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四章―10

 けれど、郁斗が想像した《未来》の忘却者の力より、本物の《未来》の忘却者の力が勝った。僅かな時間で考え編み出された力は、小さなアトラクションを止めることはできても、それを上回る《未来》を覆すことができなかった。

 郁斗は小さく舌を打ち鳴らして、忌々しくジェットコースターを睨みつけた。

「郁斗! 追え! この先にも《対策チーム》が控えてる! すぐに知らせろ!」

 下で叫ぶ幸明に返事をせず、郁斗はジェットコースターの後を追う。ジェットコースターは時速二百キロ近く出ているのだろうか。スピードは弛まずに、逆にどんどん加速している。あたりの物にぶつかり、くねくねと繋がる車体を曲げながら、真っ直ぐに進んだ。

 この先は確か『時計塔』がある場所だ。『中央の都』に直接つながり、多くのショップがあるエリアだ。敷地は広いが、ショッピングエリアとして設計されている分、細々とした装飾が多い。

 風を突っ切り、先へと急ぐ郁斗。

 けれど、ジェットコースターの方が速い。

「くそ!!」

 駄目だ、間に合わない。

 ここから見える『時計塔』のエリアには《対策チーム》がいた。ここにいるメンバーもまたアトラクションに襲われて、満身創痍の状態だった。そんな彼らの元に、ジェットコースターが突っ込めばどうなる――?

「駄目だ……!」

 ジェットコースターは、すでに『時計塔』へと突破していた。

 エリアの問を突き破り、中へと飛び込んできた大型のジェットコースターに、《対策チーム》は愕然として、反応が遅れた。

 まるでボーリングを観ているようだった。

 満身創痍の《対策チーム》というピンに、ジェットコースターというボールがぶつかろうとしていた。

 郁斗は我知らず、隼となってジェットコースターへと向かって行った。




   * * *




 誰かが焦っていた。

 それにつられて自分も焦る。走って、走って、もう汗だくで、横っ腹も痛くて、脚もだるい。もう動きたくなかったが、それでも走り続けた。

『風の都』から風景がまた一変する。

 エリアの中心に大きな時計塔がある。それをぐるりと囲むように、小さな店がちらほら見えた。どこだろうか、ここは、と周囲を見渡して、途端、正体不明の焦りが強くなった。

「速く、速く……!」

 どこからともなく、轟音が上がる。空気が振動し、足元をぐらつかせた。そして、聞こえる悲鳴に、もつれていた脚がしっかりと地を踏みしめて、走り出す。

 何が起こっているんだろう。

 何かやれることがあるんだろうか。

 石畳の地面を蹴り上げながら、必死に前へと進む。

 視界に飛び込んできた光景に、脚がぴたり、と止まった。

「へ……!?」

 目の前には多くの人が逃げ惑っている。普通の人の雰囲気ではなく、恐らくこの人たちも忘却者なのだろう。忘却者たちが逃げ惑っている向こう側から、何かが猛烈な勢いでこちらへと突っ込んでくる何かが見えた。

 大型のジェットコースターだった。

「な、何それ!?」

 さすがに大型のジェットコースター相手では、自分は何もできない。

 星歌は慌てて、身を翻そうとして、


「星歌―――――!!」


 誰かが自分のことを呼ぶ声に、足を止めて、空を見上げた。

 そこには一羽の鳥の姿があった。




   * * *




 ジェットコースターが進む先には《対策チーム》のメンバーがいた。そして、さらにその先には、一人の少女がいた。

 思わず名を叫んでしまった。

 彼女はこちらを見上げる。

 きょとん、とした目は、何だろう? と問いかけていた。す、と星歌の腕が上がる。

 その手に誘わるように、郁斗は星歌へと向かった。

 星歌の唇が動く。口端を緩めて、目を細めて。


 ――繋がろう。


 と。

 ふわり、と下から風が吹き上げる。冬の冷たい風ではなくて、春のような温かさを持った優しい風だ。不意に、《未来》の忘却者の力を真似ていた、自分の力が途切れる。かわりに、かちり、と体の奥で誰かと繋がるような音が聞けた。

 瞬間、力が湧いてくる。

 隼の形態から、また別の姿へと変わる。

 鷲の姿をイメージし、さらにそこにライオンの姿をくわえれば――グリフォンの想像へ。その想像通りに体は変化した。

 隼よりも、本来のライオンよりも大きく、逞しい体へと。大きく羽ばたいて、空を駆ける。ジェットコースターよりも速く、速く。

 ジェットコースターの先が後わずかで星歌に触れる時、郁斗の嘴は星歌を捉えた。そして、飛翔する。ジェットコースターのスピードは劣らずに真っ直ぐに突き進み――時計塔へと衝突した。大穴を開けて、ジェットコースターはようやく止まる。

「おー、高い……」

 郁斗の首根っこに掴む星歌は少し声を震わせていた。上空を飛んでいるため寒いのだろう。もしくは高いところが怖かったか? しかし、彼女の繋がっている今、彼女が空を飛んでいることに感動していることが伝わり、笑った。

 そして、彼女の記憶に、空魔と呼ばれる存在を垣間見た。

 彼女は一度全部空魔に記憶を奪われたらしい。大事にしていた日記帳も空白になっているという記憶が流れてくる。空魔はもう一度星歌の前に現れて記憶を奪おうとして――、果敢にも立ち向かった。その風景が、感情が、全てが郁斗の意識に映し出される。

 記憶を失っても、星歌は星歌だということに、笑ってしまった。

「相変わらずだね」

「何が?」

「真っ直ぐなところだよ」

 最初は彼女のことがとても危険視していた。彼女の力はとても危険だと、恐れていた。けれど、違う。確かに彼女は危険だろう。

 それでも彼女は真っ直ぐだ。

 初めて出会った人物に、笑って手を伸ばすくらい、考えなしで、真っ直ぐすぎて、けれど、自分たちよりも自分らしく生きている。危険な存在だが、危険を跳ね飛ばす勢いがある。彼女に着いていけば、もしかしたら、その先にある未来へと辿り着くかもしれないと思ってしまうほどに。

「んふふー」

「何? 気持ち悪い声出して?」

「私のこと、褒めてくれたでしょ?」

「どうだろうね? 単純バカって言いたかったかもね」

「あ、酷い!」

 繋がっているから相手にも気持ちは伝わる。そして、彼女の想いも、こちらへと伝わっているのだ。

 ――この人といれば大丈夫。自分は自分でいられる。だから、ずっと一緒にいたい。

「そりゃ、光栄だね」

「あっははー。恥ずかしー」

 上空を飛ぶ自分たちは、二人きりだ。例え凍える風の中でも、危険と蔑まれる中でも、自分たちはパートナーだ。

「星歌」

「ん?」

「僕の名前は、郁斗だ」

「知ってるよ」

「そうだね」

「ねぇ。郁斗」

「何?」

「私たちさ、まだまだ空っぽだけどさ」

「あぁ、最後まで諦めないよ」

「うん!」

 首にまわされる腕に力が入る。

「よろしく相棒!」

 郁斗も笑った。

「こちらこそ、マイ・パートナー」

 かちり、と『時計塔』の針が動き出した。


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