バタバタな朝
「王子ー!!」
ノックもせずにドアを開ける。
「朝ですよ、起きてください。」
気持ち良さそうにベッドで寝ている王子を、これでもかと揺さぶる。
「ほら!王子!!」
「ん~、まだ。」
「王子!!」
いつもは完ぺきな王子だけど、朝だけは弱いのだ。だから、この王子を起こすのが、あたしの仕事。簡単に見えて、なかなか骨が折れる。
「もう!」
いつまでたっても起きないので、カーテンを開けて部屋を明るくする。
散らかった衣類をかき集めて、散乱している教科書なんかもまとめてあげる。王子は、片付けも苦手なのだ。
「王子・・・・って、王子!?」
ふと、教科書に挟まっていたプリントを見て、驚愕する。
「召喚魔法のテスト!これ、今日じゃないですか!!」
バンバンと王子をたたくと、やっと目をこすりながら起きてくれた。
「ほら、テスト!」
怒鳴ると、
「ん、ああ。そうだよ。」
「はぁ!?」
昨日悪夢狩りの計画、たてたのに?いや、大した計画でもないけど・・・。
「ん、えとね。」
一人で思考をぐるぐるさせていると、
「悪夢狩りは、お昼から行こう。今日はテストだから、学校が昼までなんだ。」
ふんふんとうなずく。わかっているようで、実は分かっていないが、
「でも、それだったら、悪夢は全部捕まえられないですよ。」
意見をしてみる。
昨日狩りに行ったから、あの悪夢は半日で狩り終わる量ではないことがわかる。それほどまでに、悪夢は増えているし、一日置いたことでまた増えているだろう。そして、昨日の計画では今日で狩り終わる予定だったんだ。
「うん。だから、何日かかけて頑張ろうか。」
「ええええ。」
バフッと、ベッドに突っ伏す。
「一日で終わると思ってたのにぃ。」
「頑張れ。」
今の今までベッドでぐずぐずしていたくせに、いざ起き上がるとビシッとした王子モードに切り替わる王子。すごいとは思うけど、今ばっかりは憎らしい。
「何日もあんなところいたくない。」
ぐずるあたしをよそに、王子は着々と着替えている。
「あそこ、たまにゾワッてするもん。なんか、嫌な感じするもん。」
ベッドに顔を伏せたまま、ぶつぶつ言っていると、頭に温かい掌がのった。
「じゃ、俺だけで行こうか。」
「いや。」
ガバッと顔をあげて、制服に着替えた王子を見る。
「ちゃんと着いていきますから、まずはご飯にしましょう。」
今までぐずぐずしてたくせに、と今度は自分に思う。
けれど、王子にはちゃんと着いていかないと無理をするから心配なんだ。それに、きっと自分だけで行くって言ってもあたしがついてくることを知っていて、王子はあんなことを言ったんだと思う。
「なんか・・・ずるい。」
「へ?」
「いいえ、なんでも。」
聞かれなくてよかった。
さて、大変なのはこれからだった。王子が急に、
「リュートも連れて行く。」
と言いだした。
なんと、昼までで学校が終わるから、そのままあの暗黒の森へ行くつもりらしい。ということで、一緒に狩りをするなら、リュートも学校へおいでよ、ということになった。王子がテストを受けている間、あたしは図書室にいればいいらしい。
となると、
「コック長、お弁当二つ!あ、女中さん!洗濯物、お願いします。」
などと、あたしが走り回るハメになった。
お昼ご飯はともかく、洗濯は朝自分でしようとおもっていたのに。昨日の狩りで葉っぱもいっぱいくっついていて、穴もいくつかあいてしまったから、繕い物もしなくちゃいけないのに。
「王子!」
なんとか準備も終わり、王子の部屋行く。
「お疲れ様、乗って。」
全開にした大きな窓の前で微笑む王子は、箒にのって少し浮いている。
「はい!」
魔法が使えないあたしは、どこか遠くに行くときはいつも王子の後ろに乗せてもらう。
ふらふらと空中を漂う王子の後ろに横座りになると、箒は一気に前へ進んだ。耳元で鳴る、風を切る音がちょっと冷たい。
「学校か・・・。」
まだ、学校というものを知らないあたし。
なにが待っているのか、わくわくする。でも、その一方で不安でもあった。