⑤ ジャンヌ・ダルク
雪子の銀色のビートルは、無事に時空転位を終えて、現場の空中に出現した。
もちろん、光学迷彩は掛けたままである。
ところがその空にはもう、赤いビートルが浮遊していたのだった。何と、光学迷彩を解いている。
それには由理子と香子という、雪子の時空を超えた妹たちが、乗っていたのだった。
「アナタたち、そこで一体何をしてるのよ!」
思わず、運転席の窓を下げて叫ぶ雪子。
「いや、だってお姉ちゃんが…。」
由理子が何か言いかけたが、それを制して、香子が話に割り込む。
「…そうよ。私が頼んだのよ。目的は多分、雪子姉様と同じよ。アナタもきっと来ると思ってたわ。これで、伝説通りになったわね?」
ふと地上を見ると、自宅と畑の間の小道で、一人の少女がこちらを見上げている。
あれは、12歳か13歳くらいのジャンヌ・ダルクだ。
雪子も諦めてビートルの光学迷彩を解いた。
「…つまりこれから、ワタシたち三人で、彼女に、あの有名なセリフを言うのよね?」
念のために雪子に確認する香子。
「そうね。もう、こうなったからには、セリフを分担しましょう。」
雪子は、諦め顔でそう言った。
そしてその場で、三人はゴニョゴニョと相談し、以下のように分担して、その大切なセリフを、空中のビートルの車窓から、ジャンヌに伝えたのだ。
まず、赤い髪でメイド服の、由理子が言った。
「あなたが、フランスを救うのです。」
次に、黒いショートヘアーでメガネをかけた、ブルーのチェック柄のシャツを着た、香子が言った。
「シャルル王太子をランスに連れて行き、必ず戴冠させるのです。」
最後に茶色いロングヘアーで、冬物のセーラー服を着た雪子が言った。
「イングランド軍に包囲された、オルレアンを解放するのです。」
田舎の少女、ジャンヌ・ダルクは、突然現れた天上人たちの姿に驚き、道端で口をアングリとさせていた。
折しも、村の教会では鐘の音が鳴り響き、彼女たち三人と2台のビートルは、真昼の太陽を背にしたポジションに居た。
その光景は、さぞや神々しく見えた事だろう。
「ねえ、ちょっとコレ、大丈夫なの?いくら何でも刺激が強過ぎない?」
由理子が心配になって助手席の香子に言う。
「大丈夫よ。コレは、史実に基づいたセリフだから。そうよね、お姉様?」
香子は隣のクルマの雪子に言った。
「ええ、そのはずよ。三人の大天使からの御宣託。
人数も図ったようにピッタリ…。他の者に見られないウチに、取り敢えずここを、離脱しましょう。」
彼女の鶴の一声で、2台のビートルは、光学迷彩を掛け直し、急いでその場から離れたのだった。




