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三章―1




   三章




   1




 荻呂市にある『アイランド』は荻呂市の中でも大規模なテーマパークだ。

 テーマパーク内は中心部である『中央の都』と、さらにそれを囲むように、六つのエリアがある。その六つのエリアはそれぞれのテーマがあり、そのテーマをもとに作られている。

 その『中央の都』に郁斗はいた。そして、《協会》が反逆した忘却者を捕まえるための《対策チーム》、そして未だ見つかっていない忘却者を保護する《保護チーム》が集結していた。テーマパーク内はもう早朝のため、誰の姿もなかった。

 がらん、としたテーマパークに、電源が落とされたアトラクションが不気味な沈黙を湛えている。

 一昨日の星歌と郁斗の騒動を聞いているのだろう、そして、ここに《未来》の忘却者がいるということもあって、《対策チーム》はピリピリとした雰囲気で、郁斗と幸明をじろり、と睨みつけていた。

 郁斗はその視線を無視して『アイランド』のガイドマップを見ている。

 この広さだ。

《未来》の忘却者がいるとわかっていても、どこに隠れているのか見当もつかなかった。何しろ、アトラクションも多くある。

 しらみつぶしに探すのは、容易じゃなかった。

「ねぇ、いっくん」

「はい……って、何してるんですか?」

 幸明は近くにあった幼児向けのメリーゴーランドの小さな馬に乗っていた。ファンシーな馬にまたがる和服姿の男はどこからどう見ても変態でしかない。郁斗は知らず溜め息を吐いて、「何です?」と返す。

「言おうか、言うまいか、迷ってたんだけどさー」

「はい?」

「ここに、ホッシーも来てるんだよね……」

「……は?」

《未来》の忘却者がいる、このテーマパークに星歌が?

《未来》の忘却者に狙われている、星歌がここに?

「何で!?」

《未来》の忘却者が狙っているのは星歌と、そして、この自分だ。郁斗はまだいい。戦える。しかし、星歌は違う。星歌は誰かがいないと、戦えないのだ。彼女自身に、戦う力もない。それなのに、何故ここに?

「うん。まぁ、ようは囮だろうよ」

「囮……」

 言われて、そうだった、と思い直す。

《協会》は忘却者を捕まえるためなら何でもする組織だ。《未来》の忘却者を狙っているならば、利用できるものはとことん利用するだろう。例えそれが、戦えない人を使ってでも。

「星歌は、大丈夫なんですか?」

「ん。大丈夫じゃないの? 何しろ星歌の存在も《協会》にとっちゃ貴重だしな。護衛がいっぱいいるだろう」

「……役に立てばの話ですけどね」

「言うねぇ」

 くくく、と愉快そうに幸明は喉を鳴らした。


「おい」


 露骨に不機嫌さをあらわにした声がかけられる。二人して振り向けば、男が立っていた。筋骨隆々としたがっしりとした体格をしている。ジャケットに、ジーンズ姿は男と見事に調和していてどこか軍人めいた雰囲気を纏っていた。おまけに男の顔にはいくつもの傷が刻まれていた。

「誰? この厳つい人?」

「ふん。《闘神》か」

「あれ? 俺のこと知ってんの?」

「当たり前だ。お前が動くと多くの犠牲が出ると恐れられているぞ」

「あらあら、まぁまぁ」

「そして、そのちゃらけた性格もな」

「そりゃ、どうも。それで、何用かね?」

 男は苛立ちに顔を歪ませる。顔に刻まれた傷もぐにゃりと歪んだ。

「お前だ。《化け者》」

 太い指先を突き付けられて、郁斗は眉を顰める。

「何です?」

「何故、ここにいる?」

「何の話ですか?」

「お前は一昨日、多くの犠牲者を出したと言うではないか」

「……」

「そして、昔も、な」

「……」

「失せろ」

「……」

「どうせ俺たちも殺そうとしているんだろう?」

「違います」

「ふん。《化け者》とはよく言ったものだな。人間の面の下には、正真正銘の人殺しの化物がいるんだろう!」

「違います!」

 大声で否定するが、男は聞こうとしない。男は郁斗に詰め寄り、胸元を締め上げた。

「いいか? もし俺たちを殺そうとするなら、俺たちは逆にお前を殺す」

 ぎりぎり、と締め上げられる喉。呼吸さえまともにできなかった。郁斗は奥歯をぎり、と噛みしめた。

「目障りだ。俺たちの前をちょろちょろとするなよ? 誤って殺しかねんからな」

「……」

 どん、と突き飛ばされる。何とか踏み止まって、蔑視するような目を向ける男を睥睨した。

 けれど、何も言えなかった。

 男はそんな郁斗を鼻で笑いながら、仲間たちのところへと歩いていった。

 これが、現実。

 これが、かつて星歌と繋がって生まれてしまった現実。

 過去の負の、継続。

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