始まる前の静寂
「ん・・・? あれ、私寝てた? いつから? 2人はどこ? 」
起きた私は早速全ての疑問を口にした。この時の私は、まさか、気の利かないイオを気の利くヴァルが部屋から連れ出してくれたなどということは知らない。
寝起きでまだ上手く動かない体を一生懸命動かしながら、私は部屋を出る。
「イオー? ヴァルー? 」
1…2…3…返事なし。
「どこかに出かけてるのかな? 」
そして、この時の私は2人が部屋を出てあれから部屋の前を動かなくて、結局その真上で逆さにつる下がって寝ていた事など知るばずがない。しかも、途中からヴァルは起きていたことも!
「いない・・・な。どうしたんだろう、外になんの用事があるのかな? 」
私は部屋に戻って窓から2人を探してみた。・・・いない。諦めて私は読書をすることにした。もちろん、2人がいつでも帰ってこられるように、窓を全開で。
しばらくして、なかなか戻ってこない2人を探しに、再び外へ出た。少女の動向を観ていた獣は、その真上でこっそり牙を剥く。
「いないな〜、二人共」
「あぁ、おかえり、遅かったな」
「!? 」
部屋のドアを開けた途端、イオの声が聞こえた。
「あれ、いつ帰ってきたの? ヴァルまで! 」
「? ・・・僕達は、ずっと家にいたねぇ・・・」
「そうだったの? なら返事をしてくれても良かったじゃない」
二人共、まさかあのまま部屋の前でケンカをして、そのまま寝てしまったなどと言えるはずがなかった。
「アハハ、ごめんね」
「その・・・すまない」
素直に、しかも同時に謝られて、私は驚きを隠せなかった。
「あぁ、うん、大丈夫。2人が何もやらかしてこないでいてくれたら怒らないから」
なぜか、2人は押し黙った。
しばらくして、ヴァルが口を開いた。
「あのさ・・・喉が乾いたから、血、頂戴? 」
「うん? いいけど」
私は首筋を出した。
部屋の中に、吸血音が響き渡る。私には体内から血が抜けていく 「ずぞぞっ」
というような音が聞こえてきそうで嫌なのだが、ヴァルは本当に美味しそうに飲む。
開始してからかなり経ったが、まだ吸血は終わらない。さっき回復したばかりだから、また目の前が暗くなってきた。
「あの・・・ヴァル、ちょっと吸いすぎじゃない? ちょっと辛い」
「大丈夫大丈夫♪ 」
何が大丈夫なのか、全く意味が分からない。まぁ、ヴァルが大丈夫だと言うのならと、少し待ってみる。
それでもまだ止まず、そろそろ本気できつくなってきた頃、吸血が終わった。
「っぷは! ご馳走様」
「・・・うん」
目の前がかなり暗くなって、私はベッドに寝転がる。そして、イオがいない事に気づく。
「ヴァル。イオは? 」
「ん? 知らなーい。そのうち現れるっしょ? 」
「そう・・・」
適当だなぁ。
探しに行こうかと迷ったが、流石にもう体力も限界だった。ゆっくりと、心地よいくらいに瞼がとろとろと落ちていく。私はその心地よさに身を預けた。
翌日。目が覚めると、傍にはいつものようにイオがいた。その隣にヴァルがいる。・・・しかもなぜか、ぐるぐる巻で。
「・・・ヴァル? どうしたの? 」
「それがさぁ、聞いてよ! イオったら、いきなり僕を縄で括るんだよ!? 酷くない? 」
イオは咄嗟に手を出し、ヴァルの邪魔をした。
「あぁ、聖恋、気にしないでくれ。夜部屋に戻ったらヴァルが寝ている聖恋を襲おうとしてたんでな、危険だったから括りつけといた。大丈夫だ、安心してくれ。もしこいつが夜に聖恋の血を吸おうとしていたのならば、俺が阻止する」
「あ・・・そう? 」
どういう反応をしていいかわからず、曖昧な言葉が口をつく。
・・・せめて、阻止するではなく、止めるとか、守るとか言ってくれた方が素直にお礼を言えたのだが。・・・高望みだろうか?
