㉕ 真田家の長男
「もはやコレは、オマエの命だけでは償い切れない罪だ。同族全ての生命をもって償え!」
怒りの声の主は、真田家の長男、雪村だった。
いつもの柔和な顔の面影も無く、まるで鬼のような形相をしている。いや、目の錯覚だろうか。額から二本の角さえ生えて居るように見えた。
"怒髪天を突く"とは、正にこの事だった。
彼の心は、かつて無いほどの、怒りに満ちていた。
彼の中のリミッターのようなモノが、まさに今、外れようとしていた。
雪村はまず、雪子の胸に手を当てると、瞬時にそのキズを直してしまった。
「…は、ふっ。」
雪子が意識を取り戻す。だが大量の出血のせいで、ダメージから完全に回復出来たわけではない。
雪村は、彼女にコレ以上の危害が加えられないように、専用の結界を施した。
次にアラハバキ王をチカラで空中に吊り上げ、口と手が再生出来ないように、それぞれの切り口に、また結界を施した。
やがて彼は、両腕を左右に広げると、ゆっくりその辺りのモノを、かき集めるような仕草をした。
すると実際に、敵の軍勢の全ての人員が、彼等の王が居る空中に集められて行ったのだった。
やがて爬虫類族たちは、大きな一塊の玉のようになってしまった。きっと今ごろは、アラハバキ王が、その中心で、グチャグチャに押しつぶされて居る事であろう。
だが彼等は、不老不死なのだ、どんなに痛みを感じても、まだ命が尽きてはいまい。
雪村は、そろそろトドメを刺す事にした。
彼は空中の爬虫類の塊に向かって両腕を伸ばすと、パン!と一つ柏手を打った。
すると、その音と同時に、その大きな玉は、空中から跡形も無く消え去ってしまったのである。
辺りはまるで、何事も無かったかのように、すっかり静かになってしまった。
全てをやり遂げた雪村は、チカラ尽きたように、その場に座り込んだ。すぐ隣では、いまだに雪子が動けずに、横たわっている。
やがて、香子と由理子が駆け寄って来た。
ヘトヘトに消耗し、ボロボロになりながらも、ここに時空を超えた、真田家の四人の兄姉妹が、勢揃いしたのだった。
「ねえ、お兄ちゃん…。」
こんな時に口火を切るのは、決まって由理子である。
「最後のアレは、ナニをしたの?」
「ああ、アレかい?」
一度に数種類のチカラを、ほぼ同時に使った雪村は、肩で息をしながら答える…どうやら他者に対する回復系のチカラは、特に疲れるらしい。道理で、ミケーネの"大体何でも直す魔法"が、単純な構造の、無機物にしか使えない訳だ。
「…ヤツラを、ここから比較的近い、ブラックホールへ送ってやったのさ。名は、何といったかな…確かGaiaBH1だよ。わし座だったかな?1560光年ほど先にあるのさ。こんな事もあろうかと、下調べをしておいたんだ。」
「…そんな場所へ?」
「前に惑星大移動が出来たからね。あのチカラの使い方の応用編だよ。ヤツラはひと思いに死ぬ事も出来ずに、永遠に宇宙の奈落の底へ堕ち続けるのさ。どうだい、お似合いの地獄だろう?」
そう言いながら笑う雪村の顔には、未だ鬼の片鱗が垣間見えたのだった。
由理子には何だか、兄が別のイキモノに変わってしまったように、そら恐ろしく思えたのだった。




