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翔子の失恋

暫くの間お付き合いいただければ幸いです。

 翔子はもう二日ほど、部屋に籠りっきりだ。普段の部屋とは違い、酷く乱雑に散らかった部屋だ。薄暗い汚部屋は翔子をより一層憂鬱で悲しい気持ちにさせた。

 ずっとネットからは失恋映画が垂れ流され失恋ソングを聞きまくっていた。

「ああ、私って、きっと間違いなく世界一不幸だわ、もうこの部屋から出たくない。悲しすぎて死んじゃう、死にたーい」

 何回もこんなことを呟きながら聞き続ける失恋ソングは本当に翔子の心に染み渡る。映画ってこんなに泣けてくるものかと、自分の涙なのか感動の涙なのか、もう翔子にはどちらでも構わない。

 だけど、現実はそうもいかなくて。ちょっと前には「翔子姉、音うっさいから! 寝れないから静かにして」と妹から怒鳴られていた。

 仕方なく翔子はスマホと向き合う。

 翔子は今まで消せず、保護してきた着信送信メールを何度も何度も何度も確認してしまう。「どうしてあいつは彼氏なんか作るの?私だけじゃだめなの?」どうしようもない孤独が増してくる。

 スマホの画面は滑らせても音がしない、時々反応の鈍さからもしかして彼からメールでも来たんじゃないかと期待する。「メールマーク着くかしら? 付かない、なんて嫌な機械。期待させないでよ」ヒリヒリ痛む心に塩を擦り込む様な事をして、翔子は勝手な独り言をつぶやき、勢い余って電話番号も、アドレスも消して、履歴やメールから再び登録しなおす。「やっぱり忘れられないわ、ああ泣けてきた、男って女々しいって言うけどあたしだって相当女々しいわ」そうつぶやき翔子は彼との繋がりだった、専用着メロを再生フォルダから何度も何度も何度も再生する。シャカシャカした突然始まるサビのリフレインに切ない思い出が星座の様に蘇える。突然の壁ドン!「翔子姉ウザイ! さっきからシャカシャカうるさいわよもう、ねれないっつーの」

 家族は面倒くさく、こういう時何の役にも立たない。「もうこんな時くらいそっとしておいてよ」翔子はふと、しばらく疎遠になっていた二人の女友達を思い出していた。

 夜中に突然の電話はうざい。翔子は同時送信で二人に会いたいとメールを打った。

 今日子からはすぐに返信が来る。〈ああ、またお前かよ、大体理由が分かるけど、フカシじゃねえよな、何? 今から? ワラサもくんの? じゃあ行ってやる〉ワラサとはもう一人の友達の事で、所謂ブリの子供ハマチの、養殖でない魚の事で、「天然のぶりっ子」の意味を持つ。

 その五分後、ワラサこと、心愛≪ここあ≫から〈しょこたん、わかるよ、つらいよね、いいよ、でもぉ、あの柄の悪いヤンキーも来るの? ココア怖いよだから味方してね〉女友達同士でぶりっ子してもしょうがないのにまさに天然でブリブリするようなことするからワラサなんだよ。そう翔子は一人でつっこみを入れた。

 いつものファミレスに行くまでの道のりの街灯は暗い昭和の錆色にしか見えない翔子。道行くカップルの姿は素直に憎い、別れればいいのに……そう思ってしまう翔子は軽く鬱になる。

 いつものファミレス、いつもの席、いつもの友達。「よっ」サバサバした性格の今日子が手を挙げ翔子を呼び、心愛は駆け寄ってきて翔子を抱きしめ髪をなでる。心愛の大きな柔らかい胸の中で翔子は涙に声を詰まらせむせび泣いた。同性のぶりっ子は一般嫌われるのだろうが、心愛のぶりっ子は優しさだ、それが今の翔子には何よりも心暖かかった。疎遠にしてて御免二人とも、やっぱり女友達っていい、女は女同士が一番楽しい。翔子は二人に感謝した。

「何? どうせまた男と別れたんだろ? どんな男だったのか俺にも聞かせろよ」少し男みたいな今日子は自分のことを俺という。だからか、心愛からみて今日子はヤンキーなのだ。

「今日子たん、そんなにストレートに聞いたら可哀想だよ」

「いいのよ、ありがと心愛。でも、振られたんじゃなくて振ってやったのよ、あんな男」

「いうねえ、強いじゃん。俺たち呼んでおいて、ホントは悲しくてさみしいんだろ?」

「ああなんか、二人の顔みたらお腹すいてきた。二日くらい何も食べてなかったの」


「ああなんかイケメンさん」

「確かにいい男だな、歌舞伎役者みたいなツラしてんじゃん」

 翔子のスマホを見ながら二人は感想を言い合う。その間翔子は元カレの事を思い出して悲しくなりながらも、サラダ、スパゲティ、鶏肉の照り焼きを食べ、「悲しくてもお腹が減るのよ、ああ美味しい。でも悲しい、ああでも美味しいわ~、でも悲しいのよ、それにしても美味しすぎる」

「どっちかにしろよ」笑う今日子。

「どしてしょこたんはこんなイケメンさん振っちゃったの?」

「彼があるとき、僕にはまだ別れられない彼氏がいるって、告白してきたからよ」

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