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今日子の青春2

こんなんぬるいぬりい! そんな方の意見是非是非聞かせてくださいませ。

タコ殴りにしてください。ご意見お待ちいたしております。

 最終的に、今日子のスナッチの最高記録は70kgに達し、ハイクリーンには100kgの大台を突破する。

 そのトレーニングの効果は絶大だ。

 伸展反射、スポーツや武道の世界の極致が一つ。それをもたらすものだからである。

 伸張反射とは、筋肉が伸ばされたときに一瞬で縮もうとする身体の反射のことで、本能そのものに他ならない。この本能は自分の意思で筋肉に力を入れたときの数倍の力で筋肉が収縮するため、スピードが非常に速い。つまりが武道の世界では「先」をとるがために最も必要な要素である。

 それを作る土台が基礎筋力で、一瞬の爆発的力をはっきさせるのが運動神経、すなわち伸展反射。

 それを今日子は物にした。

 実際、彼女の扱うなぎなたは女子平均の扱うなぎなたより重い。ただ、今日子の振るう「鉈」は重かったという意味ではちょっと違う。

 ニュートン力学上、運動エネルギーは加速度の平方に依存する。

 今日子の扱う「鉈」は速く、その結果の打突が慣性重量が重かったのだ。

 その慣性重量は今日子の身体の末端に現れた。しびれるような痛みが手首や肘に時折走るのだ。強大な体幹に比べて細い筋が悲鳴を上げているのだ。

 防具稽古では顕著にそれが現れる。

 少し変わった形から入る今日子の上段の構えから繰り出される、面胴脛はよく伸び、驚くべき速度を放つ。

 それはさながらプロ野球選手の投げる剛速球を向こう5メートルから投げられているかのように相手は錯覚してしまうほどの速度だ。

わかっていても対応できない、恐怖すら感じさせられる防具稽古に、もはや先輩などが口を出せるレベルではなかった。

 かつての先輩は絶対だった。

 今日子が階段で先輩達とすれ違うとき。


「おい待てコラッ!」

「ん? どうかしましたかセンパイ?」

「どうしましたか? じゃねえだろ、センパイに対してなに挨拶も寄こさねえでシカトぶっこいて何通り過ぎようとしてんだ?」

「あっそういうつもりでは……」

「じゃあどういうつもりだ? タコ! いいか部活の先輩後輩は絶対。先輩が白っていったら黒いものでも白なんだ。よく覚えておけ!」

「……ッス良くわかりました」


 そんな先輩など、もはや今日子の相手ではない。強くなれば成るほど今日子は孤独になっていく、それは今日子の望んだ道。

 強く、潔ぎよく、カッコよく。そんな世界が今日子のすべて、首筋に冷たいメスを置かれているが如き状況が今日子は好きだった。ひりひりとする勝負感覚でなければ面白くない。


「ああ~~~~~ん、もうサクショウちゃんたら~~~」

「……ばあちゃん、だいじょうぶか?」


 ある日、今日子は祖母の留子の部屋を訪れたときにサクショウの写真に口付けする場面をみてしまっていた。


「なんだい? 恥ずかしいコだね。入るときくらい入るよ~位言えないのかい?」

「ノックしたって~」

「聞こえなきゃ意味ないんだよ」

「悪かったなばばあ、それよりちょっと聞きたいことあんだけどさ。ばあちゃん昔なぎなたの範士とったマジか? やべぇじゃん、ちょっと話し聞かせてよ」

「……ああ、今日子お前なぎなたやっているんだって?」

「そうだよでももう回りのやつらじゃ相手になんないんだ。これからどうやって稽古したらいいのかなんて」

「なぎなたなんて強くなってどうすんだい?」

「とりあえずインターハイ出場めざすよ」

「じゃあばあちゃんと賭けしないかい? 今日子が優勝できたらご祝儀出すよ、その代わり負けたらわかってるね?」

「面白ぇ上等じゃねえか、ご祝儀とやらかっぱいでやる」

 思わず部屋着のジャージの腕まくりをする今日子。

「ホントはなぎなたなんてどうでもいいから男の子と遊んだ方がいいんだけどね……」

 ぼそりと呟く留子。



 ダイエットというよりは減量、その後期期間は今日子にとって試練だった。

 半端のない飢餓感、それを抑えるために良く食べたのはトコロテン。5~6度の食事に3回は食べる。脂肪分はご法度で、サラダ油には気を付けた。主に食べられる肉はササミくらいで、足りない蛋白分はプロテインから摂取する。炭水化物を主に制限し主食は玄米とし、よく噛んで食べた。血糖値をあげ、満腹中枢を満たすためだ。もちろんバランスが大切だ、野菜根菜、海藻類、ヨーグルト、卵をバランス良く。もちろん摂取カロリーが減ってくればビタミン、ミネラルぶんが不足してくるものきちんとサプリで補わなくては栄養失調になってしまう。

