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無能なおじさん、異世界で魔王になっていたんだけど?!

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/05/15


「すまないねぇ。サイト―君。だけど、僕はどうやら魔王の孫だったみたいで」


 会社でいつもコピーとか、電話番ばかりしているおじさんがいた。

 周りの人は、無能、窓際族っておじさんのことを影で読んでいたけど、私はそう思わなかった。 

 コピーはいつも正確で、閉じ方も綺麗。電話のメモの取り方も丁寧で、二度手間にならない。

 一度おじさんが休んだ時、コピーを取ってもらったら、なんか適当で、電話もかけてきた人の番号すら間違っていて、大変だった。

 そのおじさん、明日退職だというのに、無断欠勤した。

 家族がいなくて、電話しても誰も出なかった。

 まあ、明日は来るだろうと誰も心配しなかった。

 だけど、私は、鈴木さんはいつも真面目で、無断欠勤なんてしないって知っていたから、住所を教えてもらって訪ねて行った。

 ほら、家で倒れている可能性があるじゃない?

 そんで、アパートに行ったら、扉が急に開いて引きずられた。

 鈴木さんがそんなことするわけないって思ったけど、彼の部屋だから、あり得ると悲鳴をあげたけど、すぐに止めた。

 足を踏み入れた彼のアパートの部屋は、別世界になっていた。

 異世界ものを読んでいる私には、それが異世界召喚の場所であることに気が付いた。


 勇者様と呼ばれ、魔王退治を頼まれた。

 魔法も使えるようになっていて、楽しまなくきゃソンだと思って引き受けた。

 だって、私の設定いわゆるチートだった。

 剣も魔法も最強。

 死ぬわけない。

 そうして魔王城まで進み続けた。ちなみに仲間はいない。

 まあ、私が強いからいいんだけど。

 なんかちょっと寂しいとは思った。

 創造魔法みたいなのも使えてベッド、家、なんでも作ることができた。

 消すのもの簡単だ。

 そうして、旅すること一か月、私はやっと魔王城にたどり着いた。

 

 そして、出てきた魔王が鈴木さんだった。


「鈴木さん、ですよね?」

「うん」


 鈴木さんはちょっと若返っていた。

 多分、四十歳くらい?

 なんていうか、……好みの渋さがあって、ちょっとドキドキした。

 けだるそうなところとか、色気あるよねぇ。


「なんで魔王してるんですか?!」


 鈴木さんは四十歳くらいに若返っていたけど、角を生やしていて、翼もあった。


「どうやら、僕、魔王の孫だったみたいなんだよね。おじいちゃんである魔王が死んで、僕が呼ばれたみたい」

「……ってことは、私が呼ばれたのも、」

「多分、サイト―君は勇者の孫?」

「ひえ~信じられない。だって、うちのじいちゃん、普通……。あ、そういえばお母さん側のおじいちゃんには会ったことなかった」

「サイト―君。魔族に頼まれてしまったんだよ。どうか死んでくれないかな」

「いや、いやですよ」


 なんてこと言うんですか。鈴木さん!


「そうだよねぇ。だったら」

「あ、あの、私が魔族側についたらどうなりますか?」

「え?どういうこと?」

「鈴木さん、私をお嫁さんにしてください」

「え?サイト―君?」

「今の鈴木さん、めっちゃ好みです。ぶっちゃけ、勇者になったのもチートをつかってヒャッホーしたかっただけですから」

「サイト―君。それはあまりにも酷いよ。君に思いを託した人間たちを見捨てるかい?」

「そう言われると……。鈴木さんは人間を滅ぼしたいのですか?」

「そんなことはないよ。ただ魔族を滅ぼそうとしないでほしいんだよ。魔界に入ってこないようにしてほしい」

「じゃあ、その協定を結びましょう。破ったやつは私がやっつけます!」


 今の私は無敵。

 最強の勇者様だからね。

 異世界万歳!


「そ、そう?君がそう言うなら。あの魔族のみんな、それでいいかな?」

「わたし、鈴木さん、えっと魔王に惚れてしました。人間ですが、魔族の皆さんに不利なことはしません。命に代えても誓います!」


 胸を叩いてそう言うと、魔族側は納得してくれた、みたいだ。


「じゃあ、協定の書類作ろうか」

「はい!」


 鈴木さんは眼鏡を付ける。

 白髪だったのに、若返った鈴木さんは黒髪。

 しかもさらさら。

 カッコいい、渋い。

 眼鏡がなんて、色気を増幅させている。


「サイト―君?」

「あ、サインですね。サイン。します!」


 そうして魔王鈴木さんと私勇者によって、平和協定が結ばれた。


「私が魔族の平和を守ります。あなたの妻として」

「え?サイト―君?」

「エリナって呼んでください」

「いやいやいや」


 結局私は、元の世界に戻らなかった。

 っていうか戻り方も知らない。

 恋愛脳、馬鹿だなあと思いつつ、渋い鈴木魔王と楽しく過ごしたかったのだ。


「早く、結婚したい」

「サイト―君。それは諦めてくれないか」

「なぜですか?っていうかエリナって呼んでください」


 私は勇者だけど、人間。

 鈴木さんは魔王。

 どうか私が生きている間に結婚してくれますように。


(おしまい)

 

 



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