⑨ ただ一つの手段
立て続けに戦功を上げ、勢いに乗るジャンヌは、その日、イングランド軍の主力の拠点である、トゥーレル砦への攻撃を申し出た。
作戦会議では、援軍が来るまで待とうという、またしても消極的な結論が出されたが、彼女はその決定を曲げて仲間と共に出撃した。
真田姉妹からの、陰ながらのアシストもあり、その日も順調に進軍していたが、なんと、ジャンヌの首を、矢がかすめてしまったのだ。
かすり傷とは言うものの、場所が首だけに、割りと派手に流血した。彼女は首を押さえながら、一旦馬で引き帰し、他の者たちには、自分に構わず、進軍するように伝えた。彼女はただ、今の勢いを維持したかったのだ。
自軍のテントに戻ると、ジャンヌ・ダルクは寝具にへたり込んだ。
そこへ大天使ミカエル(雪子)がやって来て、言った。
「ごめんなさい。私の失態です。アナタだけを見ていれば良かったのに…アナタの戦友たちの事も、ふと気になって一瞬よそ見をしたから、こんな事に…。」
そう言いながらも、コレも歴史に定められた事だと、雪子は知っていた。
「いいのです。ここまで私の事を守って下さって、むしろ感謝しています。」
と健気に答える、17歳の少女ジャンヌ。
「ただ、オルレアンの完全解放まで、あと一歩のところなのです。今一度、大天使様にチカラを貸して頂けたら、私の命など、その後どうなっても構いません。」
「その言葉が本当なら、一つだけ、怪我人のアナタの身に、奇跡を起こす手段が、私には有ります。」
雪子はそう言うと、こんな事もあろうかと、ポケットに隠し持っていた、例の欠片を取り出した。
「アナタが、一度コレを口にすれば、そんなかすり傷など、一瞬で治癒できます。」
「…それでは、是非ソレを私に…。」
「ですが、同時にそれは、不老不死のカラダに成る事を意味します…この意味、理解出来ますか?」
「それって…?」
「アナタも私と同様に、今からヒトでは無くなるという事なのです。」
「…。」
「怪我も病気も怖くない。しかし、年もとらない。そんな不自然な者は、もう、家族とともに暮らせません。かく言うこの私は、好きでそうなったのですが、僅か17歳のアナタに、ソレを強いるのは、流石に躊躇います。」
「いいんです!ソレを下さい。私の望む事はただ一つ。フランス王家の復権です。」
「ソレは元々、私がアナタに命じた事なのでは?」
「いえ、そもそもソレは、私の…我が家、我が村全体の願いでもあったのです。でも非力な私は、神に祈るしかなかった。そこへ、アナタ方三人の天使様たちが現れた…。」
「…私は天使じゃなくて、魔女かも知れないのよ?」
「それでも、アナタは、ここまで私たちを支えて下さった…。」
「良く分かったわ。じゃあ、口を開けて。」
ジャンヌは素直にそうした。
雪子は彼女の口に人魚の干し肉の欠片を入れた。
「さあ、良く噛んで飲み込むのよ。アナタは本当に、素直で純粋な心を持つ良い娘ね。アナタこそ、大天使の名に相応しいのかも…。」
すると、ジャンヌの首の傷は見る見る塞がり、何の跡形も無くなってしまった。表面の血のりを拭いたら、すっかりキレイになってしまったのだ。




