二章―27
「まず、昨日のことを話しましょう」
「……」
「はっきり言って、とても残念な結果に終わりました。まず我々《協会》メンバー、俺――福良、夢子、幸明、郁斗、星歌が満身創痍、それ以外の者は異形と化した後、死にました。そして、あの電車に乗り合わせた一般の人々もガラス片で、もしくは、外に投げ出され全員死亡。最後に、〝気狂い〟となった《未来》の忘却者の捕獲失敗、です」
「……」
「あれだけの犠牲を出しながらも我々は、あいつを捕まえることができなかったのです」
「……」
「わかりますか? こういう犠牲があったのは、あなたと、星歌のせいです」
「……」
「ちょっと、ちょっと、福良さーん。それ違うでしょ?《未来》の忘却者が現れたのは、別にいっくんのせいじゃないっしょ?」
幸明がすかさず口をはさむが、福良はそんな幸明に怒りを浮かべた目で睨みつけた。
「何を言っているのです? 全ての原因は、郁斗と星歌にあります。それは、あなたもわかっているでしょう?」
「わかっているが、今回のことは不運が不運に重なって、大きな不幸が起こった――それだけだ」
「ほう。俺としては、彼は周りに犠牲が出ることを厭わない印象があったのですが?」
「そりゃ、福良さんの眼が腐ってるからだろ」
「……あなたも、本当に口が減りませんね」
「ありがとうございます。よく言われます」
「……ごほん。さて、郁斗、どう責任をとりますか?」
福良はぎゃあぎゃあと騒ぐ幸明を放り、郁斗と向かいあう。口元は笑っているが、目は笑っていない。ここで、もし、彼の機嫌を損ねるような返答を返してしまえば、恐らく自分は重い罰則を受けることになるだろう。
「郁斗、あなたが今回やったこと、わかっていますね? 第一の原因は、《繋がり》の忘却者である星歌と繋がったことです。彼女の力は危険だと、聡明なあなたならもうすでに知っていたはずです。それなのにあなたは危険を承知で――いえ、さらなる力を得たいがために星歌の力を利用しました。星歌と繋がり、さらに多くの忘却者と繋がることで、忘却の力を集約し一つにしました。なるほど、それは確かに強いでしょう。皆の力を合わせたのですから」
「……」
「ですが、あなたはこの後に起きることを予想していなかった。わかりますよね? 皆が皆、繋がっている。そう、皆の力が一つになったあなたとも繋がったのです。星歌は《繋がり》の忘却者ゆえに、多少の耐性があるでしょう。俺も、夢子も多くの忘却者と渡り合ってきました。多少の能力の負荷は耐えられます。そして、星歌も我々のことを守ってくれました。まぁ、それも彼女が無理矢理皆と繋がり、暴走したあなたに反抗した結果そうなっただけですが。しかし、他の者はどうでしょう? まだまだ実践も、忘却者としても短い経験を積んできた彼らです。大きな負荷に耐えられるはずもありません。結果、彼らは異形となりました」
「……異形。あれは、何なんですか?」
「〝異形〟とは我々が勝手に呼んでいる者たちです。〝異形〟は、《繋がり》の忘却者である星歌と、《自身》の忘却者であるあなた――郁斗が繋がり、共に暴走し、影響を受けた被害者です」
「僕と、星歌が繋がって……暴走して、被害を受けた?」
「はい。あなた方が多くの者と繋がった状態で暴走した時に〝異形〟が生まれます。簡単に分析すると、星歌が《自身》の忘却者であるあなたがまず繋がります。《繋がり》と《自身》の力を共有したあなたたちはさらに不特定多数の人間と繋がります。そして、そこで何らかの理由で暴走状態に陥ります。あなたと星歌以外の人たちは、最初に《自身》の忘却者の力の影響を受けます。わかりますか? 自分以外の生物となれる能力を受けるのです。ですが、不特定多数の人間たちは、《繋がり》と《自身》の力に慣れていません。力を持て余した、危険な状態になっています。その影響で、犬、猫、鳥……それは様々ですが、繋がった人間の体は自分とはまったく違う生物の部位が体の至る所に現れます。そこで、《繋がり》の忘却者の力で至る所に現れてしまった他生物の部位を人間の体にくっつける――簡単に言えば、繋げます。そして、最後にあなたの《自身》の忘却者の力で〝他生物の部位が至る所にある〟というのを、その人間に〝それが自分自身〟であると無理矢理思い込ませる」
「……」
「それが、〝異形〟の誕生です」
「……」
「ただし、〝異形〟となった者の末路は死です。人間の体に、他生物の体が無理矢理くっついた状態です。体がもつはずがないのです。〝異形〟と化して、五分後には死に至ります」
「あの電車の中の〝異形〟となった人たち、は……僕たちが暴れた原因ですか?」
