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婚約者は、私の妹に恋をする  作者: はなぶさ
これが、本当の最後なら。
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朝目覚めたときに必要なのは、きっちりと覚醒するまで起き上がらないことだ。侍女が近づいてきても、私が「私」だと、はっきり認識できるまでは瞼を閉じたまま息を潜める。

何度も深く息を吸って、自分の名前をゆっくりと唱えた後に、やっと目を開く準備をするのだ。

大丈夫だと言い聞かせながら、まだ、そのときではないと祈るような心地で朝を迎える。

私にはいつだって、今日を生きるという覚悟が必要だった。


あの茶会を終えて、私の中に蘇るのはいくつもの死。

同じ時間が始まったのだと認識すると共に、容赦なく、終わりが突きつけられる。

だからこそ私は、自分自身を救うための算段をつけなければならかった。

シルビアを死なせず、ソレイルに見限られず、婚約者として妻として傍にあり続けようと。

それはつまり、己を守る為の選択であり、この恋心を救うための選択であった。


だけど、それは本当に正しい選択だったのだろうか。



「お嬢様、侯爵家から封書が届いております」


やっと寝台から身を起こした私に、侍女が侯爵家の印が刻まれた手紙を渡してきた。

封書とは珍しいこともある。さっそく封を切れば、見覚えのある硬質な文字が簡潔に用件を伝えてきた。

二回、三回と読み直し、内容を確認する。読み終わったときには、知らず内にため息が漏れていた。


「……お嬢様?」

「ソレイル様がお見えになるようだから、昼食を用意して欲しいの」

「はい、かしこまりました」

「あと……シルビアの具合は、どんな感じかしら?」

「……シルビア様でございますか?」

「ええ。あの子の具合が良さそうだったら、三人分の昼食を用意してもらいたいの」


洗顔用の水を張ったボウルに両手を浸けながら言えば「かしこまりました」と返ってくる。

急すぎる訪問だが、手紙が届く日時もきちんと想定した上でのお誘いだろう。

これほどに急であれば、断ることもできない。

お伺いをたてているようで、その実、命令しているような行動は侯爵家という高い身分のせいか。

文末に、ぜひ妹君も一緒にと書かれていれば、それを無視することもできない。


学院に通うようになったシルビアと、ソレイルは着実に親交を深めているようだ。

騎士課の彼が普通課のシルビアと接するには、時間や場所を示し合わせる必要がある。

校舎が離れていることもあるし、何より騎士課と普通課では授業体系が全く違うのだ。

実戦が含まれている騎士課は、特別なカリキュラムで動いているので事前に連絡をとっていなければ昼食を共にすることさえ難しいだろう。

だからこそ、食堂で昼食を共にする彼らが注目されるのだ。

婚約者が同じ学院に通っているにも関わらず、それを差し置いて、その妹と一緒にいるのだから。


しかし、シルビアはそういったもろもろの事情に気付いていない可能性が高い。

学院の仕組み自体よく分かっていないだろうし、初めて学院に通う彼女にはまだ、友人と言えるべき人間もいない。その為、誰かに指摘されたことさえないのだろう。

こういったときに道を示すのが姉の役目なのかもしれないが、余計な口を挟むと厄介なことは分かっている。

ソレイルに近づく女性全てに威嚇するという、これまでの己の愚行のせいで、実の妹にまで嫉妬して牽制したと言われる。それが、手に取るように分かった。


今更、私がどれほどに足掻いたとしても、事態は良い方向には転がらないのかもしれない。

ふと、そんなことを思って背中がぞくりと震える。

やる事成すこと、全てが無駄なのだとしたら。

私は一体何の為に、ここに居るのだろうか。


「お召し物はいかがなさいますか?」

「後でもう一度着替えるから……そうね、あれで良いわ」


衣装部屋の一角を指差せば、優秀な侍女は全てを聞くまでもなく一つ肯いた。

やがて、私が想像していた通りの簡素なドレスを持って現れ、着替えを手伝ってくれる。

その間に、昼食は、応接間に準備するように指示を出した。

急すぎる来客ではあるが伯爵家の厨房にはそれなりのものが揃っているのでさほど問題はないだろう。

いつぞやの茶会のように、準備万端というわけではないが不備はないはずだ。


「昼食の時間までは書庫にいるわ。何かあったら呼んでちょうだい」

「かしこまりました」


しっかりと肯く侍女を見届けて、そのまま書庫に向かう。

学院の図書館にはもちろん及ばないが、それでも、歴代の伯爵家当主が揃えてきた蔵書はなかなか見ごたえがある。見上げるほどに背の高い本棚は、上の方になると脚立を使わなければ手が届かない。

