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婚約者は、私の妹に恋をする  作者: はなぶさ
終わりの終わり。
60/64

6

「―――――、」

「……イリア?」


自分が何かを口にした気がして、はっと覚醒する。

眠っていたのだと気づき、体を起こそうとしたけれど妙に体が重くてうまくいかない。右手に力を入れたはずなのに、手の平が少し湿った感触の布の上を力なく滑った。


「ああ、良かった。気が付いたんだね」

「……私、一体どうしたのかしら」

「覚えてない?」

「ええ、」


頷けば、ベッドサイドに腰かけたカラスが眉根を寄せる。

彼によると、私は何時間も眠り込んだまま一度も起きなかったらしい。

「お腹空いてるんじゃない? 今、温かいスープを用意してもらっているから」

でも、本当に良かったと微笑する。

「……昨晩は熱が上がって……、どうなることかと思ったけど」

「……え? 昨晩……?」

思わず、窓の外を確認すれば、カーテンの隙間から柔らかな光が差し込んで眩しい。チチ、と耳に心地よい響きで鳴く小鳥と、どこからか吹き込む清々しいそよ風が早朝だということを教えてくれる。


そんなに時間が経っているのか。

生家を離れてから既に一晩が過ぎ去ってしまったようだ。

何となく視線だけを動かして室内をぐるりと見渡せば、特に変わりはないようだったが、一つだけ違うところがあった。ベッドサイドテーブルの上の洗面器である。

ベッドに入る前は、そんなものはなかったはず。

なるほど。額が重いのは、熱を吸収した生ぬるい濡れタオルのせいなのか。

カラスがどこかほっとした様子で「もう、必要ないかな?」と言いつつも、新しく絞った冷たいタオルに交換してくれる。ひんやりとした感触に吐息が漏れた。

そのまま、乾いたもう一枚のタオルで顔と首を拭われる。

相変わらず手際がいいと関心しながら、ぼんやりとまた、いつかのことを思い出していいた。


「熱はもう下がったみたいだけど、疲れがたまってたんだね。当然だ。……本当はもっとゆっくり休んでいきたいところなんだけど」

追手が来ないとも限らないから場所を移したいんだ。とカラスは難しい顔をした。昼前にはここを出たいという。そんな彼の視線を追えば、部屋の隅に置かれた小さな旅行鞄が目に留まった。

「あれは主に君の服なんだけど数日は大丈夫だと思う。……あ、僕が用意したんじゃないよ。宿の人に、女性が二、三日旅行に行くときに必要だと思うものを詰めてくれるように頼んだんだ」

「……ふふ、そんなことまでしてくれるのね」

横になったまま答えるとカラスも絶妙に苦い顔をして笑った。

「お金さえあればってところだね」

何たって小金持ちだからと茶化すように言うけれど、やはり申し訳ないような気分になる。カラスに再会してからというものお世話になりっぱなしだ。

「そんな顔しないで」

「……え?」

「僕に頼ることを躊躇ったりしないで。だって生きるってそういうことでしょう? 誰かに頼って、頼られて。支えあって生きていくものだよね? 少なくとも僕はそう思っているよ」

「そう、ね……」

確かにそうだ。

『この世界に一人きり』そう思っていたけれど、もう、違うと知っている。


私の顔を見て何かを悟ったらしいカラスが満足気に微笑む。少し幼いように見える表情は、あどけない。

「体調が万全じゃない今、移動するのは君の負担になるとは思うけど……、」

ここから先、何が起こるのか正確に把握できていないから一つの所に留まるのはなるべく避けたいんだ。と続けた。

「何となくなら分かっているの? ……これから起こることが?」

天秤が揺れるがごとく、思考が右へ左へと傾いて忙しい。しっかりと眠気を払うこともできず、半ばぼんやりとしたまま問えば、少年は是も否も返さず小さく首を傾げた。

「……さぁ、どうだろうね」

僕には未来が見えないから、と千里眼のようにどこまでも見通すことができそうな黒い目を細める。


それから、宿の人が部屋まで運んできてくれた温かいスープで空っぽの胃を満たした。

細かく刻んだ野菜がたっぷりと入っていてとても美味しい。屋敷で口にしていたものとは明らかに違い、繊細な味とは言えない。大味、というのがぴったりだ。でも、なぜか実に優しい味で自然と口元が綻ぶ。

