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語部

 どうも、はじめまして。

 なんて挨拶をすると、私が主人公であると勘違いする方が多いのではないでしょうか。

 残念ながら、そうではないのです。


 私は語り部。

 彼女の、つまりは主人公の運命をただ淡々と語るだけの存在。だから私が皆さんと直接お話できるのはこれが最初で最後だと思います。だって語り部ですから。

 いったいどうしてこのような場が与えられてしまったのか、私にはまったく分かりません。いえ、少しくらいは分かるのですが、それを言葉にするのは野暮というものなので、割愛いたしましょう。

 しかし、私が分かるのは私が分かる所だけ。それ以上のことはやっぱり分かりません。与えられた台本を読んでいくだけの、いうなればニュースキャスターみたいな役目の私に、どうしてこのような自由な場所が与えられたのでしょう。本物のニュースキャスターと違ってプロ野球選手と結婚もできないのに。

 しかしまぁ折角自由な時間が与えられたのです。使い道が分からないということは、きっと何に使っても構わないということなのでしょう。そう信じましょう。

 例えそうでなかったとしても、姿形のない私を叱ることなんて誰にもできたものではありません。だからこれは本当の自由なのです。非常に素晴らしいことですね。

 しかしまぁ本当の自由も持て余していたのでは宝の持ち腐れです。折角私の考えを伝えられる場所なのですから、これから皆さんにお伝えする物語の話でもいたしましょう。


 時代背景のお話をいたしますと、これを読んで下さっている皆さんの時代よりも少し先の未来ということになるのでしょう。そうですね、21世紀中盤くらいと思って頂ければおおおよそ間違いはございません。

 残念ながら世は平和とは申しがたい有り様でありまして、進歩に進歩を重ねた科学の結果で起きた戦争に世の中は疲弊しておりました。

 日本は第三次世界大戦に勝利を収めまして、戦争好景気の真っ只中にございました。多国籍企業が増え、今や世界は日本なしでは成り立たないというほどに日本は力をつけておりました。それなのにも関わらず、何故に日本がに疲弊していってしまったのかと申しますと、それは日本の科学者が生んだとんでもない技術のせいでありました。

 人間の脳はたったの10パーセントしか使えていないとかねがね噂されておりまして、もしも100パーセント使えるようになったらどうなるだろうか、というのがその科学者の研究内容でありました。

 そんなことできるわけなかろうと学会でコケにされ、自らの部下にも呆れられ、ひいては家族にまで見切りを付けられてしまったというまさに全てを投げ打っての研究。それらは何度もドキュメンタリーとなり、努力はみのるというような見出しで幾度となく放送されたので、恐らく日本国民で彼の研究生活を知らない者はおりません。

 それがどうなったかと申しますと、もちろんドキュメンタリーとなるくらいですから成功した訳なのですが、問題は脳を100パーセント使えるようになった人間がどのような存在かということです。

 実験の験体となったのは男女二名ずつの計四名。そのどれもが脳の真の機能を発現。それらは俗に言う神の業でありました。

 一人は火を噴き、一人は空を飛び、一人は石を砕き、一人は人の心を操る。そのどれもが科学者の期待以上でした。

 神の業は、瞬く間に世界中に広がりました。日本の科学者がとんでもないことをやってしまった。そんなニュースに世界中が沸きました。

 それらの能力について科学者は「これは開発によって手に入れるものではなく、自らの頭の中に元からあるもの。つまりは『自我』そのものである」と説きました。

 つまりはこの能力は自分ということ。それを人は『哲学』と呼び、崇拝いたしました。

 しかし問題はそこからでありました。『哲学』を手に入れる人が増えるにつれて、治安が悪くなったのです。

 哲学で暴れるものを止めるのは酷く難しいことでありまして、それらは国際的な問題にまで発展しかねませんでした。

 そして政府は哲学を止めるには哲学しかないと強力な哲学を持った組織的な部隊を発足。それが全ての始まりたる「哲学兵隊」こと『フィロソファーズ』でございます。

 圧倒的な戦闘力、組織力。それらは明らかに軍隊でした。日本は憲法の隙間をかいくぐり、自衛隊を保有して参りましたが、こればかりは釈明の余地がございません。

 世論はフィロソファーズの賛否で真っ二つに割れ、政府には治安を取るか、憲法を取るかの重大な選択が迫られました。

 結果、政府は治安を取りまして平和憲法こと第9条を改正。『フィロソファーズ』を正式な軍隊として発足させたのでございます。

 割れた世論の憲法信仰派。つまりはフィロソファーズ否定派はこれに絶望いたしまして、治安がよくなりはじめ、より快適な理想国へと向かい始めた日本を離れる国民も現れました。

 しかし、日本に残った否定派はこの日本を変えようと決起いたしまして事実上の革命軍、フィロソファーズに相対しまして「チェンジャーズ」として過激な政府批判を行っていくわけであります。

 この物語の主人公たる彼女はその時代に生まれました。度重なる内乱の最中に生まれ落ち、過酷な運命を背負い、生きて参ります。

 

 いやはや、駄文を書き連ねお耳汚しならぬおめめ汚しをして申し訳ございませんでした。

 そうこうしている間に時間が迫ってきております。自由な時間も彼女に捧げてしまいましたが、それもまた語り部としては本望なことでございましょう。むしろそれでこそ語り部でございましょう。

 物語は彼女が16歳の春。

難関フィロソファーズ直属兵士学校の入学式直前より始まります。


 どうか、彼女に幸あらんことを。

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