そこに、隙間なくびっちりと数千冊の本が並んでいる。

歴代の家令がきちんと目録にまとめているようだが、それは当主の許可がなければ閲覧できないので簡単に借り出すことはできない。

中には相当高額の書物もあり、これらは全て我が伯爵家の財産である為、どこに何があるのかを書き出されている目録は厳重に保管されている。

つまり、私には見ることができないのだ。

もし、その目録が手元にあったなら、事はもっと円滑に進んだだろう。


私はここで、カラスに関する記述を探している。

いくつか前の人生から、記憶が蘇るその都度、彼についての調査を開始した。

カラスが普通の人間ではないことは分かっている。

妖精や精霊の類か、もしくは奇術師か魔術師か、幽霊などの実体を持たない存在かもしれない。

あれほどの術が使えるのだから、彼が人間であっても別の種族であっても、それが特別な存在であることは間違いない。だからこそ、何かの書物に記載されている可能性もある。

伝承や伝記、歴史書や創作物など様々な本に目を通した。

今のところ、それらしい記述があったことはないが、万に一つの可能性を捨てきれないでいる。

読み終わった本を棚に戻し、新しい本を手に取り。そうやって、少しずつ読み進めてきた。

しかし、ここだけでも何千冊あるか分からないのに、学院の図書館も含めると一生かかっても全てを読みきることはできないだろう。

実際、時間が巻き戻る度、それぞれの人生で、分割するように本を読み進めてきた。

今生はこちらの棚。前の人生はあちらの棚。日常生活の隙間を縫うようにして、彼の姿を追い求める。


「……お嬢様、手が届かないのであれば誰か呼んでください」


脚立に登って本を選んでいると、誰もいないはずの書庫に声が響いた。

いつの間にやってきたのか、護衛のアルが眉間に皺を寄せながらこちらを見上げている。

気配がないのは、優秀な騎士である証だ。


「大丈夫よ」と笑えば、すかさず「大丈夫ではありません」と返される。

タイトルさえ分かっていれば部屋まで運びますよ、と渋い顔をされるがそれには首を振った。

そもそも、自分が何を探しているのかさえよく分からないのだ。

本を手にとったまま台を下りようとすれば、すかさずその腕を支えられる。

エスコートされているような気分になって思わず苦笑すれば「滑り落ちたりしたらどうするのです」とますます渋い顔をされる。

そんなときにふと過ぎるのは、これまで事故の類で死んだことはないということ。

だとすれば、脚立から落ちたところでせいぜい骨折するくらいだろう。


「……お嬢様?聞いてますか?」


さすがに、落ちないから大丈夫とは言えず、慌ててこっくりと頷く。

本当に分かってるんですか?とため息を吐くアルを尻目に、暗い考えに取り付かれている己を叱咤する。

朝目覚めた瞬間に終わりを意識しなければいけない人生の、どこに幸福を見出せば良いのか。

もうだいぶ前から、分からなくなっている。

ただ、生きるためだけの毎日。それを積み重ねているだけの現在。


だからこそ、カラスを捜しているのかもしれない。


繰り返す時間の中で、現れる人間は大抵同じだ。

この人生を物語とするなら、登場人物はいつも同じで入れ替わることなど有り得ない。

それなのに、カラスは、私の前に現れるときとそうでないときがある。

私の知らないところでこちらを観察しているのだとしても、私には彼の存在を証明することができない。

いつかの人生では、カラスを捜して街中を彷徨い歩いた。

黒髪の男性を見つけては片っ端から声を掛けていったのだ。

カラスという奇妙な名前をひたすらに呼び続ける私を、周囲の人間は避けて歩いていった。

指を差して嘲笑する人間さえ居た。

もしも、あの場にカラスが居たのだとしたら、見て見ぬ振りなどしなかっただろうと思う。

存在さえ不確かだというのに、その人となりなら何となく知っている。

もしかしたら、あの人生には、カラスはいなかったのかもしれない。


それでも私は、カラスを捜し続けていたいのだ。

もしも姿を変えているのだとしたら、見つけ出すことは不可能かもしれないとさえ思う。

だけど、どうしても会いたいのだ。

別に何かをして欲しいわけではない。手を貸して欲しいとか、助けて欲しいとか、そんなことはもう望んでいない。

ただ、会いたい。


「……お嬢様は、何をお調べになっているのですか?」


結局、書庫では選んだ本を読みきることができず、数冊の本をアルに抱えてもらって自室へ戻ることにした。そろそろ昼食の時間なので着替えなければならない。

