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/4 青春の階段

「補習…何とか…なったな」

「…ああ」

真夏の一番暑い時間帯を、幽鬼のようにフラフラと彷徨い歩いて行く二人組。

そのうちの一人、里崎が顔を上げ、

「夏休み一日目から補習と聞いて、地獄に堕ちた気分だったが、二日で終わらせてやった。そうだ――」

その言葉を引き継ぎ新山が叫ぶ。

「俺達の青春は、終わらない!!」

「―――そもそも始まってないのじゃないかしら?」

「!?」

男の魂の叫びに割り込んだ声に二人は振り返る。

そこには日傘を差した女子高生が冷めた目で立っていた。

「あ、あ、…安西!?」

「ぶ、ぶ、部長!?」

そして、二人はそれぞれ声の主の名と役職を叫ぶ。

「紛れもなく、同じ2-Aのクラスメイト、安西小枝子です。あと里崎君、部長じゃなくて同好会なのでどちらかと言えば会長よ」

「え、えっと…じゃ、安西会長…奇遇ですね。それじゃ!」

しどろもどろになりながら里崎は背を向け逃げ出そうとする。

「あら、怪異研究同好会の会員でありながら、この私から逃げるのかしら?」

その言葉に、背を向けた状態でピタりと立ち止まる。

「あれ?里崎、お前まだあの同好会に入ってたの?」

新山の言葉に、顔面蒼白になった里崎は小声で答えた。

「入部後、三日で退部届出しに行ったら却下されたんだよ…」

「あら?うちの同好会は一度入れば、抜け出せないという学校七不思議に数えられているのを、怪異研究同好会の一員のくせに知らなかったの?」

「怪異でも何でもねぇじゃねぇかよ!!」

思わず突っ込む新山。

「では新山君、聞くけど怪異って何だと思う?」

「え?そりゃ、独りでに鳴る音楽室のピアノとか階段が一段増えて一三段になるとかよくわからないアレだろ」

新山の言葉に安西は頷く、その仕草に合わせて日傘も揺れる。

「そうね、何故ソレが起きるかわからない物を人は怪異と呼ぶのよ…つまりうちの同好会から何故か抜けられないのも怪異の一つ」

「お前の所為じゃねぇか!!」

再び突っ込む新山。そして、その横で震える里崎に言う。

「里崎、お前も何とか言ってやれよ」

「い、いや…まったくもってその通りです…会長」

「裏切ったな!」

憤慨する新山に里崎は再び小声で言う。

「新山。会長に盾つかない方がいい。過去に会長に手を出した野郎はすべて不幸な出来事に巻き込まれてる」

「何だそれ…」

「例えば、自販機でおつりが出ない。外を歩けば鳥のフンが降ってくる、犬のフンを踏む、電車の扉は必ず目の前で閉まる等」

「うわぁ…何その地味に嫌なイベント」

「そんなことより、里崎君。青春が何とか言ってたけれど」

「え?ああ、この夏休みは俺達の青春の為に遊びまくる予定なんですよ」

里崎は何とか顔面蒼白状態から夏休み特有のノリによって少し回復する。

相変わらずテンションの高い新山も叫ぶように言った。

「そうとも!花火、夏祭り、海等、盛りだくさん!!」

「新山君、それは無理よ」

新山の「盛りだく、」ぐらいで食い気味に否定する安西。

「どういうことだ?」

怪訝な顔をして安西を見る新山。

大きな日傘で表情は見えないが、何処となく嫌な予感がしたのか息を呑む二人。

「何故なら、里崎君は我が同好会の合宿に出てもらうから」

「―――――はああああ!?聞いてねぇぇぇぇぇ!?」

安西の言葉に里崎が大声を出して叫ぶ。

「言うの忘れていたから。ほら、これしおり」

そう言って、カバンからA4のプリント紙を取り出し里崎に渡す。

受け取った里崎はその紙に目を通し、読み上げる。

「怪異研究同好会合宿のお知らせ、七月二五日~八月三〇日まで」

「夏休みほぼ全部じゃねぇか!!!」

「安心して。合宿費は交通費のみだから」

「そうじゃねぇよ!」

「新山君、部外者の貴方が何か文句でも?」

新山は、プリント紙を掴んだまま固まっている里崎を庇うように安西と里崎の間に立つ。

「―――里崎は、俺と一緒に青春への階段を登るんだよ!こんな得体の知れない合宿になんて行かせられるか!!」

「そう。残念ね、合宿にはうちの同好会の美人達も参加するのに」

「な、ん、だ、と?」

驚愕の表情を作る新山。そして、里崎の方を向き

「本当なのか?美人達って言うのは」

「え?ああ、美人って言えば、美人だけど…」

「馬鹿野郎!!!!俺達の青春の階段の第一歩はこんな近場にあったじゃねぇか!!」

「いや、その階段明らかに処刑台の階段だってば――――」

里崎の呟きが聞こえないのか新山は安西の方へ近づいていき胸を張り、告げた。

「里崎を連れて行きたければ、俺も連れて行け!俺達は一心同体だ!!」

「――――そう、別に構わないわ」

そして、新山にも合宿のしおりを渡した。

「おっしゃ。里崎、合宿の用意だ!行くぜ!!」

テンションのゲージが上へと吹っ切れてしまった新山は、逆にテンションのゲージが下に突き抜けてしまった里崎を引き連れ行ってしまう。

その二人の姿を眺めながら安西が呟いた。

「これで貴方も、怪異研究同好会会員」

風が吹き、日傘に隠れていた表情が露わになる。


その口元は弧を描いていた。

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