⑩ 奇跡の戦線復帰
「何かしら、この腹の底から湧き上がって来る高揚感は?」
ジャンヌ・ダルクは呟いた。
「その万能感のようなモノは、さっき食べた物の副作用よ。大丈夫?気持ち悪かったり、目眩がしたりしないかしら?」
雪子が心配そうに訊く。
「ええ、平気です。もうすっかり元気です。むしろ何の疲れも感じません!」
「そう、それは良かった。じゃあ早速、みんなの元へ戻ってもいいけど、首に包帯を巻いておきなさい。傷口が無い事を怪しまれるから。」
「…はい。」
彼女は素直に返事をして、直ぐにそうした。
なんてイイ子なのかしら。雪子はまた思った。そして、これから定められている彼女の運命を考えると、胸が痛んだ。
元気にテントから出て行くジャンヌに向かって、最後に雪子はこう声をかけた。
「いくら不老不死とは言え、怪我をすれば痛いし、活動を続ければ疲れるのよ。無理は禁物。くれぐれも気をつけてね。」
「ハイ。」
彼女は短く返事をして、出て行った。
怪我をおして、前線に復帰して来た、そんなジャンヌの姿に、ますます攻略軍の指揮は上がり、その勢いのまま、翌日には、砦を陥落させてしまった。
この戦いに関しては、最早、真田姉妹のアシストは必要無かった。彼女たちは、とうとう自力で、イングランド軍を、オルレアンから退けたのである。
後の戦いの数々は、歴史書に詳しく有るので、ここでの描写は省略する。彼女はたくさんの戦友や上官の命を助け、立案した作戦を次々に成功させた。
ただ、これまでと同様に、その要所、要所で、真田姉妹のアシストが有った事だけは、記しておこう。
そしてついに、ジャンヌ・ダルクが見守る中、1429年7月17日の朝に、ランス大聖堂で、シャルル7世は戴冠式を無事に澄ませ、正式にフランス国王となったのである。
しかし、コレにて、めでたし、めでたし…とはならなかった事は、皆さんがご存じの通りである。
その後も、前線で戦い続けたジャンヌ・ダルクは、とある戦いで味方を撤退させるために"しんがり"を務め、その時また、敵の矢を受けて、馬から落ちた所を捕まってしまったのだった。
そして、彼女の身柄はイングランドに引き渡され、イギリス占領統治府があるルーアンにて、異端審問裁判にかけられた。
それは恐らく、彼女のチカラが強過ぎたため、イングランドとの和平が成った暁には、シャルル7世にとってその存在感が疎ましく思われ、見殺しにされたせいだと言われている。
彼女と苦楽を共にした戦友や上官たちは、もちろん身代金を支払った上での、その身柄の引き渡しを願ったが、肝心の王様が首を縦に振らない事には、どうにもならなかったのだ。