そんな風に感心していると、どこからかカタカタと何かが震える音がした。

音の発生源を探していると、カラスが腰かけていたベッドから立ち上がり、窓の外を見る。

「……どうしたの?」

名を呼べば、ちらとこちらに視線を向けるのに返事はない。再び窓のほうを向いた彼の横顔を目で追った。すると、曇った窓ガラスの向こう側に黒い影が映り込む。

影絵かと見紛うほど優雅にひらひらと舞うそれは、落ち葉のようであり、花びらのようである。目を眇めてよく見れば数頭の小さな蝶々だった。


さすがに昆虫が窓を叩くことはないだろう。そう思ったのもつかの間、一頭の蝶が窓ガラスに体当たりしてきた。羽のように軽い体では音をたてることなどできるはずもないのに、翅がぶつかる度にカタカタと音がする。

早く開けろと言わんばかりだ。

「……はいはい、待って待って」と、まるで言い聞かせるように苦笑しているカラスは、この出来事を特別なこととは思っていない。


―――――昆虫が意志を持つなんて。


「そんなに急かさないでよ」

いかにも建付けの悪い窓をガタガタと動かして、若干苦労しながら開けた途端。吹き込む風と一緒に、待ってましたと言わんばかりに室内に飛び込んでくる蝶々。

何事かと、宙を舞う小さな虫たちを注視していれば、まるで視線に射貫かれたかのように唐突に羽ばたくのを止めたそれらが、ぽとぽとと床に落ちた。

「え、」

翅も動かさずに微動だにしない蝶々。息絶えたようにしか見えない。思わず、身を乗りだそうとすれば、

「大丈夫大丈夫、これはただの作り物だよ」とカラスが肩を揺らして笑う。

そして、拾い上げた蝶を手の平に載せてこちらに向けた。そこにあったのは確かに紙で作った蝶々だ。

見覚えがあるような気がして首をひねる。

「あ、それ……。馬車の上で飛ばした蝶々……?」

問えば、精工な陶器人形のような顔をした少年が「そう」とこっくり頷いた。

「戻って、きたの?」

戸惑いながら重ねて訊くけれど、明確な返事はない。口角の上がった曖昧な微笑は彼のデフォルトでもあるから、そこからただ推測するしかなかった。

「お利口さんだよね。昔々はね、魔術師たちがこうやって連絡を取り合っていたんだ。もう誰も使っていない手法だと思うけど」

おもむろに蝶の翅を引っ張ったカラスが、そのまま折り目を伸ばしていく。やがて、真四角になった紙には何か書いてあるようだった。小さくうんうん頷いているところを見れば、彼あての手紙なのだろう。

覗き込んでみたが、不思議な形をした文字はこの国の言語ではなく、一文字も読めない。

語学は特に力を入れて学んできたというのに、私の知っている外国語のどれとも一致しなかった。

狼狽える私を知ってか知らずか、少年は「……なるほど」と床に落ちたすべての蝶々を拾い、中を確認していく。

「あまり時間がないな」

ごめんね、イリア。もう出なくちゃならない。と、カラスは申し訳なさそうに肩を竦めた。


会計などはすでに済ませていたらしく、身支度を整えて外に出ると、事前に手配していたのか宿の前に箱馬車が停まっていた。荷物を載せて早々に乗り込み、馬を走らせる。

がたがたと揺れるのは相変わらずで、革張りの座席は硬め。それでも辻馬車よりは座り心地が良い。

値の張る移動手段なのかもしれないと、これまでは考えもしなかったことを思う。


どこへ行くのかと問えば、少し離れた場所にある宿だと短くいらえがあった。でも、長期で留まるわけではなく、すぐに場所を移すのだと、カラスはどこか緊張感のある横顔で、再び蝶々を飛ばす。

