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四章―9

「行かないくせに何言ってるんです?」

「何言ってんの。このくらいの歳でもまだまだ遊園地はイケるんだぜ?」

「意味がわかりません」

「お前も大きくなったらわかるようになるよ」

「わかりたくもありません」

 瞬間、アトラクションが動き出す。機体が擦り合いながら、こちらへと突進してくるアトラクションの数の多さに郁斗とさすがの幸明も冷や汗が伝った。

 ――どうする!?

 象の姿ではこれだけの数のアトラクションを相手にするのは難しい。自分だけならば逃げ回ることができるが、しかし、全員がここにいる。しかも、満身創痍だ。逃げるのはそれこそ難しかった。

 これも〝最悪〟な《未来》が発動しているせいなのだろうか。

 いっそのこと、〝最悪〟な《未来》を全部引き受けることができるならば――そう考えて、は、と思いつく。

 ならば、いっそのこと自分も《未来》の忘却者になればいい。

 それは不可能に近いかもしれない。けれど、かつて星歌と繋がった時、自分は星歌の力と、他人の力を手に入れ、自分のことのように使うことができた。しかし、それは星歌がいたからという要因が強い。

 けれど、可能性もあるにはある。

 先ほど、星歌と繋がっていないのに、グリフォンの姿になれたことだ。今までは星歌の力がないと化けることができなかったが、先刻は星歌の力を想像して、自分の力として、無理矢理定着させた。自分の想像を、現実へと化けさせた、と言った方がいいだろうか。しかし、それも限界があり、すぐにグリフォンの姿は人型へと戻ってしまった。

 今回は、本当に想像、だ。

 星歌の力は、一度体験しているからできたこと。

《未来》の忘却者とは一度だけ繋がったことがあるが、ほんの数分。力など、発動していなかった。流れている噂がどこまで真実かわからない。想像も難しいだろう。

 でも、このままではいられない。

「やれるか……!?」

 それでも郁斗は《自身》の忘却者だ。まっさらな自分という者を持たない郁斗は、何にでも化けることができる。動物はもちろん、それこそ人間にだって。あの時の星歌と繋がって手に入れたグリフォンという力は、《自身》の力で想像し、定着させたものだ。

 想像すればいい。

《未来》の忘却者を。

 想像した《未来》の忘却者を、郁斗に定着させればいいのだ。

「簡単に言うけど、難しいものがある」


 ――そんなのわかんないじゃん。やってみなきゃ。


「ま、そうだね。やってみる価値はあるよね」


 アトラクションが迫る。

 幸明が躍り出た。

 郁斗は象の姿から郁斗としての人間の姿へと戻り、目を閉じた。思い浮かべるのは《未来》の忘却者の力。自身にとって都合がいい展開へと導く《未来》の忘却者の力。

 思い描け。

 思い描け。

 頭の中で描いていたものがぐにゃりと変形し続けて、形が定まらない。駄目だ。


 ――郁斗。


 描かれている《未来》の忘却者の想像の向こう側に、星歌の姿が現れる。こちらが大変な目に遭っているというのに、星歌は楽しそうに笑っていた。

「全く呑気だな」

 小さく溜め息を吐けば星歌はさらに頬を緩め、手を差し出してくる。ぐんにゃりとした《未来》の忘却者の想像が相変わらず定まらなかった。郁斗はその手に向かって手を伸ばす。手と手の間に、想像している《未来》を描きながら。

 ――郁斗なら、大丈夫だよ。

「何? その自信?」

 想像を挟みながら、星歌の手のひらに触れた。ぎゅ、と握れば、確かな感触が伝わってくる。

 ――だって、

 その瞬間、変形し続けた《未来》の想像が、ぴったりと形とした姿を現した。

 ――私のパートナーだもん!

「言うじゃん」

 笑って、郁斗は鷲になり、空へと飛び上がった。

 そして、形を得た《未来》の忘却者の力を。

 自分が作り出した《未来》の忘却者の力を。

 発動、させた。

 きん、と力が周囲へと流れる。力が周囲を呑みこんでいく感覚が、伝わる。

 発動させ、下界のアトラクションを見た。アトラクションはぴたり、と静止していた。何事もなかったかのように、電源が落ちたアトラクションとしての姿がそこにあった。

 下界は、静寂が漂う。

 成功、した。

《未来》を操って、アトラクションを止めたのだ。

「やった……」

 小さな喜びは、次第に膨れ上がる。しかし、その喜ぶ反面、本当が警鐘を鳴らしていた。何だろう、と郁斗は下界を見る。

静寂に包まれる『中央の都』で幸明が警戒するように周囲を見渡していた。

「……」

 静かすぎた。

 確かに自分は〝鎮まる〟ようにと、《未来》の忘却者の力を発動させた。けれど、この異様な静けさは、どこか異常さを醸し出していた。何だろうか、と考えても、答えは出ない。

「嵐の前の静けさ、か……?」

 不意に、静まり返る『中央の都』で微かに異音がした。がごん、がごん、と重量感のあるものが走る音だ。轟々と風を突っ切る音も聞こえる。

 そして、背後にある『アイランド』を一周する長いジェットコースターのレールが大きく揺れた。

 郁斗は背後を見て、咄嗟にそこから旋回する。

 レールから外れて郁斗めがけて飛んできたのは、長大なジェットコースターだった。

 郁斗が飛んでいるのは上空。郁斗めがけて突っ込んできたのはジェットコースターだ。機体は空へと放り出されて、その重量で真っ逆さまに落ちる。

 下で幸明が顔を引きつらせるのが見えた。

 ジェットコースターは下のアトラクションの残骸の上へと落下した。そのまま壊れて止まるかと思ったが、ジェットコースターは残骸を引きながら、地上を走り始めた。

 慌てて幸明や《対策チーム》が避ける。

「何で動くんだ!?」

 忘却者の力を使っているせいだろうけれど、

「いくらなんでもこれは」

 ジェットコースターはものすごいスピードで衝突するモノを全て弾き飛ばしながら、真っ直ぐに突き進む。

 ――失敗した。

 違う。成功は、したのだ。


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