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手打ち中華ウミネコ亭

手打ちラーメンって美味しいです。白河ラーメンって知ってますか?

「えっええ! えええええ~~~~! そうなの? マジかよ? わっ悪かったよ、そんなつもりじゃなかったんだけど。ショックだわ~」


 手打ち中華ウミネコ亭の前にはもうすでに行列ができていて、少し待ちそうな雰囲気だ。

 こんな行列に並ぶなんてどうかしていると春人は抗議したが、そんなものも遊びなんだよと今日子が諭し、四人は最後尾に並んだ。

「なんか、今日子が女の子が好きになる気持ちって今日子見てると理解できる気がしてきたわ」

「それは僕も思った。分かりやすいよね、今日子さん」

「二人には仲良しさんでいてほしいから、もうさん付けで呼ばなくてもいいんじゃない?」心愛のいう事は突然が多いが、ドキリとさせられることがある。

「うっ」そばかすのある頬を少し上気させて言葉に詰まる今日子。うれしいような、恥ずかしいような感情だ。もう何度も恋をしてきたのにこういう感情はやっぱりうれしいのだ。

「何だか気恥ずかしいね……きょうこ?」

 少しおどけて心愛の言葉に乗る春人。

「おっ心愛いい仕事するわね。えらいえらい」茶々を入れる翔子は少し幸せな顔をしている。

「わっわかったよここあ……じゃあ、はるとよろしくね」

「なんだかふわっとして幸せな気分なのだ~」

 心愛が言ったように、全員がささやかな幸せを共有できる時間。若い四人のちいさなしあわせだ。春人はこんな時間が好きだった。


「春人さんてさ、なんか筋肉凄くない? 何かやっていたんですか? スポーツとか」

 なおも行列を待つ一行の会話が続く。

「うん翔子ちゃん、高校の時に筋肉トレーニングをやってたよ。後は勉強ばっかし」

「ああ、医学部入るの大変ですもんね」

「先輩たちから無理やりプロテインとか飲まされてね。県一番の進学校だったから体弱いこが実際多いんだろね。まずは体力つけろってことだったと思うよ」

 ただ本心は男らしく見られたいというのがある事を春人は黙っている。きっとこの気持ちを理解できるのは今日子だけだ。

「アレッきょこたんは? 姿勢とかいいけど何かやっていたのかな?」

「えっまあやってたって程じゃないけど」

「何やってたの?」

「薙刀、マイナーだろ」

「なぎなたって武道の? 袴はいてやるんだよね」

「なんかきょこたん似合いそう」

「まあそんなイメージなのかな? 一時マジ真剣にやってたよ。ハマったって言ってもいいかもね」

「やったって程じゃないなんて言っといてどういう事よ?」

 少し暗い顔になりながらも話を続ける今日子だった。

「個人のインターハイで全国二位になったことがあってさ……」

「「ええ!それって凄くない?」」

「きょこたんカッコイイ!」

「もうその時の悔しさっていったらなかったよ、今でも思い出すと悔しくて寝れなくなっちゃうことがあるもん。二位なんてビリよりみじめだよ。分かるかなこの気持ち? その帰り道もらった賞状とメダル、コンビニのゴミ箱に叩き込んでやったもの。そしたら後で師範の説教がホントうざかったなあ。それで気持ち萎えちゃったんだけどね」

「えー今日子のイメージ崩れる。もっといい子だと思っていたのに」

「まあ冷静になってみれば人間としてやっちゃいけないことってのはわかるよ。礼儀が無駄な紛争防止に役立つことがわかるようにね。

ただこと勝負において、それじゃ駄目だと俺は思うんだ、武道なんていくらきれいごと並べたってその実は殺し合いだよ? 俺は少なくともそう思ってやってた。真上を見る感じ、そうだな、垂直上昇志向とでも表現できるかな? そいうこと、師範なんかはわかってなかったみたいだったな。なまじきれいごと言うより一発殴られた方が伝わったと思うけど」

「なんかすごい話……」

「俺そこんとこだけは譲れないんだ。そのためにはそん時メチャ頑張ったよ」

「どんな練習してたの?」

「武道の極意って先を取ることにあると俺は思っているんだけど、それって要はスピードじゃん? だから筋トレと食事をかなりストイックに追い込んで、身体作ったよ。サプリメントも親に随分金出してもらって取ってたもんね。当時薙刀やってるやつでクレアチンとかBCAAなんてアミノ酸取ってるやつ見たことなかったもの。あと効果的だったのはハイクリーンとスナッチだな。アレで薙刀揮うの劇的に早くなったよ」

「何だか専門用語多くて分かりずらい話なんだけど?」

「まあそん時のインターハイの時の身体って結構凄かったよ。腹筋なんかバキバキに割れてたし、くっきりストリエーション腕とかに現れていたもの」

「すっすとりえーしょん?」

 舌を噛みそうに話すのは心愛である。

「ちょっちょっと待って、そんなに追い込んだら生理止まっちゃうんじゃないの? 今日子危ないぞ」心配そうに言うのは春人だ。

「あっよくわかりますね、いまはそんなこと全然ないです。まあそん時はそれくらいマジに自分の事追い込んだってわけなんです、それくらいやらないと勝負事には勝てないんですよ」

「えー生理止まるまでやってたんだ、それは凄い事よね。じゃあまあ確かに翔子の気持ちも理解ができるわ、納得納得」

「人としては駄目なんだけどね、ああ、あの時の試合思い出したら勝負師として疼いちゃいそう。死ぬほど悔しかったのに。ふふっ変だよな俺」

「あっきょこたん、心愛達の席空いたみたいだよ。らーめん食べよ」


「へえこれが話に聞いてた手打ち中華そばか? 脂浮いてるのにあっさりしてそれでいてコクがあるよね」

「心愛もっとくどいのかと思っていたけどこれもおいしいね」

「てゆーか麺よ、今日子これって凄くない? なんていうかシコシコして、つるつるはしていない感じ」

「エッジが立ってるって言えばいいんじゃないかな。手打ち麺だしな」

「上手い表現だね。そうかエッジか……」

「何だろ、醤油に奥深さがあるわ、なんかこの燻製の香りがイイ感じにマッチしてるのね」

「翔子鼻いいんだな? 中々燻製の香り気付くのいないんだぜ。やっぱ料理得意なわけ?」

「まあそれなりにね」

「相当自信ありだねその言い方、僕には分かるよ」

「ここのらーめんおいしい、身体あったまる~」

 美味しいモノをみんなで食べるのはとても幸せなことだ。美味しさも二倍三倍に感じられる。ただらーめんを食べるだけでそんな共感が得られるのだ。今日子と春人はより距離が縮まったように感じていた。

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