一服
タバコの火がとても明るく感じると思ったら、外が暗くなってきていた。
「叔父さん、そんなに行動しといて、住んでる爺さんに気付かれなかったの?」
「…それなんだよな。未だにわかんないんだ。そのことは最後に言うつもりでいるからまぁ、順番に聞いてくれ。…俺の話、おもしろいだろ?(笑)」
「うーん、まぁまぁかな」
俺にとっては、本当にとても興味深い話ではあった。
自分の話がおもしろいと自惚れてる叔父も叔父だが…
「階段は紙類で埋め尽くされていた。あとちょっとした置物もあったかな。招き猫とか。ギリ真ん中に足の踏み場があって、綱渡りみたいな感じで俺たちは階段を上った。もちろん俺らは住んでる爺さんにバレないようにしてたから、無言。でもねぇ、5人で行動しといて懐中電灯一個ってのはさすがに厳しいよね(笑)真後ろにいる木刀持った奴と、その後ろにいるメリケンサック装備したやつはまぁまぁ無音で歩けてたんだけど、最後尾の弁当持った奴は酷かった。爆竹持ってた奴は器用についてきてた。弁当の野郎、足でなんか蹴って物落として物音たててんの。バレるとしたらこいつのせいだわって心の中でみんな思ってたね。そんな感じで10段とちょっとの階段を上りきって、二階に到着。
二階の部屋にはいったいなにがあるのか。
もうふすまは開いていたから、俺が懐中電灯向けたら、すべて見えるんだ。
びっくりしたよ。小さい声でみんな えっ? って。
二階、すごいきれいだったんだ。
一つの大きな部屋を真ん中の襖で仕切ってて、その手前側に俺たちは着いたんだけど、きれいすぎた。一階の悪臭、玄関までの粗大ゴミ、そこからは考えられない光景だった。
畳の部屋で、懐中電灯で照らした限り畳自体も傷んでなくて、埃っぽさもない。みんなの肩の力が抜けた。ホッとしてしまった。
深いため息をついて畳の上に寝転がるやつもいた。んで木刀持った奴が一服するかって言ってヤンキー四人タバコに火着けた。そのとき俺は思ったね。タバコとマッチ持ってくるなら懐中電灯持ってこれたよね?って。
俺1人タバコ吸わないでいたら、木刀の佐伯にタバコ勧められたんだ。ここまでこれたのはお前の力があったからだとか、なんか俺をすげぇ奴扱いして、ヤンキーのグループに入れたいみたいだった。このゴミ屋敷の二階にたどり着くまで緊張が続いてたから、ちょっとした達成感とか正直感じてた。その勢いもあって、俺は佐伯からタバコを一本もらった。佐伯に火を着けてもらって、産まれて初めての一口。…頭がクラッとした。悪くないと思った。それ以来ずっとこいつと一緒にいるようになったんだ」
叔父はまたタバコを指でトントンして取り出し咥えた。
「翔太はタバコ吸わないの?」
「俺は…前にカッコつけて吸ってみたけどなんか、むせて逆にカッコ悪くて、自分はタバコ吸いに向いてないみたいで」
「…ふーー…そうかそうか。タバコはな、すわない方がいいからな。本当に。…初めての一本を吸ってて、まず灰の処理に困ったんだ。佐伯に なぁ、この先端に増えていく灰はどうしたらいい? って聞いた。そしたら佐伯のやつ、 適当に落としとけばいいんだよ なんて言うから、俺も適当に落とそうかと思ったけど畳の上だぜ、ビビりの俺にはできなかった。
だから部屋の隅、真ん中のふすまの近くに落ちてた雑誌の表紙でなんとか火を消した。ヤンキー4人は畳の上だと言うのにいつも通り下に落として靴で踏みつけて火を消してた。やばいよな…。
タバコ吸ったせいか冷静になって、俺は人の家に勝手に入って勝手にタバコ吸ったという、人生で初めて犯罪を犯してしまった罪の意識にさいなまれ始めた。そして、さっき俺が灰皿代わりに使った雑誌が、女性向けの物だと言うことに気付いた。ここに住んでいるのは独り身の爺さんだけのはずだから、おかしいんだよな。だんだん俺は部屋の奥側が気になりだした。人の気配は無かったから、一服終えたヤンキー共に部屋の奥見てこいよと促した。今までの学生生活では俺が下っ端だったのにいきなり俺が一番上になってた。ゴミ屋敷下剋上ってわけだ。俺に促されて、弁当持ってきた奴と爆竹持ってきた奴がビビりながら部屋の奥に通じるふすまを開けに行った。一階に音が聞こえないようにゆっくりと。ふすまが開ききって、きっとまたゴミが押し込まれてたり家具が散乱してるだけだろうと思って俺は懐中電灯を向けた。