風に乗っただけなのか、あるいは自らの意志で羽ばたいたのか、どこかへと飛んでいく小さな影を見送った後、

「……相手は誰なの?」

本当はずっと訊きたかったことをやっと言葉にした。

躊躇ったのは、確認してもいいことなのか測りかねたからだ。秘密主義なのか、あるいは何か事情があって詳細を語れないのか、彼は口が重い。それは、今生で再会するよりも前からそうだった。

肝心要なことだけは言葉にして。それ以外は、黙っている。それが、カラスという人だ。

「……もうすぐ分かるよ。僕から教えるわけにはいかないけど」

君には、分かる。と、なぜか確信をもって告げる彼。

想像してみるけれど、誰だか少しも分からない。

一瞬、―――――ほんの一瞬だけ、アルの姿が浮かんだ。

あまりにも都合のいい想像で。あまりにも自分勝手な望みで、自分でも呆れてしまって。なぜだか笑みすら零れる。


会いたいわけではない。ただ、思い出しただけ。


その後、それまでとは比較にならないほど長い距離を馬車で移動し、一晩、安宿に泊まった。そのあと、宣言通り移動して。何度か、そういったことを繰り返す。

生家を離れてからどのくらい経ったのか、日にちを数えるのすら億劫になった頃。

やがて私たちが辿りついたのは、国の端も端、けれど国境の街で貿易の盛んな大きな都市だった。それでも人目につかずに済んだのは箱馬車だったのと、街についたのが深夜だったからである。


馬車から降りて、街灯がぽつぽつと灯る街を二人並んで歩く。

石畳みの地面に足を取られながら、若干もつれるように歩いていると、転んだら危ないからとカラスが肩を抱いて支えてくれた。体温のない彼が温めてくれるわけではないけれど、風を避けてくれるだけで随分違う。

寒さはなぜか、寂寞を呼ぶようで。ふるふると震える体に呼応するかのごとく、心が揺れる。


ここまで、来た。


地図では何度も目にしていた地名、活気にあふれた街だと大人たちが話していたのを耳にしたこともある。幼い頃、ソレイルとこの地について話したこともあった。

我が国の貿易の、重要な拠点であるから侯爵の名を継いだならきっと訪れることもあるだろう。そのときは君も一緒に行こうと、言ってくれたのだ。

彼の、ぱっと華やいだような表情を今でも覚えている。

だから私は、この地にやってくる隣国の商人たちと会話ができるよう、より一層外国語の勉強に励んだ。

日常会話なら困らないほどに覚えたその言葉を、今後使うことがあるのだろうかと。

そんな風に思っていたけれど。


「……、もしかしてこのまま国を出るの?」


念のためと、街灯の明かりを避けるように歩くカラスにそっと問う。

「―――――答えはもう、出てると思うけど」

ふふ、と吐息をこぼすように笑う彼に眉を寄せた。

「……けど、身分を証明するようなものを持っていないし、旅券もないわ」

船には乗れないし、そもそも正当な理由もなく国を出ることはできない。いわゆる、国の所有物とされる貴族ならなおさら、そのような勝手なことは許されないのだ。

「大丈夫だよ」

あくまでも軽い口調のカラスが「いまから路地に入るから暗くなる。だから、しっかり握っていて」と、今度は手を握ってくる。

うろたえながらも言われるがままにしていると、ひゅんっと鼻先を白いものが掠めた。半身をのけぞる。どきどきと脈打つ心臓を整えるために深く息を吸い込めば、

「案内してくれるらしいよ」と、カラスが長い人差し指で行き先を示す。

そこにいたのは、一頭の蝶々だった。先導するように、真っ暗な細い路地の向こうに飛んでいく。その小さな虫が発光しているのは気のせいじゃない。


半歩だけ先をいくカラスに引っ張られるように前に進み、やがて数歩先すら見えなくなるほどの暗い道に入った。怖さや不安は確かにある。だけどそれよりも、カラスが傍にいることの安心感ほうが大きい気がした。


