心愛と翔子
もしかしてこの話は変えるかもしれません。
その夜、春人と今日子は翔子の家で一緒に心愛を下ろし、二人はそのまま遅いとの理由で春人の家に向かうことになる。
「じゃあね今日子がんばって、おやすみ」
「う、うん」
「きょこたん……ありがとう。そして春人さんも」
「今晩ははゆっくり休んでね、心愛ちゃん」
挨拶もそこそこに別れていく二組。
翔子と心愛の夜更かしの始まりだ。
「心愛先にお風呂入りなよ、もう沸いてるから、それと下着は私の妹のやつ貸すから、見たとこ体系あいそうだものね、うん。あっいいよ、お風呂入っているうちに用意しとく。もち歯ブラシもお客さん用の一緒に下着と出しとくからお風呂場で歯磨いちゃって、えっ風呂場で歯磨きしたこと無い? そういう家あるんだねまあ今回は我慢してよ」
家族に心愛を軽く紹介した後、言うだけ言っててきぱきと支度をし、軽いつまみを準備し父親の焼酎の盗み酒を頼む翔子だった。
急に他人の家の風呂に入れられて少々面食らう心愛だ。他人の家というものは匂いが違う、洗面所にもそれが現れる。やけに化粧道具がごちゃまんとしている洗面台、歯磨き粉や石鹸の泡の乾いたカスのこびりつく大きな鏡。ああこれって「家」なんだと納得する心愛。
風呂に浸かるうち、じょじょに気分もほぐれていく。妙に気になるのは壁のタイルのひび割れを修復した跡、汚らしくゴムの目地跡が目立って変な感じ。きっと手馴れない男の大工仕事なんだ……、なぜか心愛はそう思った。
風呂に浸かり、今日一日で起こったことが整理されてくる心愛。
やがて頭も心も身体もすっきりした心愛は翔子の妹のお下がりである中学生のエンジ色のジャージを寝巻き代わりに着る。もともと子供のような顔をした心愛はまるで中学生にしか見えない、そうなるとやっぱり思い出すのが彼氏凜の性癖のことだ。
心愛の後には翔子が風呂に入り、その間心愛は髪を乾かし、医者から処方された薬を飲んだ。
「おや心愛、一杯やるのに待っててくれたの~。あっりがとう! いや~さっぱりしたね」
「しょこたん、お風呂早いね」
「私結構熱い風呂が好きなの、だからあまり長く入ってられなくて。あっ乾杯って感じじゃないけどちびちびやっていててよ」
翔子の部屋はやっぱり何か、匂いが違う。臭いとかじゃなくて、自分の居場所じゃない感じにどことなく飲む気分になれない心愛だ。
「じゃあ、私はお父ちゃんの酒いただいちゃおうっと」
「え~~しょこたんいつの時代よ? おとうちゃんなんていってるの、なんか感じ違う。びっくりなのだ~」
「えーそうかな、家帰るといつもの呼び方に戻るからなのかな。でも時代とかの問題?」
「きっと珍しいよぉ、いまどきお父ちゃんなんて……」
心愛としては素直に言っただけだったが、翔子にとっては面白くない、自分の家族を馬鹿にされているように感じてしまう。
「じゃあ心愛は同棲の彼のことなんて呼んでるのよ」
どこと無く言葉にトゲがある言い方に心愛は気づかない。
「リンリンとか呼んでるのだ~」
「うっわ、キモ! リンリンはないっしょ、やっぱワラサだわ」
こうなると次に面白くないのは心愛だったが、勘の鋭い心愛は気づきながらも、「なあにお~お父ちゃん~なんて、ファザコン? きもっ」
「あんたこそ彼氏がロリコンだった癖に!」
そこまで口にしてさすがに翔子もはっと、われに帰った。
「あっゴメン、言い過ぎたわ……」
少し目を赤くする心愛は、そっぽを向いて黙ってしまった。
(あちゃ~やっちゃったか、こんな時なだめてくれる今日子いたらな~、大体あのコそういう風にならないようにするタイプだし、だから喧嘩になりそうになると止めるんだ、いないと良くわかるうんうん。ってそんなこといってるばやいでも無いし……)
(しょうこめ~ええそうですとも、ここあはロリコンの性の対象として見られてるって。もういい加減に凜が駄目な奴かもしれないって気づいてた。ギャンブルこそやらないけど本当に無計画な買い物ネットでしてみたりとか、ああ、もういっぱいあり過ぎて、クッソーこのまま結婚ってことになったらリンリンが『お父ちゃん』ってこと? それで子供が生まれてしょこたんみたいな娘だったりして、って何の妄想! リンリンが家族って本気でそう思ってる? 家族って一体何?)
心愛が話し相手を無視するのは都合が悪くなったときの逃げ道、翔子が今日子を頼るのは無いものねだり。
気まずい雰囲気を解消するなら、やっぱりこの場にいない誰かの悪口。
「ね心愛。今日子、彼と上手くいくと思う?」
そっぽを向き、爪をいじりながら心愛は答える。
「うーんHとか無しならかな」
「やっぱそこかあ、友情でHするってないのかな~」
「友情と同情って微妙に違うのだ~」
そう言いながら心愛は翔子に向き合い、いつの間にか無視をやめている。
「同情からのHかあ、あっあいつ、勇人、そういうテク上手かったなあ」
「うまくやり逃げされちゃったよね、しょこたん」
「ホント心愛って突然ドキッとさせること言うよね、それ彼氏にいってやんなよ」
やっぱり彼氏の凜はロリコンで、それを見て見ぬ振りって出来ない。いくら男の身体が溜めちゃうものだとしても。
「ねえしょこたんどういったらいいのかな? ロリコン画像、動画気づいてるよ~って」
「むずいよね、てかどのタイミングで言う~?」
「やっぱりHの後?」
「ええっ逆じゃない? Hの前に言って、認めなきゃHさせないぞって脅してやればいいよ、絶対効くよ」
「しょこたんスゴイ! Hに自信あるんだ」
「私の締り凄いんだから! って何言わせてんのよ! そうじゃなくて男って金玉おさえちゃえばいいんだよ! わかる? あ~もう恥ずかし」
「えーテクニックって大事って話? それくらいわかるよ。男って馬鹿なんだも~ん」
「だったら玉袋おさえてやりなよ、胃袋おふくろより大事だよ」
「って男の子って、そんなにHのこと考えてばっかなの? キモィ~~~」
翔子はツンと澄ました表情になり、今日子の口真似をして言う。
「しょうがねえだろ、溜まっちまうのがヤロウなんだからよ!」
その様子が結構似ていたのか思わず吹き出してしまう心愛だ。
「なにそれ~きょこたんそおっくり、やばいってキャッキャッ!」
女同士集まれば悪口が飛び交うもの、女集まればかしましく醜い時もある。
「そうそう今日子ね、あのコってさまさかゲイと付き合って上手くいくと思ってんのって感じよね」
「しょこたん結構毒吐くのだ~」
「だってあのコなんか生意気じゃない?」
「わかる~~」
「友情で男女関係上手くいく訳ないわよね」
バイセクシャルの彼氏を持った事など、どこの棚に置き忘れているかのごとく翔子はまくし立てる。
「ねえしょこたんさ、きょこたんのあの結婚観って言うの? 何でゲイなんかと一緒になりたがるの~?」
「なにカマトトかましてるのよ、今日子って負け犬のレズビアンでしょ? だから心愛、もてあそぶようにシカトかましてからかってるんじゃない」
「ひっどい言い方なのだ~ぷんっ」
変えちゃったらごめんね。