「そうなります」
隠そうともせずに、彼は首肯する。
「あと、一つ訊いてもいいですか?」
「何ですか?」
「何で、今回、《未来》の忘却者を保護チームではなく、僕に任せたんですか? 僕に任せることがなければ、僕は彼女と出会うこともなく、犠牲者も出ることだってなかった。何で、〝〝異形〟〟を生み出す――僕と星歌が会う可能性があったのに」
「それは俺も反対していました。けれど、上の方々の意見が違います」
「福良さん」
その先を言うのを止めようと、幸明が口を挟んできた。
「もうそれ以上はいいだろ」
「いえ、言っておいた方がいいでしょう。今後のためにもなります」
福良は一度幸明を見て、郁斗へと向き直った。
「上の方々の意向は、
《自身》の忘却者と、《繋がり》の忘却者を、《未来》の忘却者に殺させよう、
というものでした」
「……」
「そしてあわよくば、《未来》の忘却者も殺してしまえ、とのこと」
「……」
「確かに《繋がり》の忘却者はとても強く、大変便利です。ですが、リスクが大きすぎる。上は《繋がり》の忘却者の力を持て余すことに恐怖を抱いています。だから、これを機に殺そうとしました。ですが、結果はとても残念なものになりました」
福良は、郁斗の目を直視した。
「もう一度、問いましょう」
お前には逃げ場はない、と言っているようだった。
「どう、責任をとりますか?」
「……」
「あぁ、それと星歌ですが、星歌には責任の取りようがありません。あの少女は生きているようで、死んでいますからね」
――生きているようで、死んでいる?
ぎり、と奥歯が軋んだ。
確かにあの少女は生きていく上で、必要なものが欠如している。誰かの助けなしでは生きてはいけない。けれど、
「星歌のこと、そう言う風に言うのは止めてくれませんか?」
「……ほう?」
「星歌は、あれでもがんばって生きようとしています。死を選ばず、苦難に耐えながら、真っ直ぐに生きようとしています。その生き方をあなたが馬鹿にする権利も権限もありません」
「いっくんに賛同しまーす」
今まで座視していた幸明がこれ見よがしに手を挙げる。
「それと、いっくんにも変なこと言うと、いくら《協会》のお偉いさんでも俺は許すつもりはないから、そのつもりで」
分が悪いと悟ったのだろう。
「言いすぎました」
ごほん、と咳払いをして、す、と再び郁斗に問う。
「それでどうします? 責任、とりますか」
「はい」
郁斗は、即答した。痛む体を何とか起こして、はっきりと言い放つ。
「僕が、全力を尽くして、《未来》の忘却者を捕まえます」
「……さすが、です」
くく、と福良は喉で嗤う。
「もちろん、我々も力を貸しましょう。何しろ相手は〝気狂い〟となった忘却者です。いくらあなたでも荷が重すぎるでしょう」
「ありがとうございます」
「それと、星歌の力を借りようなどとは思わないでください」
「……」
「彼女はとても危険な存在です。戦場などには出しません。今後、このようなことが起きないように厳重に管理しなければいけないので」
「わかっています」
その言葉に満足したのだろう。福良は立ち上がる。
「今、〝気狂い〟の捜索を始めています。発見次第、確保にかかるので、それまでは体を休めておいてください」
「はい」
「では、失礼します」
福良はこちらを一度も見ずに、去っていった。
福良が去っていく背中をじ、と見送り、彼が退室するぱたん、という音を聞くと同時に郁斗はまた背中をベッドへと戻した。ばすん、と体が跳ねる。その衝動が全身に響いて、酷く傷口が痛んだ。
幸明は、何も言わない。
郁斗も、しばらく口を閉ざしていた。
部屋の中は、しん、と静まり返っている。ベッドから外を見れば、晴れ渡った空が近かった。どうやらこの部屋は高層ホテルでも、かなり高い位置にある一室のようだった。
「幸さん」
「んー?」
郁斗が口を開けば、いつも通りの間抜けな返事が返ってくる。
「何で、こんなことになったんでしょうね?」
「さぁ、何でかねー?」
「僕が、星歌と出会ったからですか?」
「どうだろうねー?」
「それとも、僕が《未来》の忘却者の任命を受けたからですか?」
「それもどうだろうねー?」
「ねぇ、幸明さん」
「んー?」
「僕と、星歌は、何なんですか?」
返事は、なかった。
「〝異形〟が生まれた経緯はわかりました。けれど、その経緯が細かくこんな短い時間で解明されているってことは、前例があったからですよね? 前にも一度起きているから、対応も分析も速かった。それに福良さんの口ぶりも、ね」
「んんー……」




