放課後のハント
「リュート」
王子の声がして、あわてて本を棚に戻す。
「はぁい。」
ちょっと間抜けな返事をして、本の森から出ると、
「・・・」
どう反応していいのか分からない。
そこには、ファルとミュンランとサイアがいた。
「三人が、リュートと話してみたいって言うから。」
王子のやさしい声に、頭が真っ白になった。
あたしは、いつも弱い。
見知らぬ人に出会うと、愛想笑いしかできなくなる。
体中を点検されているみたいな不快感。異国からの人間だという居心地の悪さ。そして、売られたという事実、帰りたいという本心を見抜かれてしまいそうで。
売られたからって何が悪いんだ。と、開き直ることもできる。
でも、それは何の解決にもならない。
売られたということで世間の目が痛くなることは確かだし、汚れたようなものを見るような目でしかあたしを見てくれなくなる人だっている。
幸い、和の国は髪が黒か茶のことが多い。ひょっとしたら、黒域の人間だと思われるかもしれない。
「リュート、だいじょうぶだよ。」
そっと背中を押してくれる王子の手が暖かい。
王子は、あたしのこの思いを”人見知り”としてとらえている。でも、王子にいくら優しくされたところで、この思いが消えるわけではない。
所詮、あたしは異国から売られた娘なのだから。
「暗黒の森にいくんでしょう。」
「お勤め御苦労さま。」
ファルとミュンランが交互に言う。
説明してなかったかもしれないけど、暗黒の森は危険だから、入れるのは黒域で高い悪夢狩りの技術を取得している人だけなんだ。
あたしは黒域の人間ではないけど、王子と一緒にいるならということで入ることを許可されている。
「いつもレントから話を聞いてるんだ。」
「今度は、お茶会でもしましょうね。」
ファルとミュンランはよほど仲がいいのだろう、いつも交互にしゃべっている。そして、それに違和感が全くない。
ニコッと、うまく笑えているかあまり自信のない笑顔を返した。
外へ出て、王子の後ろに乗って暗黒の森へ行く。
相変わらず、王子はあたしを下ろす時に怖がらせようとする。
「王子、いい加減にしてください!」
と怒ってみるも、
「はいはい。」
暖簾に腕押し状態。
気を取り直して、網を構えて森へと入る。
「・・・・」
息を殺して、悪夢が出てくるのを待つ。
シュッと、悪夢が移動する音を聞きつければ、素早くそちらに走って行って捕獲。
幾度となく繰り返した作業だけれど、なんとなく今日はいつもより手ごたえが少ない。
「王子・・・」
「ああ、ちょっとおかしいな。」
悪夢が、少ないような気がする。
もちろん、たくさん捕まえた。けれど、昨日の様子じゃ、もっともっと捕まえられるはずだったのに・・・。
それに、捕まえられる悪夢がすべて小さいのも、気になる。昨日はもっと大きいのがうろちょろしてたし、一日たっているんだから昨日よりは大きくなっていないとおかしい。
「父さんに相談しよう。今日は下手なことをしないほうがいい、帰ろうか。」
王子の一言で、今日はそのまま帰った。