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たくさんの秘密が ①  作者: 木奈小芽衣
2/5

臭い

二階には、学生の頃の武治叔父さんの部屋がある。ほとんど家具がなくて殺風景だが、確実に叔父が過ごしていた部屋。ポスターでも貼っていたのだろうか。壁は所々四角く色が違った。

武治叔父さんは押し入れから座布団を二枚取り出して俺に座るよう促した。

一階からみんなの話し声がうっすら聞こえる。なにを話してるかはわからない程度だ。だから二階で話しても、その内容が一階に漏れることはないだろう。

「あれ?武治叔父さん、酒もう飲まないの?」

「あぁ、もういい。」

武治叔父さんの顔はさっきまでのご機嫌酔っ払い顔から、引き締まった顔に変わっていた。まだ少し頬は赤いが。

酔いでも覚ましたいのか、タール11㎎のタバコを二本続けて吸っていた。


「ふーー。…どこまで話したっけ?」


「ヤンキーと武治叔父さんが、ゴミ屋敷突入するって辺り」


俺は武治叔父さんの言う青春の話の続きが早く聞きたくてうずうずしていた。


「そうか。そうだな。ゴミ屋敷突入…今考えると、不法侵入とか確実に法を侵してるんだけどな。あと戦後数年でよくあそこまでガラクタを集めたもんだよな。そんでまぁヤンキー4人と俺、全部で5人で突入する事になったんだ。もちろん夜な。」

「武治叔父さんは、ヤンキー怖くなかったの?」

「翔太の学生時代とは多分ヤンキーのタイプが違ったんだと思う。そもそもヤンキーって今いるのか?

ここだいぶ田舎だし、都会のヤンキーとも違ったのかもしれないな。俺の知ってるヤンキーってやつらは、主に万引き、爆竹、タバコ、酒…簡単に言うと、俺大人だし!怖いものなんてないし!!って主張が強いだけの奴らかな。日常では特に害の無い奴らだったよ。」

ここで叔父さんはタバコに火を着けた。

モクモクと出るタバコの煙が武叔父さんの顔に少しモザイクをかけた。

「タバコもな、あいつらから教わったんだ。あの日。…あの日の夜1時が集合時間だった。できるだけ黒い服を着てくるようにって俺があいつらに指示しといた。もしも見つかったら後が怖いからな。できるだけ走りやすい格好で来いとも言った。あいつらおとなしく俺の言うことに従ったよ。普段は俺のことビビりって言ってくるのにな。五分前行動主義の俺は少し早いけどできるだけ静かに家を出た。親父…お前の爺ちゃんが作った物置小屋から懐中電灯持ち出して、ゴミ屋敷の裏の畑に身を隠した。そっちの窓から見えるだろ?新しく建った二階建てのアパート。あそこが昔トウモロコシ畑だったんだ。で、アパートの前の駐車場が、昔ゴミ屋敷だった場所。」

俺はビールを一口飲み、窓の外を見渡した。

「俺が畑に身を隠してすぐ、ヤンキー達も畑に入ってきた。誰も怖いとか言わなかったなぁ。たまたまガラクタが大好きな爺さんの家に侵入するだけだったからってのもあるし、ヤンキーは怖がってる素振り見せたくないものだから。ボス的な立場の佐伯ってやつは木刀持ってきて、後藤はメリケンサック、河原は爆竹、中西は弁当持って来た。懐中電灯持ってきたのは俺だけだったよ。月の明かりで歩くぶんには苦労しなかったんだろうな」

相変わらず俺は窓の外を見ていた。武治叔父さんの話は、目の前の土地の過去で起きている。

「とりあえず俺たちはトウモロコシに囲まれたまま簡単な作戦会議をした。屋敷の主の爺さん、結構外で目撃されてたんだ。リヤカーにゴミ集めて歩いてた。爺さんが出入りしてるのなら絶対出入り口はあるはずだって。俺は、爺さんが出入りしてるであろうコースは何となくだがわかっていた。軽くゴミの山を登ることになるけど、玄関までのルートは過去に数回爺さんが物持ったまま通ってるのを見たことがあった。だから俺が先頭になることになった。懐中電灯もってたしな。敷地の道路に面してる方には自転車だとか針金の柵の一部だとか当時は貴重な家電だとか、割と大物が多かった。でも一回も崩れたところは見たことがなかった。絶妙なバランスで積まれてたんたな。ん?ゴミ屋敷ってよりはガラクタ屋敷だったのかなぁ?まぁいい。

俺は普段ちょっとヤンキー共に下に見られてたがこのときはヤンキー共、俺に尊敬の眼差し向けててさ、なんかちょっと気持ちよかったんだ。爺さんの身体能力vs男子中学生。もちろん男子中学生の勝ち。思ったより簡単に俺たちはゴミ屋敷の本当の玄関までたどりついた。引き戸で、全開だった。鍵かける家の方が少なかったからそんなにおかしいとか思わなかった。こっからは俺も知らないゾーン。まず足の踏み場はなかった。何らかの物を踏まないと進めなかった。人の家にあがるのに誰1人として靴は脱がなかった。できるだけ静かに、行けるとこまで行こうとしてた。玄関入って右に二階へ通じる階段があって、左にはすぐ部屋があるみたいだった。小声でどっちに行くか話し合った結果、臭くない方にしようぜってことに。左の一階の部屋からだと思うんだ。なんかくっせぇの。初めて嗅ぐ臭さ。だから臭くない二階に行こうってなってなぁ。」

ずっと立ってるのも疲れるので俺は窓の下に座った。ぬるくなってきたビールを一気飲みした。

叔父は、何本目かのタバコに火を着けた。

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