シルビアが一緒なのであれば、同じ色にならないようにしなければみすぼらしく映ってしまうだろう。

白銀の髪に、血管が透けるほどに白い肌をしたあの子は、薄い色でも濃い色でも何でも似合う。

あの子自体に、色がないも同然だから。

だけど、私は、この老婆のような髪のせいで着る服を選ぶ。

肌の色だって白い方だけれど、特筆しているほどでもない。

特徴があるようで、何もない私。


「何を、調べているのかしらね」

「……分からないのに、調べているのですか?」


明らかに異なる分野の統一性がない本の背表紙に視線を落としながら、アルが首をひねっている。


「いいえ、分からないから調べているのよ」

「……よく、分かりません」


静まり返った廊下の突き当たりに飾られているシルビアの肖像画に目を移していると「お姉さま……!」と背後から飛んでくる妹の声。

絵画から飛び出してきたかのようなタイミングだと苦笑しながら振り返れば、妹と一緒に歩み寄ってくる婚約者の姿があった。

なぜ、と思いつつも、それを顔に出すような真似はしない。

ただ粛々と「ごきげんよう、ソレイル様」と膝を折った。

「ああ」とだけ返事をするソレイルの代わりに、シルビアが邪気のない笑みを浮かべて嬉しそうに語る。


「少し早めにお付きになったようなの。お姉さまのお姿が見えないから、さっきまで一緒に客間で待っていたのだけれど……」


今日は体調が良いらしい。淡く頬を染めるその姿だけ見れば、健康そのものだ。

侍女にシルビアの体調を確認するように言ったので、ソレイルの訪問を知っていたのだろう。

来客に備えて薄化粧を施し、普段着というには少し華美な装いをしている。

ソレイルの方が身分が上なので正装するのは当然のことだと言える。

だとすれば、不躾なのは私の方だ。

しかも、つい先ほどまで書庫のほこりを被っている本まで引っ張り出していたから、ドレスの裾や袖口は埃を巻き込んで白くなってしまった。

紺色のような暗い色を選んでしまったからこそ目立っている。

数回袖を通しただけのものなのに、白くなってしまった部分が解れのように見えて古着のようだ。

これでは本当に老人のようだと笑みが零れる。


「……イリア?」


シルビアと並んで立っているソレイルが訝しげに眉を顰めた。

「……何でもありませんわ、どうぞお気になさらず」

首を振れば、ますます不審そうな顔をする。

そんな彼を見ていれば、今にも「何を企んでいる」と糾弾されそうな気がした。

自分がそれほどに悪人面しているとは思っていない。

だけど、彼には、そう見えているのだろう。


「昼食は応接間にご用意いたします。まだ時間がありますので、お茶でも飲んでらしてください」


そう言えば、シルビアが「この間、新しいお茶を仕入れたんです……!」と嬉しそうに両手を合わせる。

その姿を目に映したソレイルの双眸が僅かに緩んだのを見て、ほんの僅かに胸が軋む。

いつかどこかで見たような光景だと思いながら、だけど、これはもしかして郷愁のようなものかもしれないと、ふとそう思った。

昔なら、彼のそんな態度にいちいち傷ついていたのだろう。

だけど今は、心が凪いでいる。

いや、必死に、揺れ動きそうになる心を押さえつけているのかもしれない。


ソレイル様の好きそうな香りがするお茶なんです、とシルビアがこちらを伺うような眼差しを向けてくる。

それに頷いて、余裕がある振りをしながら「ちょうど良かったわ」なんて笑みさえ浮かべてみせる。

シルビアに「私は部屋で着替えてくるから、その間、ぜひお兄様にお茶をお出ししてあげて」なんて、まだ結婚もしていないのに冗談めいて見せる。

二人の気持ちを知っていながら、そんなことを言うのは滑稽だろうか。

それとも、嫌味を言っていると捉えられてしまうのだろうか。

しかし、そんなことは露ほども気にしていない様子のシルビアが、その細い指先をソレイルの腕に添えた。

触れているけれど触れていない。そんな微妙な距離感に、彼らの心情が透けて見える。


それをただ見ているだけの私は、一体どんな風に映るのだろうか。


ソレイルとシルビアを引き合わせる前の私であったなら、彼らを二人きりにさせるなんて真似事、絶対にしなかっただろうに。


「……お嬢様、」


大声を上げていただろうか。もしくは、二人の間にこの身を滑らせて「ソレイル様に近づかないで」と妹のその細い腕を振り払っただろうか。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


