不思議な学校
「もうすぐ着くよ。」
王子の声で、はっと我に返る。
地上の景色に見とれていて、今ここがどこだか忘れていた。
「はい、下りまーす。」
なんだか楽しそうな王子の声とともに、箒が急降下する。
「・・・・。」
ゾワゾワゾワッと、内臓が浮くような不快感が押し寄せる。気持ちが悪くて、鳥肌が立つ。
まったく、いつになってもこれだけは慣れない。
「フフッ」
ようやく地に足がつき、ホッと胸をなでおろしていると、隣から王子の笑い声が聞こえる。
「いい加減、慣れなよ。」
「無理!」
即答した。
絶対からかったな。王子の性悪め。
王子に怒りながらも、キョロキョロとあたりを見回す。
初めての、学校。すべてが新しくて、なんとなく落ち着かな。聞いたところによると、たくさんの子供が、たくさんの部屋で、みんな一斉に勉強しているらしい。
自分だったら出来ないな、と思う。あたしの国にも学校と呼ばれるものがあったが、そんなところで勉強するくらいなら、働きに行っていた。
「ここはまだ校門だからね。向こうまで歩くよ。」
王子が、80mほど先を指さす。
なるほど、隣を追い越していく生徒のほとんどが、王子の指さした場所に向かって行っている。
「あれ、入口ですか?」
あたしが聞くと、
「そう。俺らは昇降口っていってるけど。」
と、王子は笑いながら答えてくれた。
生徒たちの甲高い笑い声を聞きながら、昇降口までのみちを二人で歩く。
二人とも黙ったままでいると、
「レントー!」
という声が聞こえた。
振り返ってみると、手をぶんぶんと振っている、白髪の女の子。その後ろには、金髪の女の子と赤髪の男の子がいた。
なんだか、違和感。いつもはあたしだって、王子と呼んでいる。学校には、王子を名前で呼べる人がいるのか。違和感と驚きが入り混じって、なんとなく微妙な気持ちになった。
とにかく、あれは誰だろうと首をかしげていると、
「クラスメートだよ。」
と王子が教えてくれた。
「あの白髪がファル。金髪がミュンランで、赤いのはサイア。みんな、色域の姫や王子なんだよ。」
「ほうほう。」
たしかに、みんなの制服には七色王家の紋章が入っている。もちろん、王子にも。七色は髪の色で出身域がわかるから、ファルは白域、ミュンランは黄域、サイアは赤域なのだろう。
一人でうんうんと唸っているうちに、三人があたしたちの元へ来た。
「レント、この人だれ?」
無邪気に聞くファルに、
「失礼でしょ。」
とたしなめたのはミュンラン。
ちょっと後ろのほうで、怪訝そうにあたしを見ているのはサイアだ。
「はじめまして、リュートと言います。レント王子の世話係をしております。」
とりあえず、当たり障りのない言葉で自己紹介をした。
ファルは、瞳をキラキラさせて、
「はじめまして!」
と言ってくれた。ミュンランは握手を求めてきて、サイアは無言で会釈。
なんだか、個性豊かな人たちだ。
「さ、行こう。」
王子の一言で、四人が歩き出す。あたしも置いていかれないように、あわててついていった。
教室、という部屋の前で分かれた王子は、そのままあたしを図書室へ連れていく。
「ここで待っててね。終わったら、迎えにくるよ。」
城の図書室よりは小さく、本も少ない学校の図書室。けれど、なにもしないで待つよりはずっといい。
カウンターに座っていた小人に一礼して、あたしは本を漁り始めた。