アニメ風に書いてみました。すみません・・・