凜編
凜が突然の登場でなじめないかもしれませんが、同じ事象のなかにいるときどんな気持ちでいたかを書きました。
凜編
真っ赤なトマトを切りながら、心愛は凜にこの間のハードディスクの話を軽い調子で話し出した。
「男のひとがエッチなもの見るのはしかたがないわよね?」
少し不機嫌な顔をして凜は答える。
「……まあね……」
心愛が下ネタを話し出して、凜はなんだかもやもやしたものを胸の奥に感じ始めている。きっとこれから何かが始まるような不安感にとらわれているのだ。
心愛はトマトを小皿に盛りつけながら、トーストの焼ける時間をチェックする。
「でもアレはないんじゃない? りんりん」
ドキリとする言葉「アレ」、アレに該当する事を頭の中に思い浮かべ、「男のひとがエッチなもの見るのはしかたが……」の言葉と照らし合わせてみる。
表情が強張って、新聞の文字が、頭の中に入ってこない。手が緊張のせいでじっとりと湿り気を感じ始めた。
心当たりはある。同僚からこっそり教えられたロリコンの世界、奇妙な背徳感からそっと覗いてみたせかいだった。もちろん最初は罪悪感があったし、今でもグロさから吐き気を催すこそさえ。
でもそんなことだから興奮したってのが本音でもあり、そのせいで世界が暗く見える位落ち込んでしまうこともあった。
背徳感からくる興奮に酔っていた。
その興奮する自分に険悪感を覚える。
心愛はきっとそんな事を話しだすのに違いない! 俺の咎を責めて来るんだ!
そう想像すると、胸や腹、脇の下がじっとりと汗ばんできてしまう凜。嫌でも緊張が高まってくる。そっと凜はベランダに出て、煙草を立て続けに三本吸い、またそっと部屋に戻り、心愛の準備したトーストにジャムを塗り、噛り付く。もう緊張のせいで味覚が麻痺しているのを実感し、より表情が硬くなっていく。できるなら早く会社にいってしまいたいが本音だ、針のムシロにいるのが恐ろしかった。
「ねえりんりんパソコンのことなんだけどさ、大事な話があるの」
あまりにドキリとしてしまい、今の鼓動を聞かれたんじゃなかとすら思ってしまう凜。
「エッチ」「アレ」「パソコン」この三つのワードから導き出される答えは最早明確だが
論理的思考など最早どうでもよく、凜は自慰
行為を責められる子供の様な心境になっていた。もっとも、彼自身そんな思いを経験したことはない。しかしそうとしか表現できない罪の意識、咎人の感情。
黙ってテレビを付けて、その音量を上げだす凜。
この居たたまれなさっていったいなんだ? 苦しいなんてものじゃない。そうだ、恥ずかしいんだ、実際辱められているのだ。もうこれ以上、俺をせめないでくれ!
全身から汗が滲みだしてきて、表情こそ変わらないが本人の感覚では顔が真っ赤に。
「リンリン、小学生とか好き人?」 余計な駆け引きを排除して、いきなりの本丸に、核心に心愛は迫った。
真っ赤だった顔がこんどは真っ青になって行く様だ、血の気がサーと引いていくのが分かる。貧血の様な目眩に凜は気分が悪くなってきてしまう。この言葉は凜にとって「凜てロリコンなんでしょ?」って責められてるのと一緒だ。
「心愛見ちゃったの、リンリンごめんね。心愛の事そういう目で見ていたの?」
そういう目で見てなかった言ったら……嘘になる……恋人に自分の自慰行為を指摘され辱められるのが、こんなに苦しいなんて。
表情こそ変わらないが、微かに震える指の動きも見逃さない心愛。
「なんの話?」
あくまでもとぼける凜。またごまかすつもりなのか、禁止していた部屋での煙草に火を付けようとする。さっきよりも指の震えが大きく、なかなかライターに火がともらない。
とぼけるのも、嘘を吐くのも苦しいんだ。とても、ものすごく苦痛なんだ。もう煙草の味なんてわからない、酷くイラつき居たたまれない。
「何の話? え~~わかってるくせにリンリンの性癖の話だよ。凜って小さい女の子が好きなのって聞いてるの、どう? 答えてよ、答えなさいよ!」
なんて怖い言い方をするんだ! 心愛は怒り出すと怖い。そんなに男を叱らないで、辱めないで。心愛の言っていることはこうだ「アンタみたいに、小学生みたいな抵抗の出来ない、弱い存在、不完全な存在が性の対象なんでしょ? なっさけないと思いなさいよ! 自信が無いのよね? 変態野郎だからでしょ」
最初に手が出たのは心愛の方だった。
投げたのはジャムの瓶で凜の胸に当たり、床に鈍い音をさせ転げ落ちる。
「何で何もいわないのよ、黙ってればそれで済むと思ってるの? あんたのやってることって唯の犯罪だからね! それを見た私の気持ちが分かる? 分からないでしょうね、だからあんな気持ちの悪い動画とか画像見てるんでしょ! 被害者の女の子の気持ち考えた事あるの? 想像つく? 想像絶する気持ち悪さなんだよ。女を何だと思ってるの? そんなに未熟な女が好きなの? ああ私の知らないところで一体何してるんだか想像もつかない!
いつもの事だ、すぐにこの女は物を投げつけて来るんだ。コンポを壊したことも、窓ガラスを割ったことだってある。可愛い外見とは裏腹に、こんなに気性の激しい怖い女だったなんて。
確かに心愛の言う通り、俺は悪い。でも悪いからって何でもしていいわけじゃないじゃないか。
落ちるところまで落ち、グチャミソにされた男は最後に反撃を決意した。
「うるせえっ」
その声と同時に響く「パンッ」という乾いた音。
絶句する心愛。
頬を赤く腫らし手を添える心愛は次第に全身を震わせ、目から大粒の涙をこぼれさせ、大泣きする。
大泣きしながら、頭のなかを真っ白にしながら、ありったけの罵詈雑言を吐き出し、凜の事を拳で叩きつける。
女を殴ったのは凜には初めてだ、いくらやられたってずっと凜は我慢してきたのだ。
「少しは俺の気持ちも分かってくれよ」そう凜は心の中でつぶやいた。
それから帰ってきたのは更なる罵詈雑言と暴力、もう凜はくたくたに疲れ切ってしまっている。殴りたいのなら好きなだけ殴るがいいさ。好きにしろ、ああっ男なんてやってられねえ……それでも際限なく続く暴力に凜は耐え兼ね降参をした。
「わっ悪かった、俺が悪かったから……もうしないから、もう許して」
いかがでしたか? 描写へんじゃなかったですか? 気になりますがまあそれはさておき、この二人のお話はもう少し続きます。
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