⑬ 天草四郎
「分かりました。他国のキリスト教徒を守る、お仕事ですね?」
「まあ、簡単に言うと、そう言う事ね。」
「お引き受けします。」
「ありがとう。また、色々とアシストするから安心して…まあ、負け戦は確定してるんだけどね。」
「えっ?」
「大丈夫。ソレに関しても、歴史を改変しない程度に、対策を考えているから…。」
雪子はそれだけ言うと、センターコンソールのパネルに、次の目的地の座標を、以下のように入力した。
西暦1638年4月11日 7時00分
北緯 32度 38分
東経 130度 15分
目指すは長崎県南島原市の、落城前日の原城だ。
彼女、は時空転位装置のスイッチを入れた。
到着まで少し時間がかかりそうなので、また雪子は語り始める。
「ねえ、ジャンヌ、ちょっと後ろの席を見て。」
「えっ、…あっ!」
そこには自分ソックリの顔をした、例の人形が、もう一体、お澄まし顔で鎮座していた。
「今から行く所には、天草四郎という名の17歳の少年が居たのだけれど…どういう訳なのか、アナタにソックリな顔立ちなのよねえ。」
「えっ、そんな事が?」
「まさに運命のイタズラとしか…しかも、彼、前日に病死してるのよ。」
「それは…また…。」
「でも、籠城の最中という事もあり、士気が下がる事を恐れて、対外的には秘密にされた。だからソレを知っている者は、私を含めた、ごく僅かな側近だけなの。」
「今から私は、その彼に、成り代わりに行くのですね?」
「そうよ。理解が早くて助かるわ。そして、そのお人形も、一役買うのよ。」
二人でそんな話をしている間に、シルバーのビートルは目的地の時空に到着した。
雪子は、この現場でもまた、オルレアンの時と同様に、前乗り、及び戦闘への介入をしていたので、原城の面々とは、周知の仲であった…まあ、だからこそ、島原、天草の乱は、あれほど善戦したのだが…。
なので彼女は、光学迷彩も掛けずに、何の警戒心も無く、城内にクルマを降ろした。
バラバラと数名の者が、そこに駆け寄って来る。
「みんな、お待たせ!ご要望の代役を連れて来たわよ。」
そう言って、クルマを降りた雪子が、ジャンヌを指し示す。
「おお!」
「これは、また。」
「確かに!」
彼女を見た者たちは、口々に感嘆の声を上げた。
今や歴戦の勇士である、少女ジャンヌの凛々しい顔立ちは、江戸時代初期の、一揆の総大将たる17歳の少年として、説得力の有るモノだった。
そして何より、彼女の顔は"天草四郎に瓜二つ"であったのだ!それは、近習の誰が見ても、明らかな事であった。




