いいこと
「…っ…はぁ…」
ヴァルは何度も位置を変えて吸血してきた。何度も、何度も、一息に吸って、また一回。
「ちょ…ヴァル、もう…」
無理。そう伝える前に私の脚は限界を迎え、私を支えていた脚から力が抜ける。倒れこむまえにイオが私を支えてくれる。
イオはヴァルを睨む。
「おいヴァル、吸いすぎだ。聖恋が貧血になっている。少しは我慢しろ」
ヴァルはくすくす笑った。そして目前が暗くなりかけている私を見て、口を開いた。
「おやおや、ごめんね? ご主人様が僕に血をくれなかったから、久しぶりの血に我を忘れていたよ」
「聖恋が悪い、みたいな言い方をするな! もとはお前が聖恋を怖がらせたからだろう? だから、私には血を与えてくれる」
…まあ、それは私が悪いのだ。仕方ない。
「イオ、そんな怒らないで? 怖がって血をあげなかった私が悪いんだから」
イオはしばらく黙ってヴァルを睨み付けた。
「まあ、…聖恋がそういうなら…」
「それに、二人とも私のペットじゃないよ? 私の友達なんだから、私が血を与えようが与えまいが、勝手に吸えばよかったのよ。主従関係じゃないんだから、命令とかそんなのないし」
「え!? よかったの!? やったあ!! これからは思う存分吸えるね」
暗い視界のなかで、イオがヴァルを睨む姿が映る。
「お前はだめだ。吸われる者に情もかけず、最後の一滴まで吸い尽くすお前は吸ってはいけない」
「なにそれひどくない!? ヴァンパイアが餌に情をかけるとか、マジありえないでしょ!? それに、たいていの人間は抵抗するでしょ? 」
「だが聖恋は優しいのだ。抵抗せずに、思う存分飲ませてくれるに違いない。お前が吸えば、聖恋が生きている可能性は少ない。お前も聖恋が気に入ったのなら、大事にしろ」
「へえ…どういう意味で気に入ったのかな、君は? 」
「…っ…うるさい! 」
私は二人の仲のいい会話を聞きながら、とろとろと瞼を閉じる。…頭も痛いし、もう寝たい…。
私は何も気にせず、夢の中へとおちて行った。
「だぁかぁらぁ! 君はどういう意味で…」
「だから教えんと言っただ…」
「し! 静かに」
「は? 」
ヴァルの急な様子に首を傾げ、黙ると、かすかな寝息が聞こえてくる。床に座り込み、俺に寄り掛かるように体を預けていた聖恋は、心地よさそうな顔で寝ていた。
「…」
「…いつの間にか、寝ていたな」
「そうだねえ」
俺は再びキッとヴァルを睨み付ける。
「お前が貧血にまでさせたんだろ!? 」
ヴァルはひらひらと手を振ると、いつの間にか座っていたことに気づき、よいしょと立ち上がる。
「はい。イオ、いくよ? 」
「どこにだ? 」
「女の子なんだから、いろいろとあるでしょ? 例えば、寝顔を見られたくない、とか…」
「あ、ああ。…そうだな」
俺は聖恋をベッドに寝かし、ヴァルと部屋を出る。
「さぁ、これから、どうしようか? 」
ヴァルは何か答えを求めるようにニヤニヤと笑った。
「知るか! 自分で考えろ! 」
「そうか、そうか。なるほどね〜? 」
何がなるほどなのか分からないが、ヴァルは満足気にうんうんと何度も頷いた。
そしてしばらくすると、ヴァルは俺を見て更にニヤニヤと笑った。
「・・・なんだよ? 」
「べっつにー?」
・・・嫌な予感しかしない。だが俺が関わるともっと大変なことになりそうだから、無視を決め込む。
「いいことを思いついちゃった♪ 」
そのときそっぽを向いていた俺は、ヴァルの顔を見ていなかった。
こんにちは、桜騎です!今回はヴァルがニヤニヤと笑う場面が2回も出てきました!いつもはくすくすと笑うのに・・・っとなって、とても珍しいことに気づきました。てか、ヴァルがニヤニヤと笑うということから、次回、ヴァルが何かをやらかすことだけは目に見えてますよね!次回もよろしくお願いします!