どのくらい進んだのか、道の先で待っていた蝶がふっと姿を消す。

「?」その姿を探していると、「こっち」と促された先に薄明かりの漏れる扉があった。周辺も少し明るい。

背の高い建物に等間隔に並んだ窓から淡い光が落ちてくる。

「ここは酒場なんだよ。まだ営業しているのかな?」

裏路地を進んできたので、ここは表通りではなく近くに目立った看板などもない。お店の裏側なのだ。

「どうしてここが酒場だと知っているの?」

初めて訪れる場所なはずだ。それとも、私の知らない人生を歩んできたはずの彼には覚えのあるところなのだろうか。

「―――――覚えてないんだね」

笑ったように思えた。でも、どこかがっかりしているようにも感じた。だから真意を確かめようとその顔を覗き込む。


そのとき、ぽつりと頬に冷たいものが落ちてきた。見上げると、蜘蛛の巣を柔らかくほどいたような細い糸が下りてきて、額に、頬に絡みつく。けれども、不快ではない。金色に輝いて見えるのは、窓から零れた明かりをあますことなく受け取っている。

「……雨、」特に何も考えず、感じたままを口にすれば。


『……やっと、見つけた、』


誰かの声がした。辺りを見やれば、暗闇のもっとも深い闇の向こうに黒い塊が見える。近くの店が外にだしたごみ箱が転がっているのか。近くを飛び回っているのは「それ」に集まった羽虫だ。

けれど、目を凝らせば、もぞりと震えるように動いた塊が、少しだけこちらに「顔」を向ける。

「!」

蒼褪めた皮膚に落ち窪んだ両目。乾いた唇に、薄汚れた銀細工のような髪がひと房落ちている。

ひび割れた唇がかくかくと機械的に動き、

『た、すけて、』

掠れた声が、私に、そう言った。


「―――――リア、……イリア!」


はっと、覚醒するように息を呑む。

「どうしたの?」と眉を寄せたカラスが、私の顔に触れる。「具合が悪い?」親指で、目の下を擦られてやっと正気を取り戻した。

そして、今しがた目撃したものを知らせようと暗闇に指を差したけれど、―――――そこには何もなかった。

靄のように舞う雨の紗幕が、暗闇を包み込んでいるだけだ。

夢でも見ていたのだろうか。


「……だ、大丈夫。ごめんなさい、何だかぼうっとしてしまって」

「本当? 本当に大丈夫?」

「ええ、本当よ」

安心させようと僅かに声を張れば、唇に細い人差し指が触れる。

「しーっ」

とりあえず中に入ろうと促されて、少しだけ開いていた扉から覗き込んで室内を探った。

どうやら私たちがいるのは厨房の裏口で、先ほどカラスが「酒場」だと説明していた通り、建物の中では食事やお酒が提供されているようだった。ちょうど厨房の向こう側にカウンターがあり、そこでは血気盛んな若者たちが飲めや歌えの大騒ぎをしている。

肩を組んだ男性たちが陽気にグラスを掲げ、女性たちが食事を運んでいるようだ。

「入ろう」と、優しく背中を押されてそっと足を踏み入れる。

幾人かの料理人はちらとこちらを見たものの声をかけてくる様子はなかった。

カラスとも特に挨拶を交わすことなく、興味もないようなので旧知の仲というわけではないらしい。けれど、この扉から誰かが入ってくるのは事前に知らされていたのかもしれない。

