今日子の性感覚
でも、どうすれば?
「女の俺じゃ……」
自分で呟き、そのつぶやきにピンとくる今日子。そうだ、もしかして……。
今日子はスマホを取り出し、すばやくメールを打ち込み、そして電話をかけた。
歩道橋の上でひざを付き、泣きすぎてもう涙も出ない心愛。その心愛を慰めることのできない今日子はじっと心愛を見守っている。
未だ誰も通ることのない歩道橋が二人にとって救いだった。
暫くして現れたのは翔子だ。
「もうナニよ、私講義中だったんだからね」
「悪いな、翔子。お前の力が必要だったんだ。この子、一緒についていてやってくれないか」
「あっどうしたのよ心愛! 目真っ赤じゃない、アイラインが落ちてぱんだちゃんになっちゃって……今日子! この子泣かしたわね!」
急いで鞄の中から化粧ポーチをまさぐる翔子は今日子をにらみ付ける。
「言うと思ったよ……それ、誤解だから。あっでも……あながちそうでもないかも」
「なによ、どういうことよ? ちゃんと説明しなさいよ」
「今はできない」
「なによそれ~」
「すぐ説明するから、今は心愛を助けてやって欲しいんだ、元副生徒会長」
「もーその役職で呼ばないでよね、調子いいんだから」
「ありがとうな翔子」
ひとまず大学の談話室に移動する三人。
翔子に心愛を任せた今日子はどうにか一息つける。
談話室を離れ、今日子はタバコに火をつけた。紫煙がまだ明るい夕暮れ空に消えていく。
こんな気分の時は、甘いシガーじゃなくて、辛い煙草の方が合うのじゃないのかと考えながら。
しばらくして、翔子が喫煙所にやってきた。
「よっ」
「あの子泣き崩れておかしくなってたから、暖かい缶コーンスープを与えておいたわ。少し落ち着くと思う」
「俺だったらカップラーメン食べさすとこだけど、さすが翔子だな」
「変な感心してないで、それよりも何があったのよ? あの子泣きじゃくるだけでさっぱり分からないわ」
「翔子を信じないわけじゃないから、意味ないのかもしれないけど、もう少し待ってくれないかな。もう少しで彼が車で来てくれるから、その後話そ」
「ん~~彼ぇ~~? 彼って誰よ? まさか勇人じゃないでしょうね? あんた手が早いわね」
「べべべべ別に、そんなことどうでもいいじゃねええか」
「どもりすぎよ、今日子」
暫くして、Wキャブのトラックでやってきたのは田中春人だ。大学生なのに、職人が好む様な実用的なトラックを何で自家用にしているのか、翔子には理解できなかった。
今日子にはわかっていた、彼は男らしく見せたいのだ。そのための職人などが乗るトラックなんて自家用車にしているのだ。
「ごめんなさい、春人さん」
「一体どうしたって言うんだ? きっちり説明してくれ」
「春人さんの温厚に甘えてごめん! とりあえず横浜、いや千葉の方にやって」
「ええっ? じゃあに船橋でいい? 、今日子さんはそれでいい? 何時までも車止めとくと都内すぐやられるから、急ご!」
夕方の下りは道がどうしても混んでしまうが、今日子が首都高を使わずに、的確に道を指示し、都心からあっという間に湾岸付近まで誘導した。その後は葛西付近で湾岸線に入り、のろのろではあるが、谷津船橋まで行き、そこで高速を降りる。車中今日子と春人の会話以外は(ほとんどが道とかルートや車の話ばかりであったが)翔子と心愛は無言で、翔子には耐え難かった。
船橋港とかいう場所に付いたころには辺りはすっかり暗くなって、潮の香りが辺りを支配している。
「ふう、たまのドライブも気持ちいいね。春人さん運転お疲れさま」
「今日子さん、随分道に詳しいじゃない、若いのに凄いわ」
「まあ運転下手じゃないし、そうだ、帰りは俺に運転させてよ」
「そんなことより今日子、一体何があったのかちゃんと説明してよね!」
「ああそうだった、じゃあ翔子と心愛は外に出て夜の海でも見てよ。まず春人さんに事情説明するからさ」
車の中は不思議なことに、内緒話をするのにうってつけだ。心愛は二人が内緒のはなしをしているのをそばめで見ていても不思議と不快には感じなかった。
翔子には心愛の沈黙が耐えられないが、一方的に何かを喋り続けたって面白くもない。
やがて話は終わったのか、トラックから今日子が降り、心愛を呼んだ。心愛は春人に任せておいて大丈夫。今日子には自信があった。なぜだか大丈夫という自信が。
「さあ今日子、待ってたわよ! 一体なにがあったのかとっくり聞かせてもらうからね!」
一通りのやり取りを説明する今日子に翔子はイチイチ突っ込みを入れながら、最後に。
「そっそんなことがあったの……」そうしてから流石にちょっと黙ってしまう。
今日子はシガーに火を付け、口腔喫煙で甘味を味わい、鼻から煙をぬき、甘味が辺りを漂う。
「たしかあの子、大学にいるうちに結婚するかもなんていってなかったけ? 結構根深いんじゃないのこの問題?」
「だからほっておけなんだってゆう」
「っていうかそれ今時犯罪じゃないの?」
「まあまず、大丈夫じゃねえ」
「あんたって正義感強いのかと思っていたけど、案外おおらかっていうか、適当なとこあんのね」
「まあうちには兄貴がいたし、エロ本なんかも見ていたし、兄貴の行為を見ちゃったこともあったよ。ていうかそん時目が合っちゃったし」
「え~~~~それは私的にはきついわ~~」
「まあ俺の場合は二、三日してもと通りだったけどね、家族ってそんなもんじゃね?」
「ねえ、わたしには兄貴もいなんだけど、どういうものなのかしらね。想像つかないんだけど」
「そうだな、多分、女の生理みたいなもんじゃねえのっていうしかねえかな? どうだろ?」
「ってどうだろ? っていわれてもねえ……」
「だよな、でも多分家族なら分かんだろって事もまだ家族にもなってない彼とか、これから結婚するかもしれない男だとまた別かなとか思うんだけど」
「とくに今回の心愛の場合ね、てゆ~か、性癖ってめんどくさいね。治るものでもないしね、あっごめんそういう意味でいったわけじゃ……」
「別に気にしてねえよ」
「多分、そんな今日子だから心愛は相談したんだと思う。私には相談できないよね」
「あんときの心愛の迫力、凄かったぜ」
「今日子、よく切れなかったわね」
「なんか違和感覚えたし、こっちまで感情的になるのはなんか違うなって」
「ふーん、なんか、男でもやたら感情的に怒り出すやつとかいるけど、今日子って真逆だね」
「あんまし褒めてないってゆう」
「そんなことないよ、凄いことだと思うよ、私だったら絶交してるかもしれないもん、間違いなく罵り合いにはなってるね」
「元副生徒会長にそれはないんじゃないの?」
「そんなことないよ、役職なんか全く関係ないわ」
翔子と今日子が海を見ながら話しているうちに、トラックの中では春人が心愛に男の体に付いての説明をしていた。
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