黒煙
他サイト『奇妙』並びに『天界通信』にて、掲載されました。
若干内容は異なっています。
…理解するのにかなり時間が必要だったね。照らした先は六畳くらいの同じく畳の部屋だった。ただおいてある物がおかしかった。病院の診察室に置いてあるような細くて固そうなベッドが1つ。それと、本がぎっしり並べられた本棚。あとフランス人形っていうのかなぁ、わからんけど人形が数体置かれてた。意味がわからないからさ、まだ怖くなくて俺でもその部屋に入っていけたよ。本棚を見てみると、全部女向けだった。ファッション紙、漫画、絵本。
埃一つ付いてなかった。
ふーんって思って俺はまた手前の部屋に戻った。そしたらメリケンサック装備してるやつがものすごい怯えてるの。どうした?って聞いても会話にならないくらい。でもメリケンが一番言いたいことがだんだんわかってきた。
爺さんの一人暮らし。
ベッド、女性誌、人形。
悪臭、ガラクタ。
逃げろ。
俺たちはもう、物音をたてないで逃げようとは思わなかったね。だんだんこのゴミ屋敷のヤバさがわかってきてしまったから。爺さん1人くらいなら走って撒ける自信があった。階段の物を蹴飛ばし半ば落ちるように俺たちは玄関を目指した。
一階からは相変わらず酷い臭いがした。生ゴミを放置してるにしても、ここまで臭うはずない。
ヤンキーよりゴミ屋敷慣れしてる俺は、逃げたい気持ちが確かに強かったけど、同時に、なぜここまで臭うのか、知りたいと思ってしまった。
四人が全力で脱出してる中、俺は屋敷を出る前に立ち止まって、一階の部屋の方に視線を向けた。
爺さんは寝てるのだろうか。物音一つしない、人の気配も感じない。感じるのは…
道端に倒れて、カラスにつつかれてる野良犬の臭いに近かった。
好奇心、探究心より吐き気の方が勝った。
俺も先に出て行った4人のように出口を目指した。
まじ吐きそうだった。
玄関を塞ぐように置かれていた自動車かなにかの部品の一部も入ってきたときとは比べものにならないくらいの早さで突破して自分の家に走って帰った。」
武治叔父さんの話が、どんどん想像を超えたものに変貌していき、俺は自分の心拍数が上がっていることに気付いた。
「なにそれ、なんか、気味悪いな」
「そうなんだ。考えれば考えるほど気味が悪くてな。ただのゴミ屋敷だと思ってたら、二階には変な部屋。俺の家のすぐ近くだし、もし爺さんが追いかけてきたらどうしようかと怖かったよ。俺は家につくなりちゃんと鍵かけて急いで布団に潜った。気味の悪さに震えてたよ。で、普通だと気付いたら朝だったーとかって展開になりがちだろ?違うんだ。何時間経ったかよくわからないけど、まだ起きるには早い時間で、俺は一睡もしてなかった。遠くから消防車と救急車の音が聞こえてきた。
あ、これは俺、人生終わった
って思ったよ。急いで布団から出てその窓から外見たら、隣のゴミ屋敷から盛大に黒い煙が出てた。
素直に俺がやったことを親父とお袋に白状しようと思ったけど、結局できなかった。」
武治叔父さんの話を聞いて、俺は昔祖母が言ってた「お隣さんの火事の話」を思い出した。確か…
「 昔、お隣さんが火事になってね。家にも火がうつるんじゃないかって怖かったよ。 ○○さんはその日家にいなかったみたいで、助かったみたいだよ。不幸中の幸いだね」