厨房を横切り、テーブルを囲んで騒いでいる男女の間を通り抜けても声をかけられることはなかった。


そのまま店の端にある階段を登る。勝手知ったる様子の少年カラスが、二階は宿屋なのだと教えてくれた。

旅人が足を休めるために利用することが多く、特に身分を証明するようなものがなくても部屋を借りることができるのだと。

「ただお金を払えばそれでいいんだよ。この街にはいくつもこういう酒場兼宿屋があるんだ。なんていったって貿易都市だからね」

一階とは違って静まり返っている廊下を進みながら、心なしか声を潜めている。

その背を眺めていると、今日何度目かの『なぜそんなことを知っているのだろう』という問いが頭を掠めた。


このカラスは、一体いつの……、私の人生においての何週目のカラスなのだろう。


「さぁ、ついた」


等間隔に並ぶ、同じ形、同じ大きさの扉の前をいくつか通り過ぎ、一番奥の扉の前に立った彼が、私を見る。そして、

「驚いても大声をあげないで」そう告げた。あくまでも真剣な眼差しだ。

張りつめた空気に黙ったままこくりと頷けば、ふっと笑ったその人が木製の扉を叩く。あらかじめ決めてあった合図なのか、規則的にニ、三、二と分けて、手の甲で音を鳴らした。

反応を伺っていると、内側で鍵を開ける音がして、ゆっくりと扉が開く。

向こうもこちらを警戒しているのか、隙間から現れた二つの目が、並んで立つカラスと私を交互に見やる。明らかに見下ろされている。背が高く、体格もいい。フードを被っているので髪の毛は見えず、口元も布で覆っていた。

私たちの顔を確認すると、後ろを振り返り、部屋の奥にいるらしい誰かから了承を得た後、扉を大きく開く。

「どうぞ」という声はくぐもっていて聞き取りにくかったけれど男性のものだ。


警戒しながら中に入って、まず思ったのは「薄暗い」ということ。

部屋は狭く、ベッドは一つだけ。宿泊が可能ということだが、ただ寝るだけといった感じで、テーブルすらない。ほんのつかの間、足を休めるだけの場所なのだろう。

部屋の窓辺にはランプが一つだけ置かれている。光源はそれだけなので、部屋の隅は一生懸命に目を凝らしたところで何も見えない。たとえそこに、得体の知れないものが潜んでいたとしても気づけない。

危なくはないだろうか。

「……イリア?」

部屋を観察していた私の前に立っていたカラスがそっと体を避ける。途端に、視界が開けた。

その刹那、相手側にも私の姿が見えたのだろう。ひゅっと息を呑む音が聞こえた。

ベッドに腰かけていた人物が発したものだ。その人は、室内だというのに外套を纏い、顔が隠れるほどに深くフードを被っている。かろうじて顎先から口元が見えるくらいだった。

一方、先ほど扉を開けてくれた男は壁際に立ち、じっとこちらの様子を窺っている。恐らく、背筋を真っ直ぐ伸ばして座っているその人の、護衛なのだ。室内をつぶさに見渡せる位置にいるのには意味がある。


―――――ガタッ!

にわかに立ち上がった人物がフードを外した。

「イリア様、」

よく知っている声。あまりにも馴染みのある顔。

いつもは麗しい笑みを浮かべているその顔が、ほっそりと痩せている。

零れ落ちた金色の髪が、室内の淡い光を浴びてほのかに輝く。はっと胸を打つほどに美しい――――、


「……もう、お会いできないかと……!」


不安定に震える声が響いた後、力強く抱きしめられる。さほど広くない室内で、距離を詰めるのはあまりにも簡単だった。華奢な体のどこにそんな力があったのか。存在を確かめるかのように息ができないほどに強く、強く抱きしめられて息が詰まる。

いまだに状況が整理できていない。

「本当に、本当に生きていらっしゃる……! 良かった!」

耳元に響く、玉のごとき声。

心臓が、壊れてしまったかのように妙な動きをして、もはや止まってしまいそうだった。それほどの衝撃だった。まさかここに、


「力を緩めてあげてくれませんか? このままではイリアが死んでしまいます」


まさか、




「―――――マリアンヌ」

















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