無能なおじさん、異世界で魔王になっていたんだけど?!
「すまないねぇ。サイト―君。だけど、僕はどうやら魔王の孫だったみたいで」
会社でいつもコピーとか、電話番ばかりしているおじさんがいた。
周りの人は、無能、窓際族っておじさんのことを影で読んでいたけど、私はそう思わなかった。
コピーはいつも正確で、閉じ方も綺麗。電話のメモの取り方も丁寧で、二度手間にならない。
一度おじさんが休んだ時、コピーを取ってもらったら、なんか適当で、電話もかけてきた人の番号すら間違っていて、大変だった。
そのおじさん、明日退職だというのに、無断欠勤した。
家族がいなくて、電話しても誰も出なかった。
まあ、明日は来るだろうと誰も心配しなかった。
だけど、私は、鈴木さんはいつも真面目で、無断欠勤なんてしないって知っていたから、住所を教えてもらって訪ねて行った。
ほら、家で倒れている可能性があるじゃない?
そんで、アパートに行ったら、扉が急に開いて引きずられた。
鈴木さんがそんなことするわけないって思ったけど、彼の部屋だから、あり得ると悲鳴をあげたけど、すぐに止めた。
足を踏み入れた彼のアパートの部屋は、別世界になっていた。
異世界ものを読んでいる私には、それが異世界召喚の場所であることに気が付いた。
勇者様と呼ばれ、魔王退治を頼まれた。
魔法も使えるようになっていて、楽しまなくきゃソンだと思って引き受けた。
だって、私の設定いわゆるチートだった。
剣も魔法も最強。
死ぬわけない。
そうして魔王城まで進み続けた。ちなみに仲間はいない。
まあ、私が強いからいいんだけど。
なんかちょっと寂しいとは思った。
創造魔法みたいなのも使えてベッド、家、なんでも作ることができた。
消すのもの簡単だ。
そうして、旅すること一か月、私はやっと魔王城にたどり着いた。
そして、出てきた魔王が鈴木さんだった。
「鈴木さん、ですよね?」
「うん」
鈴木さんはちょっと若返っていた。
多分、四十歳くらい?
なんていうか、……好みの渋さがあって、ちょっとドキドキした。
けだるそうなところとか、色気あるよねぇ。
「なんで魔王してるんですか?!」
鈴木さんは四十歳くらいに若返っていたけど、角を生やしていて、翼もあった。
「どうやら、僕、魔王の孫だったみたいなんだよね。おじいちゃんである魔王が死んで、僕が呼ばれたみたい」
「……ってことは、私が呼ばれたのも、」
「多分、サイト―君は勇者の孫?」
「ひえ~信じられない。だって、うちのじいちゃん、普通……。あ、そういえばお母さん側のおじいちゃんには会ったことなかった」
「サイト―君。魔族に頼まれてしまったんだよ。どうか死んでくれないかな」
「いや、いやですよ」
なんてこと言うんですか。鈴木さん!
「そうだよねぇ。だったら」
「あ、あの、私が魔族側についたらどうなりますか?」
「え?どういうこと?」
「鈴木さん、私をお嫁さんにしてください」
「え?サイト―君?」
「今の鈴木さん、めっちゃ好みです。ぶっちゃけ、勇者になったのもチートをつかってヒャッホーしたかっただけですから」
「サイト―君。それはあまりにも酷いよ。君に思いを託した人間たちを見捨てるかい?」
「そう言われると……。鈴木さんは人間を滅ぼしたいのですか?」
「そんなことはないよ。ただ魔族を滅ぼそうとしないでほしいんだよ。魔界に入ってこないようにしてほしい」
「じゃあ、その協定を結びましょう。破ったやつは私がやっつけます!」
今の私は無敵。
最強の勇者様だからね。
異世界万歳!
「そ、そう?君がそう言うなら。あの魔族のみんな、それでいいかな?」
「わたし、鈴木さん、えっと魔王に惚れてしました。人間ですが、魔族の皆さんに不利なことはしません。命に代えても誓います!」
胸を叩いてそう言うと、魔族側は納得してくれた、みたいだ。
「じゃあ、協定の書類作ろうか」
「はい!」
鈴木さんは眼鏡を付ける。
白髪だったのに、若返った鈴木さんは黒髪。
しかもさらさら。
カッコいい、渋い。
眼鏡がなんて、色気を増幅させている。
「サイト―君?」
「あ、サインですね。サイン。します!」
そうして魔王鈴木さんと私勇者によって、平和協定が結ばれた。
「私が魔族の平和を守ります。あなたの妻として」
「え?サイト―君?」
「エリナって呼んでください」
「いやいやいや」
結局私は、元の世界に戻らなかった。
っていうか戻り方も知らない。
恋愛脳、馬鹿だなあと思いつつ、渋い鈴木魔王と楽しく過ごしたかったのだ。
「早く、結婚したい」
「サイト―君。それは諦めてくれないか」
「なぜですか?っていうかエリナって呼んでください」
私は勇者だけど、人間。
鈴木さんは魔王。
どうか私が生きている間に結婚してくれますように。
(おしまい)




