⑪ 火炙りの刑
その裁判は、言わば異例尽くしの出来レースだった。
審判には、ロクに資格も無い者も含めて、親イングランドの聖職者ばかりが立ち会い、親フランス派は締め出された。
そして彼女の発言、証言、宣誓まで、その多くは、ねじ曲げられ、捏造されて記録された。
つまり裁判とは言いながら、最初からジャンヌを処刑するつもりだったのであり、シャルル7世も、敢えてそれを容認していたのだった。
まったく、とんだ裏切り者である。
雪子は、歴史が変わっても構わないから、彼を殺してやろうかと思ったくらいだ。
やがて、運命のその日がやって来た。
1431年5月30日。
ジャンヌ・ダルクの火刑の当日である。
「何か言い遺す事は有りますか?」
うず高く積み上げられた薪の、中央の柱に括り付けられたジャンヌに向かって、死刑の執行官が尋ねる。
「有りません。私は、語るべき事は、全て済ませましたから。もしもあなた方が、信じる心、聞く耳をお持ちなら、こんな事はなさらないでしょう。」
彼女は毅然とした態度でそう答えた。
この後は薪に点火され、途中で一旦その火を消して、黒焦げになった彼女の遺体を皆に晒したら、また火をつけ直し、最後は完全に灰になるまで焼いて、その灰はセーヌ川に捨てる手筈になっていた。
その一連の流れを、もちろん雪子は把握しており、あまりの仕打ちに、ムナクソが悪くなっていたのだった。
しかし、ソレこそが雪子の狙い目だった。
今回の彼女は、まるで何処かの永遠の35歳のイケオジのように、用意周到であった。
彼女は、シルバーのビートルの、助手席に座らせておいた、とある物体を使うつもりなのだ。
まず彼女は、ジャンヌの火刑場の、ほぼ直上にクルマをホバリングさせて待機した。
地上では、今まさに、薪に点火されるところである。ジャンヌは観念したのか、泣き叫ぶ事も無く、静かに目を閉じていた。
やがて炎が大きくなった。
ご丁寧に油まで撒かれていたらしい。
それこそ、雪子の思うツボだった。
周りの炎が大きくなり、ジャンヌの姿が見物人から見えなくなった。
雪子は、光学迷彩を掛けたビートルを降下させると、助手席のブツを抱いてジャンヌの元に降りた。
もちろん、チカラを使って、周りの熱を遮断している。
「待たせたわね?」
彼女を縛りつけていた紐を切りながら、雪子が声をかける。
「きっといらっしゃると信じてました。」
何でも無い事のように言うジャンヌ。
「私が魔女でも?」
「もう、それはどうでもイイんです。」
「何故かしら?」
「普通の人間が豹変した方が、余程怖い事を学びましたから。
「あなた、若いのに聡明ね。見どころがあるわ。」
そして雪子は、ジャンヌの代わりに、担いで来た人工生体模型を柱に縛り着けた。
次に彼女は、ジャンヌの腰を抱いて舞い上がる。
そしてビートルまでたどり着くと、助手席に彼女を座らせ、ルーフをヒラリと宙返りすると、自分は運転席に向かった。
「じゃあ、離脱するわよ。」
雪子はそう言うと、クルマを出来るだけ遠くまで飛ばしたのだった。




