② 不思議な娘
「全て私に任せるのなら、悪いようにはしないわ。どうする?」
その奇天烈な身なりの娘は、尚も言う。
ひょっとして、今頃になってやっと到着した、朝廷からの使者だろうか?そう思って見れば、伊賀か甲賀の忍者のようにも見える。
「良いだろう。やって見せよ!」
「…ただし、一つだけ条件があるの。」
そら来た。金品の要求か、それとも側室の座でも欲しいのか?光秀は身構えた。
「貴方は今後、"二度と明智光秀の名を名乗る事は出来なくなる"わ。でも軍師として、それなりに高い地位には就ける。それでもイイかしら?」
もう時間が無い。
光秀に選択の余地は無かった。
「相わかった。それで頼む。」
「確かに引き受けたわ。」
その娘はそう言うと同時に、イキナリ光秀の背中に抱きついた。そして、一瞬怯んだ彼の兜に手を掛けると、それを掴んで地面に放り投げたのだ。
「貴様、イキナリ何をする!?」
「しっ、静かに!」
次の瞬間、彼等の周りの茂みの中から、バラバラと追手の者たちが集まって来た。
だが不思議な事に、光秀たちには目もくれず、彼等は、しきりに兜ばかりを調べている。
「まだ近くに居るはずだ。ええい、探せ、探せ!」
やがて部隊長らしき者が指示を出し、追手たちはまた四方八方へ散って行ったのだった。
「コレは…一体…?」
「今のは光学迷彩よ。コレを使うと、周りから姿が見えなくなる…まあ魔法…ううん、忍法みたいなモノよ。」
「そう…なのか?」
実に妙な術を使う…ひょっとしてコヤツは、この山に巣食うという、アヤカシか何かなのだろうか?光秀は、にわかに怖くなって来た。
「ついでに、もう一つの忍法を披露してあげるわ。」
そう言うと、その娘は光秀に抱きついたまま、左手首に着けた腕輪を少しイジッた。
すると突然「ヴン!」という低い音がして、次の瞬間、周りの景色がすっかり変わってしまった。
そこは里山を背景にした、夕暮れ前の田園だった。
「今のは、物質の転送…瞬間移動の術よ。さっきの場所は、あの山。ざっと1000mは離れたわよ。」
その娘は、やっと光秀の背中から離れた。
「ところで貴方、敗走に次ぐ敗走で、忙しかったのは分かる…けど、そろそろお風呂に入った方がイイわね?」
娘は顔をしかめながら、そんな失礼な事を言った。
「失礼なヤツめ。」
光秀はそう言いながら、ふと傍らに目をやると、そこにはコレまた見慣れない、丸みを帯びた銀色の、牛車の様なモノが鎮座していた。
牛車とは言うものの、どこにも牛は居ない。
あまりの事に、光秀がポカンとしていると、件の娘が、その乗り物の扉を開けて案内した。
「さあ、早く乗って。グズグズしてはいられないわ。」
光秀は彼女に言われるがままに、その中の椅子に座ったのだった。




