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合コンゲームの続き

 翔子の用意した問題のテキストは次の通り。

「メールを読んでいたカメオはすぐさま友人の家に押しかけ、子供のランドセルにオレンジのカバーを掛けました。なぜ?」


「しょこたん、みんなで相談しあうのってありなの?」心愛

「心愛いい質問よ、もちろんオッケーよ。そこで盛り上がって欲しいわね」翔子

「じゃあまず年長の僕から、メール重要ですか?」春人

「イエス、良い質問です。ですが、そこにとらわれると先に進めない恐れがあります」

「友人って、重要なの?」恐る恐る尋ねる輝

「ノー、設定上友人でなくとも成り立つという意味でね」

「友人じゃなくっても話は通じるのかな?」勇人

「イエス、設定上大丈夫よ」

「オレンジの色って重要?」今日子

「ノー」

「やっぱり人が死ぬの?」心愛

「イエスノー、良い質問よ。人が死なない設定も可能だけど……これ以上はいえないわね」

 少し悔しそうな表情をちらつかせながらも輝は質問するともなく、みんなに相談する。

「いま手倉森さん(心愛 ここあの苗字)の質問って、ちょっと怖いけど、子供が死ぬってことと関係してるのかな。みんなどう思います」輝

「そうそう、そうやって水平思考をめぐらせていくんだよ。がんばって」翔子

「翔子さんは人がいいね、確かに勇人君が好きになるのもわかるよ。おっと、それより子供が死ぬってどんな状況なんだろうね」春人

「そもそもこの話の設定って日本なのかそれとも外国なのか、現代でも成り立つ話なのか分からない状況じゃないですか。そこ質問で整理してみませんか?」勇人

「賛成」今日子

「じゃあ、まずこのカメオ君が住んでるのは日本ですか?」輝

「ノー」

「現代でも成り立つ話?」今日子

「イエス、ていうか現代じゃないと……結構いい質問かも」

「外国の話としたほうが自然ですか?」春人

「イエス、いい質問です」

 ここまできて、質問することがいったん途絶えてしまった。少し皆が重だるい雰囲気に包まれて考え込んでいるようだ。

 が、突然に心愛がなにかを閃いたように口を開いた。

「ねえこれってテロ関係してるかな? なんだか外国のテロの話想像しちゃうんだけど」心愛

「えっどこからその発想もってくるの心愛ちゃん?」勇人

「まって、その発想、すごく面白いよ。なにか発展しそうな雰囲気じゃない。え~~とねえ~~……」春人

「心愛って天然だけど、時々突拍子もないこと考えてる子なんですよ」今日子

「まあ、とりあえず。この話、テロ関係しますか?」勇人

「イエス、大変良い質問です」

「そうだ、これこれ。無人攻撃機UAV登場しますか?」春人

「イエス、イエス! 大変良い質問です。ですがまだピースが必要かも……」

「春人さん、ナイス! 分かったかも」今日子

「じゃあ今日子言ってみて」翔子

「その前に、このカメオの職業はスパイですか?」今日子

「イエス! 正確にはエージェント。もうほとんど分かったんじゃない? まとめてみて」

「某国のエージェントであるカメオは、本国からの暗号メールを解読してびっくり。その内容は子供を使った自爆テロ。そして、それを阻止するために無人航空攻撃機がフライトし、子供をピンポイントで殺害することとなった。その目標を避けるにはランドセルの色で見分けることもきまっていて、現地協力者の家族を守るため、カメオは急いでその友人宅の子供のランドセルの色を変えたのでした?」今日子

「正解です! 結構早かったね」

「「「おおお~~~、でもえぐい話だな」」」

「今日子さんて結構数学とか得意なタイプだったのかな、頭の回転速いね」春人

「春人さんがテロ関係の重要性指摘して、無人航空攻撃機の発想もって来なければ分からなかったですから」今日子

「僕が悔しいのは手倉森さんが突然テロの発想したことかな、あの電撃的発想できないのがくやしい~」

 惜しげもなく本気で悔しがる輝。本気でゲームに取り組んでいたのだろう。そう思うと、翔子は満足できるのだった。

「そうそう、そうやって、水平思考でヒントを探りながら、論理的思考で話をまとめていくゲームなんだよ」勇人

 翔子にちらりと視線を移し、軽い敬礼を送る勇人。翔子もそれとなく視線を交わす。本とは翔子には分かっていた、合コンが壊れないようゲームが上手く進行するよう決してでしゃばった態度をしなかった勇人の配慮に。結構バランスの取れた考え方をする癖に、どうして何人もの恋人を同時に作ろうとするのか翔子にはどうしても納得がいかないのだった。最早元鞘に戻ることなどありえない関係なのに、不思議な感情に翔子はとまどった。

 その後、皆で乾杯し、カラオケを歌い一同喧嘩することもなく楽しく合コンを終われることとなった。


 四角四面に整理された部屋には、骨董品と呼ぶのにふさわしい木製の囲炉裏が置かれ、火の掛けられる部分にはガラスで覆われている。いまや唯のテーブルとして使われている調度品に過ぎない囲炉裏だ。

 ほかにも時代ががった金魚鉢が出窓に置かれ、中に一匹の黒い出目金が泳いでいる。

 空騒ぎの合コンから自分の部屋に戻った田中はもはや春もすぎ初夏の始まりだというのに寒さを覚えずにはいられなかった。

 今日にかぎってなのか、温かみを感じていた木目の古ダンスや囲炉裏、シャビーな机に鎮座する緑色のバンカーズランプが今日に限ってやけによそよそしいじゃないか。この部屋の主を排除しようとしているかのようだ。

「いい加減、ゲイであることを認めているはずなのにこの合コンという付き合いの後にやってくる罪悪感、虚無感、虚しさ、寂しさって一体なんだ? ああっそうか、これって射精のあとのアレといっしょだな……」

 独り言を黒い出目金につぶやいた後、えさを与え、部屋着の着物に着替える田中。ゲイの独り身寂しさは若いうちにも身にしみる。空騒ぎの後にはより感じるものだ。

 着替えの最中に、スマホにメールの着信音が鳴る。

 だらしのない格好のまま、春人はスマホを手に取り指を滑らせた。

「今日のゲームでの春人さんの存在、気になりました。今度は是非、二人で逢いたいです。 鈴木今日子」

「あっあのLの子……」

 春人は急に部屋の明かりをつけていないことに気がつき、スイッチを入れる。

 春人の照明は時代がかったミルクガラスの骨董品で、唐草模様が前近代的、それでいて見ている者を吸い込む様なやさしげな品がある。テッパチの照明に電球色の灯かりが灯り、急に部屋の主を認めた家具や調度品達だった。

「僕に……できるのか?」

 家庭的なぬくもりに飢えていた瞬間の心の空隙を今日子のメールが突いた一夜。


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