「ま、いっか。じゃ、私は朝食を食べてくるから、少し待ってて」
私は着替え、1階へ降りていく。
「ね、イオ」
「言うな」
「気付いてるんでしょ?」
「知らん」
「そういう事言わないで、正直に」
後に残された二人はひそひそと話をしていた。
「…言うわけがないだろう」
「まあ、そりゃあね、ご主人様がせい」
『せ』 が聞こえた途端にイオはヴァルの口をふさぐ。縛られているヴァルは対抗できず、その手を振り払おうと必死になって頭を振っている。
やっと振り払えて、ヴァルはにっこりと…いや、にんまりと笑う。それはあまりにも不気味で、幼馴染のイオでなければ逃げ出していたところだろう。
「…り、がきているから、血の匂いが凄く僕たちの鼻をくすぐるんだよね? 」
イオはぎろりと睨む。ひとつ前の言葉からつなげるとわかるかも知れないが、 『せい』 『り』 なのである。現在聖恋は生理がきていて、血の匂いがいつもより濃いのである。
「俺はいいが、聖恋の前ではそれを言うなよ? いいな」
良い終わると同時に、イオは聖恋の元へと走っていく。
「あ”! ずるい、僕も!! 」
また、ヴァルも走り出し、後に二人同時に何の遠慮もなく飛びつかれたため、二人は聖恋に怒られることとなる。
「じゃー、学校、行って来るか! 」
私は学校の靴を履き、玄関を出る!さっき私に飛びついてきた二人は、殴ってぼこぼこにしてころがしてある。
「わわ! 待って、僕たちも行く! 」
「もって、俺もか」
「え? 何? まだ気が済まないの? もっと叱られたいの? 」
さっきは本当に大変だったのだ。いきなり二人に飛びつかれて、受け止める体制が立てられずに椅子に座ったまますっ飛んだ。それを見たお母さんは心配してはくれたが、何をしたのか、何が起きたのか、すごく気にしていた。これで、お母さんにイオたちの事がばれてみろ。大変な事になる。
二人はさっきの事を思い出したのか、同時にしゅんとなる。
「だってだって! ご主人様から血の匂いがするから、匂いを楽しみたくてつい…」
「…? 私は、今はどこも怪我していないわよ? 」
その時、いきなりイオはヴァルを殴った。
「な、何!? どうしたの? 」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
イオは何となく作り笑いを浮かべてごまかす。
「そ…う…? 」
気にするな、と言われて気になるのは人間だけなのだろうか?
「……ねぇ、それよりもね、さっきあんなに叱られたのにまだ足りないの? 言ったよね!? もう二人は学校に連れて行かないって! 」
「で…でもね、あのね…」
珍しくもじもじするヴァルに、何となく話を聞いてみる気になった。
「何よ? 」
「君は最近、ヴァンパイアが見えて、血もとびっきり美味いって噂になってるんだよ!! だから、僕たち以外のヴァンパイアにも襲われ…ん”っん”! 狙われているんだ。それらは僕たちが今まで排除してきたけど、僕たちがいなかったら今頃君は血が足りなくなって死んでいたかも知れないんだよ!? 」
ゾッとした。まさか、ヴァンパイアに血を吸わせることにそんな危険があるとは思ってもいなかったのだ。でも確かに、過去に見たテレビでヴァンパイアの物と思われる牙の後を残したひとたちは死んでいた。つまりは、貧血よりもさらにやばい状態になったということだ。てことは、私も同じ目に…!?
「それは…」
「ん? 」
「それは、ちょっと困るかも。私はまだ、やっていないことがいっぱいあるし。…恋、なんかも…」
言っているうちに自分の顔が赤くなっていくのを感じる。ああ、私のばか! 何でそんなこと言っちゃたんだよ!?
「そうかい、そうかい。で、どうするの? 」
ヴァルはニコニコと笑っている。が、それはヴァルと幼馴染のイオにとっては、悪魔の微笑みにしか見えなかった。嘘つき! という心の声を込めてヴァルを睨んだが、ヴァルは知らんぷり。何かたくらんでいることは丸わかりである。
まあ確かに、聖恋の血が極上だと言われているのは認めよう。狙われているのも。しかし、今までに聖恋は襲われたことがない。そのため、俺たちが助けてきたという事実はない!いや、それも違う。確かに、俺たちは助けてきた。俺たちが聖恋のそばにいることで。純血のヴァンパイアならば、俺たちの顔を知らない者はいない。たとえ混血だとしても、純血にかけられている結界でそのそばにいる聖恋は守られてきた。まあまず、混血は血を吸わなくても生きていける為、そもそも人を襲うということをあまりしない。結果、俺たちは何もしていない、という事なのだ。聖恋を救っているのは、俺たちの生まれと、純血であることなのだ。俺たちは、何も手出しをしていないでのんびり過ごしてきた。
こいつ…!よく、生まれと血筋で自分が救った、みたいな言い方をするな。すべては親のおかげだろうが…!
聖恋が俺たちを連れて行こうか迷っているとき、俺は迷いなく口を開いた。
「…ヴァル…」
「しーっ」
ヴァルは俺を見てウインクしてきた。…おえっ。
いや、それよりも…。…何を、たくらんでいる!?
俺が待った時間は長かった。とても。もう、ヴァルが何をたくらんでいるか三つの考えを思い浮かべられるくらいには。
「う~ん…じゃ、お願いししよっかな? 」
ヴァルの顔が輝いた。
「っ! ホント!? 」
「うん。じゃ、そろそろ時間やばいし、いこっか? 」
「うん! 」 「ああ」
二人同時に返事をして、三人は玄関を出た。
こんにちは、桜騎です!今回の場面、少し言いたくない場面が出てきましたよね!?あれです。あの…『せい』『り』ってやつです!言いたくないというか、恥ずかしいと言うか…。まあ、とにかく何とかごまかせないかな~って思ってたんですよね!でも結局、言わざるを得なくなりました…。上手く回避できない自分の力に残念だと思いました。まあ、泣いても仕方ない事です!次はもっと頑張ります!
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!