そのときソレイルはどんな顔をして私を見るのだろう。

―――――いや、どんな顔をして、私を見ていただろうか。


「お嬢様……!」


唐突に耳に飛び込んできた声に振り仰げば、アルが私の耳元で控えめに声を張ったところだった。

彼の、護衛騎士という立場上、大声を上げることはできない。

思考の波を漂っていた私は、びくりと肩を震わせて現実に戻った。

しかし、咄嗟に、それを悟られまいと小さく息を詰める。

ソレイルとシルビアに気取られているのではないかと視線を移すが、彼らは私のことなど露ほども気に留めず、先ほどよりますます距離を狭めていた。

唇に手を添えて秘め事でも口にするかのようにソレイルに顔を寄せるシルビア。

漏れ聞こえる内容はただの世間話であるはずなのに、彼ら二人が並んで立っているだけで何か眩しいものを見ているかのような気分になった。

ああ、何だか見たことのある光景だと思いつつ「それでは、よろしくねシルビア」と声を掛ける。

「っはい!」弾かれたようにこちらに向き直った妹の頬は未だに赤みを帯びていた。

それはまさしく、恋する女性の顔で。


何て、愛らしいのだと、ただそう思った。


「―――――イリア?」


また、ぼんやりしてしまったのかソレイルが訝しげにこちらを見ている。

「ああ、それと……シルビア、貴女がお茶を用意するのはもちろん構わないけれど、貴女の部屋では駄目よ」

杞憂だとは思うが念のため声を掛ければ、シルビアは案の定、不思議そうな顔をして首を傾いだ。

いくら今後、家族になる予定とは言え、現在のソレイルとシルビアは赤の他人だ。

貴族の子女が、家族以外の男性と部屋で二人きりになるのは褒められたことではない。

口さがない使用人がどんな噂をするか分からないからだ。

だが、シルビアにはそれがうまく伝わらない。


閉塞した鳥籠の中で大事に大事に育てられてきたシルビア。

私の可愛い、妹。


「……どうして駄目なの?」


不安げに視線を惑わせながら懇願するような眼差しをソレイルに向ける。

この場で一番強い発言権を持つのは彼だ。

ここが、私の生家であっても。


「この屋敷には信頼の置ける人間しかいないから、大丈夫だろう」


私の言わんとしていることを察しているはずなのに、何を根拠にしているのかそう言った。

それに、君の妹は、君を裏切る人間ではないだろう?とも。

未だに、私たちが何を言いたいのか理解できない様子のシルビアが伺うようにしてこちらを見ているのが分かる。その目を真っ直ぐに見返すことができない私。

悪いことをしているわけでもないのに、なぜか拭いきれない罪悪感。

ソレイルの意見を否定することもできないのに、結局、最終的な判断は私に任される。

それは、あまりに卑怯ではないのか。


ただ部屋でお茶を飲むだけだと言われれば、そうなのだ。

それに良い顔をしない私の方が普通ではないのかもしれない。

だけど、例え、扉を開けて部屋の中を見渡せるようにしていたとしても、人間というのは都合の良いように真実を捻じ曲げるものだから。

