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今日子の運転

 翔子は一度トヨエースのトラックに戻り、心愛に外の空気を吸うように促した。

「心愛、みんなの前に出づらいかも知れないけど、みんなあんたの事心配してくれてるんだから、とりあえず外でよ、ね?」

「なによ、翔子たんまで、今日子の真似しちゃってさ……グスッ」

「そうよ私は、いえっみんなは心愛の味方だよ」

「うるさい、そんな事、あんたに言われなくたって分かってる。グスッ」

「だよね、心愛あたま良いもんね。私知ってるもん! ガンバレ! 心愛」

「もうがんばってるよ~」

「だよねえ、話は今日子から聞いたわ。どう? 何とかなりそう? まあとりあえず今日は私のうちに来てよ、お願いだからあなた一人にしておけないのよ」

「……きょこたんのうちに泊まって……ガールズトークするの? グスッ」

「心愛が希望すればねぇ~」

「いいよ、今日子たんがいないとこでしょこたんとお話したいかも」

「おっけいぃ~今日子堅いからなぁ、たまにはあの子外して二人で内緒話しましょう」

 翔子は心愛を一度車から出して、今日子と春人のいる所まで連れていく。

「心愛ちゃん、もう僕たちは一心同体の関係だね」

「よっ心愛、2、3日振りだったよな?」

 二人なりに心愛を気遣い、春人は心愛の頭を撫で今日子は頬に軽いキスをする。

「そんなことより早くラーメン食べに行きましょうよ」お腹がペコペコの翔子が急かす。

「ラーメン? スンッ」

「何でも、今日子がこの辺りに美味しいラーメン屋在るって言ってたわ。ねえ今日子?」

「ああっウミネコ亭のことだな」

「今日子さん、それ聞いたことがある」意外にラーメン好きな春人が声を高める。

「春人さん、このあいだ話したラーメン屋ですよ」

「ちょっと気になるじゃない、そこ美味しいの? スープはとんこつ? 鳥ガラ? 魚介? やっぱり醤油ベース? 味噌も私は好きよ、麺は細麺太麺? また最近の流行りの大勝軒系じゃないわよね? アレ嫌いなのよ! ……」

「めんどくせえなあ、行ってみればわかるっつ~」

「ああアレ! 手打ち中華そばのお店だよ、しょこたん」

「心愛知ってるの? 意外ね、千葉なんか来た事無いかと思ってたわ。どうでもいいけど、千葉県ってなんか冴えないとこねえ、道路とか狭くてごみごみしてる感じだし」

「しょうがねえよ、所詮大学のある東京とは予算が違うっつ~」

「あの~僕の田舎が千葉なんだけど……」

「えっ春人さん? ごごごっごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんです」

「今日子可愛いわね? このコよろしくお願いしますね春人さん」

 謝るのは今日子で、さらりと躱すのは翔子だ。

「翔子ズリィ~」

「おほほほ、元副生徒会長ですもの! こんな時って誰かのせいにしておけば丸く収まるものよ」

「口じゃあ翔子さんには勝てないんだね」

「もう、俺の味方してよ~」


 バカンッ!

 車内にクラッチを踏む音が響く。まるで蹴っ飛ばしているようだ。

 ガチンッ

 シフトなんか叩き込むように入れる。今日子怒っている?

 ハンドル操作は片手でこね回す様だ。眉根を寄せて不機嫌そうな表情の今日子。頼むから両手で操作して、教習所で習ったでしょ?

 一応の運転免許はほぼ同時期、高校の卒業前に取った今日子と翔子だが、まるで運転のスタイルが違う二人。

 多分さっきの会話のせいだ、もう怒気がビリビリ音を立てて伝わってきそう。もう私が悪かったから、大人しく運転して……ごめんなさい許して。翔子は蒼い顔をして、心の中で今日子に謝っている。

 キキッ! カーブで僅かにタイヤが鳴る。

「ちっ!」

 走り始めて1ッ分立ってないのにもう舌打ち? ヤバイ! この子何するか分からない。

「春人ごめんね、ちょっと鳴らしちった」

「ゆっくりでいいよ今日子さん」

「やっべーマニュアルおっもしれ~、これディーゼルでしょ?」

 少し声が大きくなり、興奮を隠せない今日子だ。

「そうだよ、3000ccディーゼルターボ」

「トルクぶっといよね! ディーゼルにターボの相性いいって本当だったんだ」

「よくわかるね、ガソリン車とは違うでしょ? でも少しエンジン音が賑やかだけどね」

「こりゃ運転楽しいわ! 視点高いのも気分いいし。そうだ時期も時期だし、今度潮干狩り行ってみねぇアレ夢中になるんだよな。心愛いったことねえだろ、連れてってやるから一緒にいこーぜ」

 ご機嫌な今日子は煙草を呑み出す。シガーの甘い香りが車内に充満して、翔子と心愛は一気に気分が悪くなっていく。

「き、今日子、もう少しゆっくり走らない?」

 心愛は押し黙って喋らない、というよりもう吐き気との戦いに入っていた。

「んだよ、運転中あんま話掛けんなよ翔子」

 不機嫌そうな今日子は翔子を威圧しているようだ。咥えたばこで車を走らす様子は鬼の軍曹の様に心愛には見えている。

「ごめんなさい、ていうか少し休まない?」

 翔子には今日子が怖くて仕方がない。

「あ~何言ってんだ? まだ走って10分もたってねえだろ」

 ステアリングを投げるよう運転する様は自分の父親を見ているよう感じる心愛だ。何でこの手の人間って運転中話しかけずらいんだろうか?

「ね、心愛もどう? 休みたくない?」

「ここあ吐きそうかも……」

「えっ本当!? 今日子さん、すぐ車止めて挙げて!」


 渋々近くの公園に車を入れる今日子。

「きょこたん、あっありがとう……」

 いつの間にか顔面蒼白で冷や汗を掻いている心愛だ。最近行った耳鼻科で目眩を覚えていたが、少しそれが復活してしまうほどだ。翔子は口の中に唾が溜り、心愛の様子を見ていてより吐き気が強くなってしまう。

「んだよ、そんな俺の運転下手だったかな? ちょっとショックなんだけど」

「いや、僕はそうは思わないけど。まあ女性って乗り物酔いしやすいしね、少し休めば良くなるよ。心愛ちゃん大丈夫? 顔真っ青」

「きょこたん春人さん、今日はほんとにありがとうございました。それからきょこたん、さっきは怒ってごめんね。そのことで怒ってるんでしょう? こんな事いうのもあれだけどぷんぷんしないで」

「私もごめんなさい、今日子からかったわけじゃないけどホントごめんね。許して」

「おめーら何いきなし言ってんだ? 別に俺は怒ってなんかいねーぜ」

「くくく~今日子さんわかってないんだ? 僕やっとわかった。確かに今日子さんてちょっと鈍いかも」

「じゃあ、今日子ホントに怒っていない? 大丈夫?」

「心愛運転こわかったよ~」

「えっええ! えええええ~~~~! そうなの? マジかよ? わっ悪かったよ、そんなつもりじゃなかったんだけど。ショックだわ~」


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