 週に一度は身体を幻惑させる為に、一食脂分の多い食事もとる。体脂肪を減らしていくためのテクニックだが、誘惑の多い危険もはらんでいる。そんな誘惑にも今日子は耐える。

 そして良く走り、一方で筋トレはレベルを落としながらも続行される。

 体脂肪率がおそらく10パーセントの前半辺りに差し掛かるころには生理が止まり、いつでもぼうっとしてしまうというか、頭脳が働いておらず、一枚幕を被せられているかのような皮膚感覚になる。

 一見健康そうに見え、極めて不健康な体という矛盾。

 困ったのは性欲だ。ダイエット後期、もうとっくに生理は止まっているのに性欲が増してきてしまうのだ。

 ただ身体を作るために馬鹿食いしなければならないのとは違う試練だ。

 そんなことも今日子にとっては面白く、その緊張感が今日子は好きだったのだ。

 完成をみた今日子の身体はすばらしいものだ。同姓の同輩や後輩などから見ても今日子のプロポーションは完璧で、憧れるものすら現れだす。

 腹筋はシックスパックを作り、俗にいうバッキバキに割れた状態だ。

 腕には血管が浮き出て、金繊維のストリエーションすら見て取れる。

 スポーツブラの間にははっきりと筋肉としての割れ目が見える。

 広背筋に力を籠めるとカニの甲羅のようにみえ我ながらおかしく今日子は一人笑ってしまう。

 三角筋の張りは肩幅を広く見せ、逆三角形のシルエットが印象的。

 大腿部は流石にくっきり割れているわけではないが、明らかに女性のそれとは一線を画す。

「一応は仕上げたか……」

 一週間後に地区予選大会が迫っていた。


 それ以降の今日子はバランスよく、好きなものを良く食べた。カーボローディングされうっすらと皮下脂肪を身にまとう。

 減量期間にありがちな、身体パフォーマンスの低下の問題もクリアし、万全の状態だ。

 今日子は状態を仕上げつつも、頭の片隅ではこんなやり方に否定的である。

 「こんなよーいどん方式なんてホントは武道じゃねえ」とは今日子の言葉でもある。

 今日子の武道感の先端は殺し合いに他ならない。殺し合いにはどんな手を使ってでも勝ちたいのだ、そのための策でしかないが、どこかに引っかかるものがあり、今日子は整理しかねている。



 地区予選は今日子にとって退屈なものでしかなかった。無論決勝くらいは少しは緊張したが、こうまで地力に差があるのかと今日子は拍子抜けしてしまう。

 引率の顧問は今日子のその強さを使い、団体戦ではほかのメンバーには負けない試合を指示する。今日子で星一つ取れば、後は負けなければいいという戦略だ。今日子からみて薄汚い泥仕合。

 彼女の戦術は一風変わっている。彼女は開始線より後ろに立ち、なぎなたを長く持つ。

 開始の合図とともにさらに一歩下がり、同時に片手を外しもう一方の手で上段に構える。

 そのときの外してある手はもう一方の手を支えるような形で手の甲で支持している。

 彼女の姿勢はピンと胸を張ったものには見えない、骨盤こそ前傾させているが、肩甲骨の上の辺りはやや猫背気味に見え、脱力している。

 そこからの刹那、離されている手はなぎなたの柄の下の方をつかみ電撃的速度で爆発的面を打つ。

「一本!」

 三人の審判員の旗が同時に上がった。

 対戦相手の女の子は全く防御もその場から動くこともできない。上段に構えたところまでは見えていた。そこからの面の動きが速すぎる。彼女には消えたように見えていたのだ。

 身体能力が圧倒する瞬間だ。

 二本目も秒殺する今日子、今度は脛だったが、相手が動けないのは変わらない。残酷なようだが観戦するものから見て蛇ににらまれた蛙のようである。

 その差は一枚二枚の差ではない、はっきり数段差である。女性の身体に男性のいや普通の男性をも凌駕する今日子の能力。

 その日全ての試合で2本をとりストレートに駒を進めていくだけの一方的な展開だった。

 今日子の威光にあずかり団体戦も全国大会にすすめることとなるが、今日子には興味などない。

 市民体育館の駐車場に出てから、引率の顧問(今日子たちは師範と呼んでいた)が試合後感の説教が始まる。

 今日子はこんな説教が蛇蝎のごとく嫌いだ。

 

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