⑳ 由理子とジャンヌ
翌日、ジャンヌ・ダルクの案内役は、いつものように由理子が買って出た。もちろん、杉浦鷹志と、彼の運転する、グリーンのビートルもセットである。
今回は、彼も乗り気だった。だって彼は、ジャンヌ・ダルクの大ファンなのだから。
だから今回由理子は、彼女を助手席に乗せて、自分は後席から、前に身を乗り出して、鷹志とジャンヌの間から顔を出し、解説するスタイルにした。
鷹志は、毎度お馴染みの手順で、クルマを地下駐車場から出し、光学迷彩を掛けて、直ちに垂直上昇した。
「あら、昨晩皆さんとお話した場所、あんなに素敵な塔の中でしたのね?」
眼下の、名護屋テレビ塔の姿に気づいた、ジャンヌが言う。
「サン・ジェルマンにも聞いたと思うけど、ここはキミの居た場所より、600年程先の未来なんだよ。」
と説明する鷹志。
「…600年…ですか?」
今更ながらに、その事実に圧倒されるジャンヌ。
「因みにアレは、名護屋テレビ塔。実は、西暦1889年に、パリに建てられた、エッフェル塔をお手本にして、造られたのよ。」
由理子が解説する。
「ああ、それも、ワタシからすれば、250年以上先の事なんですね?」
「…そう、なりますねえ。」
何と言って返したらイイのか迷う二人である。
「アナタは、精一杯闘ったわ…でも、あれから色々な事が起きたのよ。」
由理子が気を遣って、少し優しい声で言った。
「18世紀の終わりから19世紀の初めにかけて、フランスの絶対王政は、廃止になったの。私が謝っても仕方が無いけど、なんだかごめんなさい。」
「えっ!?それじゃあ、また、イングランドが?」
「ううん、そうじゃないのよ。イギリスにもまだ王室は有るけど、政治の実権は、一般市民の代表者が握っているのよ。フランスも同じなの。それどころか、世界中の多くの国が、今はそうなっているのよ。」
「そう…ですか。」
「アナタがあんなに必死に、フランス王室を守ってくれたのにね。」
「ええ、それだけが、生き甲斐のような生活でした。」
「でもね。あのシャルル7世は、アナタの身柄を引き取ろうとせずに、見殺しにしたのよ。だから、自業自得かもしれないわね。」
「そう…なんですね。」
ソレは彼女にとって悲しい事実だった。
「さあ、気分を変えていきましょう!」
鷹志が無理やり元気そうにする。
「あちらに見えますのが、名護屋城でございま〜す。」
由理子もカラ元気を出して言う。
「まあキレイ…ヨーロッパの国々のお城とは、随分違う形なのですね?あら、屋根の両端に金色のお魚が…。」
「それはシャチホコで御座いま〜す。」
由理子が付け加えた。




