四章―8
――上等だった。
「渡すかぁぁぁぁぁっっ!!」
体の中から、外へと何かが迸った。それは周囲へと広がり、触れたものを手当たり次第に絡め取っていく。その力はこちらへと向かってきていたジェットコースターをも飲み込んだ。
「何……!?」
星歌の胸から、空魔の星歌の腕が抜き取られる。刹那の動揺を、星歌は見逃さなかった。
「私のものに手を出すんじゃねぇぇぇっっ!!」
怒りが頂点に達する。
自分の拳ではきっと、この空魔には敵わない。――だからこそ。
「お前……がっ!!」
目の前の星歌が、鳥の形をしたジェットコースターと衝突する。眼前を猛烈なスピードで駆け抜けていったジェットコースターは風を巻き上げ、空魔ごと遠くへと走り去ってしまった。
「……びっくりした」
心臓がばくばくと胸を叩く。
正直、上手くいくとは思わなかった。生物外の無機質な物体と〝繋がる〟なんて。
「人間、やろうと思えばできるんだねー」
空魔はどこまで引きずられただろうか。あの勢いだ。もしかしたら、ジェットコースターに轢かれてしまったかもしれない。
「……やだなー。轢かれた自分の姿、想像しちゃったじゃんか」
悲惨な光景を頭から追い払う。
――星歌。
誰かの声が聞こえた。
必死になって、星歌の安否を気遣っている。
「ん……」
誰だろう。この声の主は?
それでも、とりあえず、
「私は大丈夫だよー!!」
大声で、伝えた。
* * *
私は大丈夫。
確かにそう答えが返ってきた。
――大丈夫だから、心配しなくていいよ。あなたはあなたの思うようにやって。
繋がってもいないのに、彼女が笑いながら言うのがわかった。
「信じてもいい?」
空に向かって、問いかける。
――もちろん!
得意げに、はっきりと頷いた。
「よし」
なら、自分が目指すは《未来》の忘却者だ。
鷲の姿になり大空へと舞う。風を斬りながら、テーマパーク内を滑空し、『中央の都』のエリアへと入った。そこには確か《協会》メンバーがいるはずだ。メンバー全員が怪我を負っている。おそらくここには誰もいないはずだ。
旋回しながら、郁斗は下界を見下ろす。
「!」
誰もいないと思っていた『中央の都』は悲惨な状態だった。《未来》の忘却者の力で操られ暴走したアトラクションが半壊の状態で転がり、壁は崩れ、レンガで造られた道は抉られその下の地表が覗いていた。
その壊れかけた場所には《対策チーム》と、幸明がいた。
全員が満身創痍になりがならも、未だ暴走しているアトラクションと戦っている。
このままでは、メンバー全員がやられるのも時間の問題だった。
郁斗は戦場へと下降する。ひゅん、と風を斬りながら、一番大きいアトラクションへと突っ込んだ。アトラクションへと衝突する寸前で姿をぐるりと変える。鷲からもっと大きな――重量感のある生物へ。
「うわ!」
「何だ!?」
近くにいた《対策チーム》が悲鳴を上げる。
ドズン!!
鷲から象へと化けた郁斗は、アトラクションを踏みつぶした。脚の下でばきばきと壊れていく感触が伝わる。乱入者に気付いたのだろう。ジェット機の形をした小さなアトラクションが、象となった郁斗へと突進してきた。それを長い鼻で殴り、遠くへと吹っ飛ばす。薄い鼻の皮が殴った衝撃で、微かに切れた。
「おう、いっくん」
戦場に居ながら、間の抜けた声がかけられる。
「幸さん」
「でっけー。久しぶりに象を見たわ」
「僕も幸さんを見下ろすなんて久しぶりです」
「てめぇ、今すぐ犬っころになれ。俺が見下してやる」
「誰が犬っころになんかなりますか」
こんな間抜けな会話をしているのに、自分でも呆れてしまう。
「どうしたん? 何か一皮剥けた感じになってるぞ?」
「いえ、別に僕はどうもなっていません。ただ」
「ただ?」
「いろいろと考えるのが面倒くさくなったんですよ」
「ふぅん」
にやり、と幸明が笑う。
「何ですかその厭らしい笑み。言っときますけど、悠長に構えてる暇はありませんよ」
周囲に目を向けると、どこから集まってきたのだろうか、デザインや雰囲気が断然異なるアトラクション機器に囲まれていた。
「うわ。俺、遊園地にトラウマ持ちそうだわ」