悪意を持った人間が、一つの部屋で仲睦ましそうにしている彼らを目にしたとき、それをどう捉えるかは分からない。


「イリア、そんなに深く考える必要はないんじゃないか?」


ソレイルにそう言われてしまっては、是以外に答えはない。


「……ええ、そうですわね。余計な気を回してしまって、」


平然を装ったつもりでも、反射のように収縮した筋肉が喉元を締め付ける。

とりたてて何かがあったわけでもないのに、こんなことは何でもないことのはずなのに。

苦しい。苦しくて仕方ない。

こうやって、私は少しずつ色んなものを失くしていくのだ。


「―――――それでは、シルビア、ソレイル様、後ほど……」


膝を折って、先にその場を離れる非礼を詫び、アルを視線で促す。

どこか厳しい顔つきをしていた彼はきっちりと腰を折り、彼らの視界を遮るようにして私の後ろに立った。


「イリア、ちょっと待て、」


そして、数歩進んだところでおもむろにソレイルが声を掛けてきた。

まだそこに居たのかと思いつつ振り替えれば、何かを言いたげに薄く唇を開いた後、黙り込んで私をじっと見つめた。

何かあるのかと来た道を戻ろうとすれば、なぜかそれを制するようにアルが割り込む。

かろうじて視界を塞がれてはいないが、戻ることは許さない、というような態度だ。

いつになく強気な態度だと首をひねっていれば、


「イリア、」と再び名を呼ばれる。


「―――――君は、一体……」


今度は黙り込むことなく言葉を紡いだが、やはり途中で思い直したのか口を噤んだ。

その顔は、愁然としているようにも見えたし、普段と全く変わりがないようにも見えた。

やはり、表情の読めない人だと思う。

シルビアを前にしているとき以外は。


「お兄さま、早く行きましょう」


奇妙な沈黙に焦れたのかシルビアが甘えるように言った。

私には決してできないことを、妹は当然のようにやってのける。

長い髪がふわりと揺れて、少し離れたところに立っているというのにその甘い臭いが漂ってくるようだ。

上半分だけ纏め上げて、残りの部分は緩やかに下に降ろしているその髪型は彼女の銀糸のような美しい髪の魅力を最大限に引き出している。


「お兄さま、」

「……ああ、そうだな」


やがて、止めたにも関わらず何事もなかったかのような顔をして連れ立って歩き出す二人。


「お嬢様……」


その後ろ姿を眺めているとアルが気遣うような声を出す。


「見送るのは、いつも私なのよ」

「……お嬢様」


「置き去りにされるのは、私の方なの」


思えば初めからそうだった。

茶会で二人を引き合わせたそのときから。


心を通わせる二人の傍で、私の想いはいつも、置き去りにされていた。




























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