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心愛の動揺。

人の性癖ってめんどくさい! っていうお話です。

 合コンから一週間、今日子と心愛の様子が変だと気づいたのは翔子だった。

 今日子の方はきっと何かの恋が始まっているんじゃないかという感じはあったので放っておいた。タイミング的にこの間の合コンかもしれない。意外と分かりやすい子なのかもしれない。

 そのタイミングで、心愛の様子がおかしいほうが翔子には気にかかっていた。

 特に、今日子に対してよそよそしいというか、何だか妙にばつが悪い感じだった。

 心愛が今日子を避けているようでいて、何かを言い出せない感じだ。

「ねえ、心愛。何だか分からないけれど、今日子に言いたいことあるなら言っちゃえば? それとも私にでも話してみれば、何でも聞くよ」

 世話焼きの一面がそういわせたのかもしれなかったが、心愛にはその一言が痛かった。

「しょこたんありがとう。でも大丈夫」

「大丈夫って……大丈夫じゃないときに言う言葉だよ。心愛何かあったんじゃないの」

 何でもあけすけに話せるのは女同士のいいところだけど、全てをさらけ出す人間なんているだろうか、話せないことだってあるんだ。どうして翔子はそこが分からないんだろ? 心愛には無邪気な翔子が暑苦しい。

「ううん、ホントにだいじょうぶだから。心配してくれてありがと、しょこたん」

 にっこり笑って心愛は次の講義の教室に向かい、心配顔の翔子も別の教室に向かった。


 一週間ほど前、心愛は何気なく彼氏のパソコンをいじっていたところ、外付けのハードディスクに大量の画像と、動画を見つけてしまった。

 問題はその写真や動画の中身であった。

 そのファイルのほとんど全てが、中学生や小学生と思われる、幼い少女達の裸だったからだ。

 中には目を背けたくなる程おぞましく、凄惨な少女の境遇のものまで含まれていて、心愛はすぐに気分が悪くなり、思わずトイレに駆け込み食べたもの全てを吐き出してしまう。

 昨今社会問題化している、援助交際や近親相姦を匂わせるタイトルもずらりと並び、さながらパーフェクトなそれ専用のコレクションのように整理整頓されているのも特徴的だった。

 心愛は強烈なめまいを覚え、それを見たことを彼氏にばれないように、そっとPCを閉じた。耳鳴りがやまず、視界がぐるぐると回っている。気分が悪い。幸いにも、今日彼は残業で帰りが遅い。

 混乱する気持ちが収まるのを待って、それには半日ほどかかったが、整理して考えてみた。

 彼の見ていたものはロリコン写真やその動画集だ。はっきり言って彼の、凜の性癖はロリコンなのだ。性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖性癖ロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコンロリコン。

 整理して考えた結論はさらに心愛を苦しませることとなった。

凜はここあの知らないところで何か、小中学生に悪戯いや、犯罪に走っているんじゃないのか、私に対してもそういう目で見ているんじゃのないかしら、そもそも何で私のゴスロリを喜んでいたの? 答えは凜はロリコンだから。気持ちが悪い、きっと彼はそういう目でしかここあの事見ていないんだ、彼との行為を思い出すと寒気と吐き気がしてくる。だから私がピル飲むようになってから喜ぶようになったんだ! 私のなかに出すのはきっとこんなロリコン動画のせいなんだわ、思い出の愛の行為全てがそう思え、全身にチアノーゼを起こしたかのごとく血の気が引いていく。そうして益々気分と体調が悪くなる悪循環にはまってしまう心愛。漫画やアニメやライトノベルの中の少女キャラなんかも気持ちが悪い、そんなのものが世の中にはあふれ返っている世界にも嫌気がさす。今の心愛にとって世界が敵だった。

 ああ、できるなら凜には会いたくない、今日は帰ってこないで欲しい、彼に触れられるなんて考えただけで悪寒がこみ上げてくる。今会ったらきっとハードディスクの事を問い詰めてしまう。……何故だか、それだけは避けたほうがいい、そんな直感が心愛にはあった。それにしてもこんなことがあるなら同棲なんてしなければ良かった。一時的にでもいいから実家に帰りたい、でも実家は遠く、おいそれと帰れる距離ではない。どうにか自分を偽ってでも今日明日はこの寒気と吐き気とめまいと耳鳴りを治さなくては……。凜とはできるだけ会わない話さないようにして、態度をごまかさなくちゃ。今日明日だけは絶対にセックスは嫌!

 次の日、体調不良で心愛は大学を休んだ。

 内科と耳鼻咽喉科を受診して薬をもらい、心愛はどうにか体調を取り戻し、大学に復帰した。

 家にこもっていたところで、心は負のスパイラルに落ち込んでいく。それが嫌だった。だってあんなものが転がっている部屋なんて。

 そんな複雑な気持ちを知ってか知らずか、翔子に突っ込まれて動揺してしまう心愛だったが、回りや自分を誤魔化してみたところで問題の解決には至らない。

 こんなこと、もし翔子にでも、ちょっとでも話したらナニ言われるか分かったものではない。女である心愛にはそのことが目に浮かぶようだった。女ってこんなときホントにめんどくさく複雑なのだ。「私にだって言えない事だってあるんだ。それくらい察しろよ元副生徒会長!」翔子と別れて教室に向かうとき心愛は心からつぶやくのだった。

 ドイツ語の講義を受けながら、心愛はぼんやりと思い出していた「今日子に話してみれば」という翔子の言葉。

 心愛はいつの間にかそんな態度をしていたのだろうか? 自分でも不思議だったが、どうも翔子はそう感じたらしい。

 視界の端にいる今日子を見てつぶやく。

「ああきょこたん、あのゲイの人とちょっといい関係になってるのかも」

 ピンッとくるものがあったのか、心愛は今日子に相談してみようとぼんやり考えていた。

 ドイツ語の講義が終わり、心愛は今日子に近づく。

「きょこたん、ちょっと折り入ってお話があるんだけど……」

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